第9話 手と手を差し伸べ合って


「起きなよ。授業もう終わったよ」

 授業が終わり、皆が放課後に向かう喧騒の中で。
 机に突っ伏した翼を、明菜が揺り起こしている。

「ん……、んう……」

 曖昧な返事をしながら、翼が顔を上げる。

「ああ、寝ちゃってたんだ……」

 寝ぼけ眼をこすりながら、翼は明菜に目をやる。

「夜更かしでもしたの?」

「んー、ちょっとデュエルのシミュレートに熱中しちゃって……」

「シミュレート?」

「うん。PDAとデュエルディスクを繋げばできるんだけど。
 いろんなデュエリストとの対戦を再現できるんだ。
 あの武藤遊戯さんとか海馬瀬人さんに、万丈目先輩とかとも対戦できるんだよ!
 さすがにプロのプレイングを完全再現とまではいかないけど」

「すごいね! そんな機能があるんだ!!
 でも、授業中寝ちゃうほど、やり込まなくても……」

「いやー、連勝すれば、購買でも使えるポイントが貰えるんだ。
 すごく欲しいカードがあって、昨日でやっと溜まって交換したんだよ!」

 翼が1枚のカードをかざす。

《希望の羽根》
【魔法カード・速攻】
自分の墓地に存在する光属性・鳥獣族モンスター1体を
ゲームから除外して、発動する。
このターンのバトルフェイズを終了させ、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「これ、翼もう持ってなかったっけ?」

「ああ。でも2枚だけだったんだ。これで3枚揃ったんだよ。
 3枚入れるのはバランスが厳しいかもしれないけど、やっぱり欲しかったんだ」

「でも、使う人がたくさんいて、すぐ売り切れるようなカードでもないよね。
 そんなに急ぐ必要もなかったんじゃない?」

「なんだかじっとしてられなくてさ。
 少しでもデュエルしていたかったんだ」

 熱中していたときの高鳴りを思い出したのか。
 翼の目が爛々としてきた。
 眠気は吹き飛んでいったようだ。
 しかし、その翼を明菜は心配げに見つめる。

「……斗賀乃先生とのデュエルのこと、やっぱり気になるの」

「気にならないはずはないよ。
 だから、もっと強くならなくちゃって思う」

「まぁ気にしないっていうのも無理だよね……。
 でも、頑張るのはいいけど、無理にならないようにね。
 疲れが響いたら、デュエルだって身につかないよ」

「大丈夫だよ。やればやっただけ、きっと覚える。
 デュエルで身体を痛めたりすることなんてないし……」

「そうでもないよ。
 『フリークス・バスターズ』の活動のデュエル。
 気を入れられないと、危ないことになりかねないよ」

「それは……、確かにそうだね」

 痛いところを突かれたと、翼は指で頬を掻いた。

「うん。確かにそうだ。
 そわそわはするけど、ほどほどにしないといけないね」

「でも、あの人たちはデュエルエナジーを集めているらしいけど、何をするつもりなんだろう」

「分からない。
 精霊の力を使えば、いろんなことができるだけど。
 やれるとすれば、逆に何をするか想像がつかないなぁ」

「例えば、どんなことができるの?」

「簡単に言えば、デュエルモンスターの能力が使えるんだ。
 俺のカードで言えば、アクイラで風を起こすことができる。
 アクシピターで炎を放つこともできるよ。
 ソリッドビジョンの攻撃や特殊能力を現実に使えると思えばいいのかな」

「……それってすごいことじゃない?」

 明菜が眼を丸くして尋ねるが、対照的に翼は平然としている。

「自由に使えればそうなんだけどね。
 実際はそうそう使えるわけじゃないんだ。
 力を使うには、まず『カードの精霊』がいなくちゃいけない。
 そして、さらに『精霊の空気』が必要になるんだよ」

「『精霊の空気』って?」

「『カードの精霊』のエネルギー源みたいなものだよ。
 これを使って、精霊が存在しているんだよ。
 精霊にどこかから少しずつ送られているみたいだけど、
 何か現象を起こせるほどの『精霊の空気』を持っている精霊はまずいない。
 無理に現象を起こさせれば、精霊はいなくなっちゃうんだ」

「だから、翼は力を使ったりしないんだね」

「うん。俺は精霊を傷つけたくない。
 藤原さんの《オネスト》みたいに特別な力の精霊もいないし」

「でも、じゃあデュエルエナジーがあれば、力を使えるの?」

「可能……だと思う。
 デュエル中に精霊たちが喜んでいるのを感じるけど、
 あれは一緒にデュエルできてるから嬉しいだけじゃない。
 エネルギー源にもなるデュエルエナジーを感じているからなんだ。
 だから、俺もデュエルが加熱したなら、少しは現象を起こせるかもね」

