「源とみたての魔導力技術概論」

 

「さて、今回はみたての疑問に答える時間だな。

取り敢えずは前回の疑問でもあった『魔導力発電』、そして絶対空間関連の

『オートプレパレーション』や『パーソナルフィールド』、

『機体工房(アトリエ)』についての解説を進めて行くとしよう。」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

「まずは魔導力発電に関してだが…原理を説明すると長くなる。

要は太陽電池と似たようなシステムだと思ってくれれば良い。

『エレクターメタル』という特殊な合金に励起した魔導力を干渉させると、

安定した直流の電力を得ることが可能になるのだよ。

そして、これに干渉させる安定した魔導力を供給するのが

『顕在化アルケメタル』になる。」

 

「『顕在化』、つまり…召喚を介さずとも存在できているってことでしたっけ?」

 

「うむ、このアルケメタルは構造や強度などは通常のアルケメタルと

変わらないのだが、稀有な特性として常時周囲の魔導力を吸収、

励起状態にさせつつ周囲に放出するという能力を持っている。

では、どうやってこれが出来るかは知っているか?」

 

「…誰かが機体で作る、とか?」

 

「そんな芸当が出来るのはお前の師匠だけだ。

一般の機体では特化されていない限り召喚型アルケメタル純結晶の展開で

すらアタックモード級の出力を必要とする。増して顕在型アルケメタルを

作るならばそこから更に数十倍の魔導力が必要になるだろう。」

 

「でも精製にそこまで膨大な魔導力が必要なら、今発電に使われている

顕在化アルケメタルはどうやって手に入れているんですか?」

 

「これが不思議な所なのだが…自然界においては意外と簡単に結晶化する

らしいのだ。尤もこれは人工精製の場合と比較しての話で、決して発見例が

多いわけでは無い。ヒトが精製しようとする場合の強固な意志が、

アルケメタルの顕在化を妨げているのではないかと考えられている。」

 

「自然界で生成されるスピードは分かっていたりするんですか?」

 

「ふむ、例えば現在藍水ヶ原の要となっているセントラルプラントで用いられ

ている顕在化アルケメタルのサイズがおよそ高さ60pほどなのだが、これが自然界で形成されるまでの時間は「数十秒から数百年」とされている。」

 

「・・・へ!?」

 

「つまり、一定の規則性は存在しないということだ。条件自体はもはや

カオス理論の領域にあるから解明は不可能とされているが、

その『条件』さえ揃えば四十pサイズの結晶なら数十秒で形成される。

そしてどうやらこの藍水ヶ原はその『条件』が比較的満たされやすい地域

らしくてな、故に都市計画の際にも自然環境への影響を出来るだけ

減らすような配慮がなされていたらしい。」

 

「…つくづく不思議な物質なんですね、魔導力も、アルケメタルも。」

 

「だな。では、そろそろ次に移ろう。次は『絶対空間』についてだが、

初めに言っておくと、これも現在正確な正体がつかめている訳では無い。

しかし、絶対空間発生時に発生する魔導力の濃度や拡散状況から推測するに、

現実空間の『隙間』に魔導力が入り込んで展開された空間と言うのが

通説になっている。」

 

「と、いう事は『オートプレパレーション』はそれを人工的に発生させているんですね。」

 

「うむ、この『オートプレパレーション』は現在ほとんどの大都市で運用

されているシステムであり、機士が一般人と一緒に暮らす為には必要不可欠な

システムでもある。そして、その発生原理は機体召喚時に発生する固有の

魔導力の励起波形を、街の至る所に設置されているセンサーが感知し、

周囲地形の解析を行なうと同時に機体の召喚に割り込んで

空間を展開させているのだ。

なお、絶対空間の構成は機体召喚地点から半径200m以内の地形を

無限展開するように設定されている。」

 

「でも、その『設定』は一体どうやっているんですか?

流体である魔導力にプログラミングなんて無理な気がしますけど。」

 

「プログラミングは魔導力自体にではなく、顕在化アルケメタルに行なわれる。

そして、これには先穂解説した顕在化アルケメタルが持つ特性の一つ

『プリンティング』が大きく関わってくるのだよ。」

 

「『プリンティング』…。」

 

