【前書いた樂リヒから続いてるかもしんない】



その鳴き方が、少しばかり。

思わず喉元に牙を突き立てた。
「…ッ、あ…。」
びくんと震えた喉から声が零れる。だいぶけだるい音になってきたそれに、樂は口端を歪めた。
長い髪をひっつかんで、無理矢理こちらを向かせると金の目が樂を映す。その虚ろさに満足しながら、樂はリヒルトの唇へ噛みついた。
「っん、んッ…!」
それでも。それでも尚苦しげな響きが混ざるその鳴き方が。
少しばかり、癪に障った。…樂がにぃと口端を釣り上げる。全く笑っていない目で。
「…てめーなァ、」
「ッッぅあ!?」
突然中を大きく動かされ、リヒルトが大きく背を反らす。
踏みにじるかのように奥へ奥へと突き入れて、歪む眉根を嘲笑う。
「俺様にこんなたっぷり抱かれてんだから、もっとヨさそうにしろよ。」
半分冗談半分本気。ふざけた口調と裏腹に視線は随分と冷えていた。
どんな生娘だって5、6回イかせてやれば売女に堕ちる。自分のテク云々は関係なく、樂の常識ではそういうものだ。快楽というのは。味を知れば知らない頃には戻れない。それ無しじゃもう生きられない。このいかにも真面目そーなお坊ちゃんがジャンキー化する様が見てみたかったのに。
「ッあ゛ぁ…あ…ッ」
身体は異物を拒むように震えていて。
目の色は欲しがるどころか、はっきりと怯えを映していて。
鳴く声は苦しそう、で。

その鳴き方が少しばかり、癪。

気がつくと樂の指がリヒルトの喉へ、絡みついていた。
「……ッ!?」
「…やだねぇ、その鳴き方。」
樂が笑む。ふざけた口調と裏腹、視線はまるで冷や水のよう。
少しばかり。少しばかり?ふつふつと沸き上がる不快感。
堕落しないお綺麗な羽根を幻視した。ああ馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しいぐらい別世界<ファンタジー>だ。
いかにも純情そうな。いかにも汚れを知らなそうな。いかにも小綺麗でまともそうな。
鳴き方が、
少しばかり。
指先に力が籠った。
「後からレイプだなんだって通報されても困るしー…?」
上っ面の言い訳をつらりつらり。
「面倒蒔かれる前に黙らせちまうのもアリ、かな?」
見開いた金色が、
不意に細まった。


「ころすのか?」


――思わず息が止まるほどに、
ひどくひんやりした声が耳へ染みた。
びくり、と樂がリヒルトを見ると、目が合った。酸素不足にぼうっとした目、のくせしてしっかりと、樂を見据えている。
光もない目で、見ている。
「…っなん、」
だよ、と言い終わる前に。

リヒルトが小さく、笑んだ。

全身が総毛立つ笑みだった。
ありふれた柔らかい微笑。あまりにも状況と合わなさ過ぎる。
「……ッ!」
樂はリヒルトの髪をひっつかむ。そのまま乱暴に奥を突き挿した。
「ッあ…!」
あれだけ苛立った鳴き声に逆に安堵する。
なんだ。なんだってんだよ、さっきの笑みは。乱暴に突いて突いて突きまくって。溢れる拙い鳴き声に、ああやっぱりただのガキだと安堵した。
そう、ただのガキだ。
汚れも暗がりも知らないぬるま湯づかりなただのガキだ。

――『ころすのか?』

気のせいだ。
一瞬垣間見えた、自分も知らない程の暗さと冷たさ。





蜥 蜴 の



(そのめはあまいみつでもみるような)

fin.