「じゃあそれを溜めていけば、何か奇跡を起こすことだって……」

「できるかもしれない。
 けど、エナジーを蓄える方法とかは分からない。
 それに人から奪ったエナジーで精霊の力を利用するのは良くないよ。
 だから、俺は早くあいつらを止めたいんだ」

「うん……、そうだよね……」

 明菜は思いつめたような顔をした。
 しかし、すぐに思い直したように、話題を打ち切った。

「そういえば、藤原先輩が放課後に廃寮集合って言ってたけど、行く?」

「うん、行くよ。
 アカデミアの島はほとんど探検したんだけど、
 あそこは扉が開かなくて入れなかったんだ。
 面白そうだし、行くよ!
 そろそろ時間だし、向かおうかな。
 明菜は?」

「あたしは、ちょっと用事があって行けないんだ。
 レイちゃんには伝えてあるけど、翼からも伝えておいて」

「そっか。じゃあ、もう少ししたら行こうかな」

「うーん、そうだね。
 でも多分、急いで行ってあげた方がいいと思う」

「ん? 時間に間に合えばいいだけじゃないの?」

「いや、レイちゃん一人で行かせるとまずいと思う」

「どうして?」

 首をかしげる翼に、明菜が諭す。

「だって、あの廃寮はたくさん怪談話がある場所だよ。
 多分、乙女なレイちゃんだときっと……」





 扉を開けると、――そこには闇が立ち込めていた。
 今にも壊れそうな脆い空間。
 だというのに、闇だけはここを愛して離れない。
 空っぽの何もない空間のはず。
 なのに、ここには闇が隙間なく存在している。
 肌を撫でていく風は、生温く感じられる。
 建物の軋みは、誰かの嘆きに聴こえる。
 濃密な暗がりは、呼吸を潜める動物を思わせる。
 
 ここはアカデミアの最果て、忘れ去られた『廃寮』。
 かつてこの施設はオベリスクブルーの中でも飛びぬけて優れた生徒を招いていた。
 それがいつしか、歪んだ研究の拠点へと成り果てた。
 錬金術師は工房を求める。
 工房は隔絶された空間でなければならない。
 工房は優れた素材の収集に長けるべきである。
 その条件に、この寮は見事なまでに合致していた。
 虚無の力の果て(ダークネス)に至る実験に用いられたこの場所。
 主も被験者もいなくなったこの場所で、闇だけが名残惜しそうに立ち込めている。

 赤絨毯の先のフロアから、静かに足音が響いてくる。
 一定間隔で歩み寄る足音は、極めて紳士的な響きである。
 その者は闇たちの主であるかのように、来客を認め気品を持って迎える。
 待ちわびたように、喜悦の笑みを口元に湛えながら。
 待ちわびたように、血走った眼は爬虫類のごとく正円を象りながら。
 待ちわびたように、両腕を構えるごとく広げて打ち振るわせながら。

「ようこそ! ダークネスの世界へ!」

 闇の主――藤原優介――は万感の想いを以って、歓迎の意を告げた。

「いやあああああああああああああ!」

 来客――早乙女レイ――は全力の悲鳴を以って、拒絶の意を表明した。





「……す、すまなかった。どうにも懐かしい気分になってしまって、ついあんな素振りを……」

 藤原はかがみこんで、今も震えるレイに必死に弁明していた。
 その周囲を天使達のソリッドビジョンが囲んでいる。
 藤原なりの廃寮を明るく照らそうとする努力らしい。
 《天空騎士パーシアス》や《ヒステリック天使》が心配そうに見守っている。
 《阿修羅》は困ったものだと腕をすくめ、《きまぐれの女神》はあくびをしている。
 そして、藤原の精霊《オネスト》は腕組みをして、冷ややかな目線を送っている。

「つ、翼くんを励ますって話だから、怖いけど来たのに……。
 あんなの酷いよ……」

 『あんなの』と言いながら、レイの脳裏に藤原の恐ろしい表情が浮かぶ。
 ただでさえ闇の濃密な気配に満たされた廃寮であるのに。
 乙女を怖がらせる要素に事欠かない場所だというのに。
 さらに全力でダークネスモードの藤原がいては、怖いに決まっているのだ。
 
「本当にすまない。早く着きすぎて、気がつけば少し入れ込みすぎたようだ。
 ん? そういえば、陽向居も一緒に来るんじゃなかったのか?」

「うーん、連絡したんだけど、ちょっとはずせない用事があるみたい。
 どんな用事かってちらっと聞いたけど、はぐらかされちゃった。
 明菜ちゃん何でも話してくれるから、少し珍しいけれど。
 けど、翼くん以外でそういう話は見えないのになぁ……」