「先ほどは言わなかったが、自然界で自然に形成されたアルケメタルは様々な

『意志』が混ざり合うことで、却って『意志の平衡化』の状態にある。

そこに特定の『意志』を一定期間与えることによって。アルケメタルに

特定の現象を起こすためのプログラミングを行なう事が可能になるのだ。

藍水ヶ原ではオートプレパレーションはルートプラントの顕在化アルケメタル

に組み込んでカバーしている。セントラルプラントの顕在化アルケメタルに

プリンティングした方がその規模から考えると効率的にも思えるが、

あちらは安定した発電を行なうために特殊なプログラムを既に

組み込まれているからな。更に言えば大会時に用いられる公式フィールドも、

会場に設置されている顕在化アルケメタルとスタッフの努力によって

構成されているのだ。」

 

「なるほど、顕在化アルケメタルはそんな便利なことも出来たのですか・・・。」

 

「…しかし、このプリンティングには一つ欠点が存在している。

それが『消耗の発生』だ。通常自然状態では顕在化アルケメタルは消耗する

ことは無い。しかし、プリンティングされた顕在化アルケメタルは

『意志の不均衡』の状態にある影響か、『プログラミング』を行使できない期間

が長期間続くと一気に昇華が進み消滅してしまうのだよ。

藍水ヶ原で行なわれている街を挙げてのナイトデュエル大会は

オートプレパレーションシステムを守るためでもある、という事だな。

もっとも日常的にナイトデュエルが行なわれているこの街では

無用な心配かもしれないが。」

 

「・・・ふむ、今の話から考えてみるに…もしかしてオートプレパレーションに比べて、

『パーソナルフィールド』はとても簡単な仕組みなんですかね?」

 

「うむ、その通り。機士自身によって展開される絶対空間、

パーソナルフィールド。これは機士が機体を召喚するのと同じように

展開できるもので、小難しい理論など無くとも、熟練の機士ならば

感覚的に形成することが可能となる。そして、プリンティングによって

形成される絶対空間と異なり

こちらは基本的に機士以外立ち入れない空間になっているのだよ。

また、工房やダンジョンなどと同じように、

時間の流れが極めて遅いのも特徴だ

自身が生み出す空間であるが故に自分にとって有利な戦闘フィールドを

作る事も可能だが…下手をすると自身の心の深層をさらけ出すことにも

なるから無暗に展開しない方が良い、と私は考えるがな。」

 

「わたしのフィールドは今どんな感じになっているのでしょう・・・?」

 

「今度試してみるか?」

 

「…まだ遠慮しておきマス…。」

 

「そして、このパーソナルフィールドと似た構成を持つのが工房(アトリエ)だ。

こちらは言わばヒトの内面世界とも言える場所、

お前も使ったことがあるだろう?」

 

「はい、機体の挙動の確認とかをよくやってます。

でも、アトリエにいる間って私の体はどうなっているんですか?

まさか…その場に立ったままとか…。」

 

「あぁ、知らなかったか。案ずるな、アトリエには機士の体ごと移動する。

『精神世界に体を持ったまま入る』というのが、矛盾しているようで

最も正しい表現だとされている。そして、知っての通りアトリエ内部では

自身の機体の改造やチューニングとか諸々の事、そして実際の挙動を

自分自身で見ることも可能だ。」

 

「自分の『思った通り』に本当に機体が動いているのか確認できるから、

本当に便利なんですよね〜♪」

 

「さらに、この中では先ほど言った通り時間の進み方が通常よりも遅い。

…というか、正しくは『頭の中での処理速度』が基本時間になるわけだからな、

一時間ほどいても現実では十分も過ぎていないなんてことはよくある。

…さて、ここで質問だ。この非常に便利な工房だが、此処に『外部』からの

客人を招き入れることは出来ると思うか?」

 

「…それって『自分の精神の中に直接他者を介入させる』ってことですよね?

とても危険だし、無理だと思います…。」

 

「そうか…。」

 

「…ってなんでトリガーを展開してるんですか?」

 

「実演して見せよう。トリガーに触れてくれ。行くぞ?」

 

「… … ここが、ミナモさんのアトリエ…?すごく不思議な場所…って、

それより他人を入れても大丈夫なんですか!?」

 

「うむ、言わばここは精神の中の隔絶された部屋のような場所なのだ。

お前が特に悪意を持って、この空間で派手に暴れまわったりしない限りは

大丈夫だろう。では戻るとしよう。」

 

 

・・・

 

 

「…どうした」

 

「ミナモさん、頭が少しクラクラするんですけど…。」

 

「それは仕方ないだろうな。個人によって工房内に流れる『時間』は異なる。

少し工房内の『時間』の流れに酔ってしまったのだろう。何、5分もすれば治る。

では、今日は此処までにしよう。しばらく横になっておくと良い。」

 

「…はい。ありがとうございました〜…。」