『源とみたての魔導力技術発展史』

 

「さて、今回はこの前話したような魔導力技術が

どのように進歩を遂げて来たのか、という話になる。」

 

「今日もよろしくお願いします!」

 

「では早速話に移るが、人間による魔導力の使用に関する技術に関しては

主に三つの時代に大別できる。

最初の時代は『奇跡の時代』、現在より800年以上前の時代を指す。

まだ『魔導力』という力が何なのか全く把握されておらず、単なる奇跡の

一種と認識されていた。また各種文献から、この時代において魔導力を

行使し機体を召喚できる人間、つまり機士はそれだけで社会における

一定の地位を獲得しており、それ故にこの時代の社会の統率者は

全て機士だったのだよ。」

 

「支配者階級が機士ってことは、

当然領地争いとかもナイトデュエルで行なわれていたんですか?」

 

「うむ。しかしそれ故にこの時代が『平和』だったのも事実だ。

確認されている最古の史料が語るには、この時代の争いは支配者同士による

一騎討ちで決まっていたらしいからな。恐らくパーソナルフィールドを

展開できたであろうから、現実空間への被害はほぼ無いに等しい。

人口も少なく、機士も少なかったこの時代においては、

この方法が最も賢いやり方だったのだろう」

 

「つまり、人口が増えて機士も多くなるにつれ変化して行くのですか…。」

 

「うむ、そして続く第二の時代が『儀式の時代』。現在より800年ほど前に

始まる時代であり、魔導力を魔法としてその『制御』に人間が踏み出した

時代でもある。この『儀式』は地域の差こそあれ人間の感情を使用して

執り行なう物であり、魔導力制御や機士の素養の発現においてかなりの

研究成果をもたらすモノだった。『魔導力』という用語もこの時期に

発明されたとされている。」

 

「今に繋がる技術の基礎がその頃に生まれたんですね。」

 

「…だが、この時代は魔導力制御の発達という光と同時に『影』も

多い時代だ。残された文献などからはこれらの儀式は対象者への精神的・

肉体的負荷が異様に大きく、儀式の犠牲者も多く出現していたことが伺える。

更にこの時代には技術の体系化に伴い多くの非人道的な実験も行われていた。

特に機士大戦の最中に起こった『フランゼバルドの惨劇』は

その中でも屈指の物となる。」

 

「『フランゼバルドの惨劇』…」

 

「機士大戦も終盤の頃、カルミーネィト帝国軍とセールリアン皇軍の

一大決戦が行なわれたフランゼバルド平原。ここにおいてカルミーネィト

帝国は過度の薬剤投与や複数回の『儀式』などによって強化した機士数名を

決戦兵器として戦場へと繰り出させた。

・・・だがその機士たちは機体を召喚した直後に暴走、

敵味方構わず戦場の八割以上の人の命を奪い、

召喚が解けた彼らもむごたらしい死にかたをしたと言う。

 

その時の様子を記した物がある・・・

 

 

『戦士の顔を濡らしていたのは、

今や彼の敵の血では無かった

体からは血と体液とが混ざりあってしたたり、

湯気を立て、皮膚の上でいびつな斑模様を描く

最早体を構成する部位はその形をとどめず、

歩こうと踏み出せば足が根元まで潰れるのだ!

身体を引きずろうと手を伸ばせば、

無残にも皮膚が大地に引きちぎられるのだ!

誰が彼にこのむごたらしい試練を与えたのか

そして私の目の前で一人の戦士は

 

爆ぜた

唯の血だまりになった

ヒトの声で叫びながら・・・』

 

 

 

「……。」

 

「そう泣きそうな顔をするな…。

そして、この機士大戦それに続く災厄『焔禍の咢』を持って儀式の時代は

終わりを告げる。また先のような大戦中の研究資料は『焔禍の咢』に

よって悉く焼却されてしまっており、殆ど残っていないのが救いだな。

一応、『機士大戦』の概要は後で軽く紙にまとめておこう。

気が向いたら読んでみてくれ。」

 

「…ぐす、はい・・・。」

 

「そして、この儀式の時代における恐怖を払拭し、新たな段階へと高めた

時代が現在であり、今から114年前の『リアクターメタル』の発見を

契機として「技術の時代」と呼称されている。

この魔導力の活性に同調し一定の振動を生み出すリアクターメタル(発振合

)が、大陸の学者フライハート=トーソッテンによって発見された事で、

『魔導力』という存在の解析が大きく進む事となるのだが、

ここからの進歩は正に日進月歩のスピードだった。まずその五年後には

グンピョウ=モガリによって物質としての魔導力が感情を触媒として、

また自らも触媒の様に振る舞い本質的には変化を生じない物質である可能性

が指摘され、カルボ=シュミヤキーによって機体がこちら側の世界ではない

異世界から呼び出される存在であるとの仮説が提唱、同時に特殊空間

「絶対空間」の存在にも言及がなされた。そして同時に機士の一部や機体が

その空間を生み出せる事に注目が集まる。更に3年後には機体を構成する

特殊金属『アルケメタル』について自身も機士であるディオ=マウント氏が

その特性についての研究論文を発表している。

更にそこから八年後には先に説明した合金『エレクター・メタル(発電合金)

が共同研究の中で発明され、魔導力を動力として電力を生み出し、

電力へと変換する魔導力炉の試案が形成される。

だが、ここで安定して魔導力を供給できる素材という暗礁に乗り上げ、

魔導力炉の研究は一時期停滞してしまったんだ。」

 

「それ故にミナバラ=アオイ女史によって70年前に発表された、

顕在化アルケメタルの特性と魔導力炉の構成に研究者達は非常に驚いた。」

 

「そして、ほぼそれと同時期に始まった藍水ヶ原における

『魔導力都市計画』の実証実験の成果から全世界的に魔導力プラントの

設置が進行、現在では世界のエネルギー需要の殆どを魔導力プラントが

担うまでになった。また、藍水ヶ原では『オートプレパレーションシステム』

が導入、実用に耐えうる成果を上げたことで一般人の機士への偏見を限りなく

ゼロにすることにも繋がっているのだよ。

尤も、コレも『ツァーナフェルマー』がいてくれたからこそ

機士大戦でのマイナスイメージを払拭できている面は多いのだがな」

 

 

「…今回は少し怖い話が多かったな…此処までにしよう。」

 

「ぅう…ありがとうございます…。」

 

 

 

 

 

 

 

:備考

『機士大戦』:

今より200年ほどを前を契機に散発的に世界中で始まった国家間の小競り合いが、

同盟や協力体制などからやがて世界を二分する大戦へと変化、

最終的には連合勢力となったカルミーネィト皇国軍と地力の強さから周辺や

様々な地域を支配下に置いたセールリアン帝国軍との戦争の形態となった。

また、機士を戦力として積極的に前線に送り出した戦争である一方で、

絶対空間の展開などは考慮されず、結果として現実世界に甚大な被害を残した。

310メートル級の機体とはいえその出力は膨大。地形の様相を変えてしまうなど

日常茶飯事であった。この戦争は結局、多くを失っただけの『人類史上最大の愚行』と

なり、そして世界最大の災厄『焔禍の咢』の出現によって、

勝者の無いまま終わりを迎える事となる。