「そうか。まぁそれでも予定には変更はないか」

「そもそも、こんなとこで何をどう励ますの!
 ただの凶悪な心霊スポットだよ、こんなところ!
 それにダークネス事件で閉鎖されてたはずなのに、どうして開くの!」

「いや、鍵は持っている。
 まぁなくても、僕が呼びかければ開くよ。
 僕とこの寮はつながっているから」

「やめてやめてやめて!
 これ以上この建物をオカルトめかさないで!」

「オカルトも何も、ここは本当に霊脈の中心というべきれっきとした神域だよ。
 元から神霊が集まりやすいように出来ているんだ。
 そこが打ち捨てられ、忌まれて、遠ざけられたから、
 悪い霊や闇の温床になっているだけだ。
 ここは元から地脈の通った生き物のようなものなんだ。
 こんな風に育て上げてしまったのは、アカデミアの僕らだよ。
 それをこの場所が悪いようにいうのは、お門違いな話になってしまうな」

「だから、順序だててオカルト説明しないで!
 何でそんなこと分かるの、もう〜〜」

「かつて僕はここで闇の実験の被験者として教え込まれたからね。
 それに僕には精霊の波長が見えるから、そういう思念が伝わって来るんだ」

「うう……、もうここがたくさん怖い場所なのは分かったから……。
 翼くんをどう励ますのかだけ教えて……」

 レイは怖がり疲れて、やっとのことで問いかける。

「そうだな。僕は本をいくつか読んで、いろいろ考えたんだ」

 レイは『励ます方法を考えるのに、いちいち本を読まなくてもいいよ』という
 突っ込みを飲み込んで、藤原の語りに耳を傾ける。

「けれど、最後までいい方法は思いつかなかった。
 上手くいくかどうかは、どれも可能性の話でしかない。
 それに結局は久白が何かを見出していくしかないんだ。
 僕らはそのきっかけになり得ることを示すしかない。
 だから、僕が今できることは……」

 藤原は安置したディスクを拾い上げ、腕に装着しなおした。
 そして辺りを見渡して、何かを確かめ合うように頷いた。

「僕の場所で、僕らしいデュエルを久白に示す。
 そこで僕から何かを見出してもらう、率直にデュエルするだけだ。
 でも、ただそれだけじゃあ、ちょっと派手さにかけてしまう。
 だから用意した、僕だけの仕掛けがこれだよ」

 藤原は施設の中心に立ち、静かに深呼吸をする。
 階段を客席に見立てて向き合い、指揮者のように両腕を前に差し出した。
 そして、――クン、と右手で握りこぶしを作った。
 すると廃寮は揺れ、凄まじい音が響き渡った。
 ――藤原が指揮しただけで、寮のどこかが壊れたようだ。

「言っただろう。僕とこの寮はつながっている。
 生かすのも殺すのも、僕の指揮で決められるんだ。
 この寮の取り壊し許可は、ずっと前から得ているんだ。
 そして、この場所ももう終わりを望んでいる。
 だから、華々しいデュエルで、フィナーレを彩ってやろうと思う。
 闇と崩壊の織り成す祭典デュエル。
 ――これが僕の用意したアトラクションだよ」

 藤原は陶然と悪趣味なショーの開演を語った。
 レイは本気でその場から逃げ出したくなった。
 
「藤原さん! 来たよ!
 ここ気になってたんだけど、ずっと入れなかったんだー。
 それで、ここで何をするの?」

 しかし、翼は来た。
 レイは二人だけで残すのも怖いので、何とか見守ることにした。

「久白、僕とデュエルをしよう。
 僕にダメージを与えてみてくれ。
 きっと君を驚かせてやろう」

「デュエル? いいよ。
 藤原さん強いって評判だから、一度はデュエルしてみたかったんだ!」

 翼は平然と楽しそうにしていた。
 しかし、それは虚勢にも感じられた。
 強さを『(よろ)う』ことで、壊れないように守るように。
 いつも通りの楽しさへと勢い付けて、綻びを誤魔化している。
 心の奥底の楔は、今も斗賀乃が突き刺したままだ。
 斗賀乃が何かを差し向ける前にも。
 時折覗かせる翼の不安げな影を、薄めてあげたかった。
 焦らなくても、有りのままの強さでも大丈夫なことを。
 かつて道を違えた藤原だからこそ、翼の奥底の焦燥を和らげたかった。

「よし、じゃあ始めようか」

 藤原は照明用のモンスターを片付けて、デッキをシャッフルする。

「わっ、暗くなっちゃった!
 来て! 僕のミスティックモンスター!
 ナイト、ドラゴン、マジシャン、ニンフ、エッグ!!
 この場所を照らしてよ〜」

 灯りがなくなり、レイは慌てて自分のモンスターをセットする。
 その仕草に翼は少しだけ愉快な気分になった。

「うん、やろう!」

「 「 デ ュ エ ル !! 」 」


翼 VS 藤原


「先攻は俺からだね、ドロー!」

 昨晩シミュレートで修練を積んできた翼。
 コンボをすらすら思い浮かべ、手早くカードをディスクに差し込む。

「俺は《英鳥ノクトゥア》を召喚する!
 その効果でデッキから《輝鳥現界》を手札に加えるよ!」

《英鳥ノクトゥア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。
ATK/ 800 DEF/ 400

「さらにリバースを3枚セットして、ターンエンドだ!」

「ふむ……」

「3枚も伏せるなんて、珍しい戦術……」

 藤原もレイも翼の戦術に驚きを示す。
 《輝鳥-アエル・アクイラ》を切り札として愛用する翼。
 アクイラは儀式召喚時にフィールド上の魔法・罠をすべて破壊する効果を持つ。
 自分のカードが巻き込まれないために、翼の罠の投入枚数は少なめである。
 そのため逆に言えば、翼の罠のほとんどが迎撃やコンボに繋がる強力なものだ。

「なら、僕のターンだ、ドロー」

 攻撃力の低いノクトゥアが攻撃表示ならば、迎撃の罠も確実にあるはず。
 しかし、放置しておくのも、得策とは言えない。
 適切な手を吟味して、藤原はフィールドを見据える。

「僕は《ジェルエンデュオ》を召喚する」

 双子のハート形天使のモンスターが姿を現す。

《ジェルエンデュオ》 []
★★★★
【天使族・効果】
このカードは戦闘では破壊されない。
このカードのコントローラーがダメージを受けた時、
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを破壊する。
天使族・光属性モンスターを生け贄召喚する場合、
このカードは2体分の生け贄とする事ができる。
ATK/1700 DEF/ 0

「《ジェルエンデュオ》で攻撃を仕掛ける!」

 《ジェルエンデュオ》には戦闘耐性がある。
 故に相手の迎撃カードを誘いやすい。
 様子見としては、確かにうってつけのモンスターと言える。
 ほわほわと飛んで、翼に攻撃しようと向かっていく。

「リバース発動! 《ゴッドバードアタック》!!」

 ――瞬間、ノクトゥアは火の鳥へと姿を変化させた。
 エネルギーの塊となったノクトゥアが貫くものは――。

「《ジェルエンデュオ》と、俺のリバースの1枚を破壊するよ!」

《ゴッドバードアタック》
【罠カード】
自分フィールド上に存在する鳥獣族モンスター1体を生け贄に捧げて、
フィールド上に存在するカード2枚を選択して発動する。
選択したカードを破壊する。

「《ゴッドバードアタック》は2枚を指定して発動しなければならない。
 自分のカードを破壊してまで……。
 いや、そういうわけでもなさそうだな。
 それにしては、ずいぶん余裕そうな表情をしている」

「バレバレかな。
 選んだリバースを続けて発動するよ!
 《八汰烏の骸》! カードを1枚ドローだ」

《八汰烏の骸》
【罠カード】
次の効果から1つを選択して発動する。
●自分のデッキからカードを1枚ドローする。
●相手フィールド上にスピリットモンスターが
 表側表示で存在する時に発動することができる。
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 効果発動済みの罠を破壊することで、損失を補うコンボ。
 序盤の回転を早めるには悪くない一手。
 そして、飛翔する火弾は骸を破壊し、《ジェルエンデュオ》へと向かう。

「なるほど荒っぽいが、面白いコンボだ。
 しかし……」

 ――瞬間、《ジェルエンデュオ》の姿が消える。
 火の鳥の生命を燃やした一撃は空を切った。

「《神秘の中華なべ》をチェーンして発動。
 破壊前に《ジェルエンデュオ》を生け贄に捧げ、その攻撃力だけ僕のライフを回復だ」

《神秘の中華なべ》
【魔法カード・速攻】
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。
生け贄に捧げたモンスターの攻撃力か守備力を選択し、
その数値だけ自分のライフポイントを回復する。

 コンボならば藤原も引けを取らない。
 《ジェルエンデュオ》を牽制に使い、同時にライフへと変換して損失を回避した。

藤原のLP:4000→5700

「うーん、回復されちゃったか。
 でも、これでモンスターは出せないよ」

「そうだな。なら、代わりにリバースを2枚伏せて、ターン終了だ」

 勢いづく翼に、藤原は平然とターンを渡す。

「じゃあ俺のターンだ、ドロー!
 ここでリバースを発動するよ!
 《リミット・リバース》!
 墓地の《英鳥ノクトゥア》を蘇生する!
 特殊召喚したから、再び『輝鳥』と名の付くカードをサーチできる。
 俺がデッキから手札に加えるのは――」

《リミット・リバース》
【罠カード・永続】
自分の墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

《英鳥ノクトゥア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。
ATK/ 800 DEF/ 400

 コンボが上手く決まって、デッキの回り方は理想的。
 相手にリバースがあるが、モンスターがいない。
 翼が攻めるには絶好のチャンス。

「俺は《輝鳥-テラ・ストルティオ》を手札に加えるよ!
 そして、そのまま儀式カード《輝鳥現界》を発動だ!
 場のノクトゥアと、デッキのクレインを生け贄に捧げ――」

《輝鳥現界》
【魔法カード・儀式】
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。

 オレンジの光が場に現れ、そして結集し、豊穣の鳥を象る。
 勇壮なダチョウが現れ、力強く足踏みをする。
 翼の前に進む意志を代弁するように。

「ストルティオを儀式召喚するよ!
 さらにその効果『ルーラー・オブ・ジ・アース』!
 墓地のクレインを復活させるよ!
 さらにクレインを特殊召喚したから、1枚ドローだ!」

《輝鳥-テラ・ストルティオ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、自分の墓地の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
ATK/2500 DEF/1900

《聖鳥クレイン》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードが特殊召喚した時、このカードのコントローラーはカードを1枚ドローする。
ATK/1600 DEF/ 400

 特殊召喚ラッシュと手札の補充をこなし、進撃の準備は万全である。

「バトルだ! ストルティオから攻撃!
 『シャイニング・クエイクレッグ』!!」

 猛ダッシュからの痛烈なキックが藤原へと繰り出される。
 しかし、藤原が光に包まれ、その攻撃は届かない。
 それどころか食い止めた衝撃が、緑色の柔らかな粒子に変換されていく。

「リバース発動だ、《ドレインシールド》。
 モンスター1体の攻撃を無効にし、その攻撃力分のライフを回復する」

《ドレインシールド》
【罠カード】
相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
攻撃モンスター1体の攻撃を無効にし、
そのモンスターの攻撃力だけ自分のライフを回復する。

藤原のLP:5700→8200

 相手の攻撃を利用した膨大なライフ回復。
 倍以上のライフ差を付けられ、翼は焦りに拳を握り締める。

「まだ攻撃は残ってる!
 クレインで攻撃だ!」

 クレインが光の羽根を放ち、藤原を切り刻もうとする。
 そして、鈍い金属音が鳴り響く。
 翼の攻撃はまたもや藤原に防がれている。

「2枚目のリバースを発動、《ガード・ブロック》。
 モンスター1体の攻撃を無効にし、さらにカードを1枚ドローだ」

《ガード・ブロック》
【罠カード】
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 攻撃をいなしつつ、藤原はさらに手札を補充する。

「通らないか……。
 じゃあ、俺はこれでターンエンドだ」

「さて、僕のターン、ドロー」

 (はや)る翼を前に、藤原は冷静に手札を吟味する。
 
「手札から《天空の使者 ゼラディアス》を墓地に送って、その効果を発動。
 デッキから《天空の聖域》を手札に加え、そのまま発動する」

《天空の使者 ゼラディアス》 []
★★★★
【天使族・効果】
このカードを手札から墓地へ捨てて発動できる。
デッキから「天空の聖域」1枚を手札に加える。
また、フィールド上に「天空の聖域」が存在しない場合
このカードを破壊する。
ATK/2100 DEF/ 800

 フィールド魔法が発動され、デュエルフィールドは雲の上の天空の祭壇となる。

「ああ、やっと場が明るくなったよ……」

 レイが安堵したように呟いた。
 フィールド魔法のビジョンにより放たれた光。
 レイにとっては暗闇を振り払う救いの光だった。
 あとは翼のアクイラに吹き飛ばされないように祈るばかりである。

《天空の聖域》
【魔法カード・フィールド】
このカードがフィールド上に存在する限り、
天使族モンスターの戦闘によって発生する天使族モンスターの
コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

「《コーリング・ノヴァ》を召喚して、バトルに突入する」

 クリスマス飾りに翼の生えた天使モンスターが、くるくる回り攻勢を取る。

《コーリング・ノヴァ》 []
★★★★
【天使族・効果】
???
ATK/1400 DEF/ 800

「さあ、クレインに攻撃だ!」

「バトル? 攻撃力は届かないのに、どうして!?
 そのまま迎え撃つよ!」

 その突撃をクレインは軽やかにかわし、くちばしの一撃で迎撃する。
 《コーリング・ノヴァ》のビジョンが弾けたとき、――鐘の音が響いた。
 その清らかな音は《天空の聖域》に荘厳に鳴り響く。
 新たな天使の降臨を告げるように。

「《天空の聖域》の効果で、僕の天使族モンスターのダメージは発生しない。
 さらに《コーリング・ノヴァ》が戦闘によって破壊されたとき、
 後続の天使をデッキから特殊召喚することができる。
 本来ならば攻撃力1500以下の天使族・光属性モンスターしか呼べない。
 しかし、《天空の聖域》があるとき、その効果が高められる」

 藤原のデッキの中のカードが光を放った。
 特定のカードを指定するときのエフェクト。
 その導きにしたがって、藤原がカードを手に取る。

「《天空騎士パーシアス》を攻撃表示で召喚する!」

《コーリング・ノヴァ》 []
★★★★
【天使族・効果】
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力1500以下の天使族・光属性モンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合、
代わりに「天空騎士パーシアス」1体を特殊召喚する事ができる。
ATK/1400 DEF/ 800

《天空騎士パーシアス》 []
★★★★★
【天使族・効果】
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
また、このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/1900 DEF/1400

「上級モンスターを呼ぶコンボ!」

「バトルは続いている!
 さらにパーシアスでクレインに攻撃を仕掛ける。
 『裁きのアーク・ペネトレイト』!!」

 半身半馬の天空騎士モンスター。
 手にしたランスを振り上げ、駆けてクレインを一閃。
 このデュエル最初のダメージを勝ち取ったのは藤原だった。

翼のLP:4000→3700

「パーシアスがダメージを与えたとき、カードを1枚ドローする。
 僕はこのままターンを終了するよ」

「やられちゃったなぁ。
 負けないよ! 俺のターンだ、ドロー!」

LP3700
モンスターゾーン
《輝鳥-テラ・ストルティオ》ATK2500、《聖鳥クレイン》ATK1600
魔法・罠ゾーン
なし
手札
5枚
藤原
LP8200
フィールド魔法
《天空の聖域》
モンスターゾーン
《天空騎士パーシアス》ATK1900
魔法・罠ゾーン
なし
手札
4枚

 ライフ差を付けられたが、翼の場には最上級儀式モンスターがいる。
 リバースもないのなら、ここで攻めをためらう理由もない。

「俺は《帝鳥ファシアヌス》を召喚だ!」

《帝鳥ファシアヌス》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に存在する鳥獣族モンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
ATK/1800 DEF/1200

 後続を欠かさず召喚し、翼の攻勢は緩まない。
 フィールド魔法により、天使とのバトルでは藤原にダメージは及ばない。
 しかし直接攻撃ならば、藤原にダメージを与えることができる。

「バトルだ! ストルティオで攻撃だ!
 『シャイニング・クエイクレッグ』!!」

 パーシアスは半身がペガサスのモンスター。
 しかし、脚で競うならばストルティオは数段上。
 猛スピードに超パワーを載せ、強烈な蹴りが繰り出される。

「ダメージ計算時に手札より誘発即時効果を発動」

 ――しかし、その蹴りは感触を得ずに空振る。
 勢いあまってクルクル回るストルティオを、天空から見下ろす一つの影。
 黄金の翼を得た《天空騎士パーシアス》がランスを構え、猛進する。

「迎撃だ! 『オネスティー・アーク・ペネトレイト』!!」

 光の槍撃により、ストルティオは敢え無く狩られる。
 一瞬の逆転劇に、翼の理解が追いつかない。

翼のLP:3700→1800

「リバースもないのに、迎撃された……!?
 攻撃力は上回っていたはずなのに」

「これが僕の切り札のカードの効果。
 光属性モンスターの絶対勝利を約束する効果だ」

 困惑する翼に、藤原は墓地の一番上のカードを指し示した。
 そこにあるのは見知ったカード。
 忘れるはずのない藤原を象徴するカード――精霊《オネスト》――。

《オネスト》 []
★★★★
【天使族・効果】
自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で存在する
このカードを手札に戻す事ができる。
また、自分フィールド上の光属性モンスターが
戦闘を行うダメージステップ時にこのカードを手札から墓地へ送る事で、
エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。
ATK/1100 DEF/1900

「これが《オネスト》の効果か。
 さすが藤原先輩の切り札……」

 呆然とする翼に、藤原は諭すように語りかける。

「ずいぶんと攻め急いでいたみたいだが、急いだから掴めるわけじゃない。
 焦らずに着実にやらないと、こんな風に足元を(すく)われることになる。
 もう少し冷静にやらないと、僕の用意した廃寮のアトラクションも見せられないな」

「……明菜にも言われたな、焦りすぎだって……」

 翼は少し俯き、しかし思い直したように手札のカードに眼をやった。
 落ち込んでいるわけじゃない。後悔するわけでもない。
 何か抱くものがあるかのように、翼の瞳に迷いがなかった。

「俺はリバースを1枚セットして、ターンを終了するよ」

「僕のターンだな、ドロー」

 動じない翼の態度に、藤原はわずかな反感を覚えた。
 翼にはやると決めたら周囲に耳を貸さない頑固さがある。
 その危うさとトゲを取り払うためのこのデュエル。
 そこを譲りたくない意志が、藤原にはある。

「なら、今度は僕が攻めるとしよう。
 フィールドの《天空騎士パーシアス》を生け贄に捧げ――」

「上級モンスターを生け贄に!?」

 本来ならばセオリーから外れた召喚行為。
 しかし、藤原のデュエルに意味のないプレイングはない。

「手札より《天空勇士ネオパーシアス》を進化召喚する!
 さらに場に《天空の聖域》があるとき、追加効果で攻撃力を上昇させる。
 相手と自分のライフポイント差分、攻撃力を上昇させる!
 よって、《天空勇士ネオパーシアス》の攻撃力は――」

《天空勇士ネオパーシアス》 []
★★★★★★★
【天使族・効果】
このカードは自分フィールド上の「天空騎士パーシアス」1体を
生け贄に捧げ、手札から特殊召喚できる。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
また、このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
デッキからカードを1枚ドローする。
フィールド上に「天空の聖域」が存在し、
自分のライフポイントが相手より上の場合、
その数値だけこのカードの攻撃力・守備力がアップする。。
ATK/2300 DEF/2000

《天空勇士ネオパーシアス》ATK2300→8700

「すごい……!
 このためにライフポイントを蓄えてたんだ!」

「君のデッキには《ガード・ブロック》があったな。
 もう1体を召喚しておくとしよう。
 墓地の《天空騎士パーシアス》と《コーリング・ノヴァ》を除外し、
 手札の《神聖なる魂》を特殊召喚する」

 美女の透き通る精霊が、眩い聖なる光を放ちながら降臨する。
 その激しささえ内包した光が、高い魔力を物語る。

《神聖なる魂》 []
★★★★★★
【天使族・効果】
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する光属性モンスター2体を
ゲームから除外した場合に特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手のバトルフェイズ中のみ全ての相手モンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。
ATK/2000 DEF/1800

「さあ、バトルだ!
 《天空勇士ネオパーシアス》でファシアヌスに攻撃!
 『断罪のホーリー・ペネトレイト』!!!」

 目の眩むような量の生命の光をランスに集約していく。
 肥大化したランスは、巨木のように大きい。
 振りかぶり投擲された光の襲撃。
 立ち向かうには、ファシアヌスはあまりにも小さい。
 そのまま翼ごと光が飲み込もうとし――。

「墓地の《聖鳥クレイン》を除外して、速攻魔法発動!!」

 光り輝く1枚の羽根が、巨大な光槍の切っ先を食い止める。

「な……に……」

 回避されるかもしれないと予測していた。
 しかし、見たこともないカードのエフェクトに、藤原は動揺を隠せない。

「速攻魔法《希望の羽根》を発動した。
 光属性で鳥獣族のモンスターを墓地から除外して、バトルを終了。
 そして、その後にカードを1枚ドローする」

《希望の羽根》
【魔法カード・速攻】
自分の墓地に存在する光属性・鳥獣族モンスター1体を
ゲームから除外して、発動する。
このターンのバトルフェイズを終了させ、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「なるほど。ピーキーだが、いいカードだ。
 しかし、フィールドの状況は変わっていない。
 僕はカードを2枚伏せて、ターンを終了する」

「なら、俺のターンだ!
 ドロー!」

LP1800
モンスターゾーン
《帝鳥ファシアヌス》ATK1800
魔法・罠ゾーン
なし
手札
5枚
藤原
LP8200
フィールド魔法
《天空の聖域》
モンスターゾーン
《天空勇士ネオパーシアス》ATK8700、《神聖なる魂》ATK2000
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2
手札
1枚

 藤原の場には、その戦線を支える《天空の聖域》がそびえ立っている。
 さらに上級モンスターが立ち並び、リバースも2枚。
 攻め入る隙もないような完全な布陣。
 しかし、翼は意気揚々とカードを手に取った。

「俺は《ソニックバード》を召喚する!
 さらにその効果でデッキから儀式魔法をサーチだ!」

 音速の鳥は鋭い声で歌い上げて、場の儀式の霊圧を高める。

《ソニックバード》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードが召喚・反転召喚に成功した時、
自分のデッキから儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。
ATK/1400 DEF/1000

「俺が手札に加えるのは、《高等儀式術》だ!」

「ものの一つ覚えのように、また儀式か……」

 藤原はその手を予測しながら、しかし翼の威勢の良さを警戒する。

「儀式魔法《高等儀式術》を発動!
 デッキから《冠を載く蒼き翼》と《音速ダック》を生け贄に捧げ――」

《高等儀式術》
【魔法カード・儀式】
手札の儀式モンスター1体を選択し、そのカードとレベルの合計が
同じになるように自分のデッキから通常モンスターを選択して墓地に送る。
選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。

 緑色の柔らかな高等儀式の粒子が、青の粒子へと変化していく。
 藤原には既に出てくるモンスターの算段が付いている。
 リバースに手をかけ、罠にかかる鳥を待ち構える。

「来い! 《輝鳥-アクア・キグナス》!!
 そして、その効果、『ルーラー・オブ・ザ・ウォーター』!!
 水流で押し戻すカードは――」

 水の白鳥が力を溜め、水流を放とうとする。

《輝鳥-アクア・キグナス》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「水」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上のカード2枚を選択し、
1枚をデッキの一番上に、もう1枚を持ち主の手札に戻す。
ATK/2500 DEF/1900

「対象を指定するまでもない。
 リバースカード、オープン!
 カウンター罠、発動!!」

 キグナスを天雷が貫いた。
 水鳥に電気は一瞬にして伝導し、キグナスは瞬く間に絶命する。

「《天空の聖域》における《神罰》だ。
 カード効果の発動を無効にし、そのカードを破壊する」

《神罰》
【罠カード・カウンター】
フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

 翼の反撃の一手は成功の気配すらなく、藤原に防がれた。
 ――しかし、翼の瞳から戦意は消えていない。

「俺は800ライフポイントを支払い、《契約の履行》を発動する!
 もう一度《輝鳥-アクア・キグナス》を場に特殊召喚だ!」

 契約の絆と、主の生命を糧として。
 キグナスはもう一度フィールドへと舞い降りる。

《契約の履行》
【魔法カード・装備】
800ライフポイントを払う。
自分の墓地から儀式モンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターをゲームから除外する。

翼のLP:1800→1000

 翼はキグナスと視線を交わし、頷き合った。
 そして、祈るように1枚のカードを発動する。

「俺は《祝宴》を発動! カードを2枚ドローだ!」

《祝宴》
【魔法カード・速攻】
フィールド上に表側表示の儀式モンスターが
存在するときのみ発動することができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「キグナスを蘇らせても、《神聖なる魂》を倒すのがせいぜい……。
 一体何を狙って――、いや、まさか!!」

 翼の思惑を辿り、藤原にはその先が分かった。
 翼の場には2体の下級鳥獣族モンスターがいる。
 本来は上級モンスターを前に無力なはずのモンスター。
 だが、その効果と布陣は今なら――。

「《帝鳥ファシアヌス》の効果を発動する!
 『インペリアル・ウィンド』!
 自分の鳥獣族モンスター1体を手札に戻せる!
 俺はキグナスをもう一度手札に加える!」

 そして、翼が見知ったカードをかざし、藤原の悪い予感は現実となる。

「儀式魔法発動! 《輝鳥現界》!!
 フィールドの《ソニックバード》と、デッキの《恵鳥ピクス》を生け贄に捧げ――」

 再び優しくも激しい青い光が、翼の場に集約していく。
 荘厳なる儀式のエフェクトの中心で、翼の逆立った髪が風になびく。

「焦るなって言われても、ずっと走り続けるのが俺のやり方なんだ!
 危なっかしくても、俺はこのやり方を信じ抜く!!」

 藤原の(いさ)める一手を超えて。
 翼は己の力を貫き、示し通す。

「今度こそ成功させてみせる!!
 《輝鳥-アクア・キグナス》を儀式召喚。
 そして、2度目の効果発動だ!
 『ルーラー・オブ・ザ・ウォーター』!!」

 主の万感を一身に背負って、キグナスの水流が再び放たれた。

「《天空勇士ネオパーシアス》をデッキに、《神聖なる魂》を手札に押し戻す!!」

 天空の祭壇に洪水を巻き起こして。
 キグナスの力強い水流が、藤原の場に風穴を開けた。

LP1200
モンスターゾーン
《輝鳥-アクア・キグナス》ATK2500、《帝鳥ファシアヌス》ATK1800
魔法・罠ゾーン
なし
手札
5枚
藤原
LP8200
フィールド魔法
《天空の聖域》
モンスターゾーン
なし
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
2枚

「残るリバースはあと1枚。
 でも、ここは攻め抜く!
 キグナスで引き続き攻撃だ!!
 『シャイニング・スプリットウィング』!!」

 その勢いのまま、キグナスは白き翼で藤原をなぎ払った。
 リバースは発動していない。
 藤原は立体映像のエフェクトを両腕で防ぎながら、
 かすめていくキグナスの攻撃をそのまま通した。

藤原のLP:8200→5700

「よし、攻撃が通った! 続けて――」

 翼が意気込んだ瞬間に、――大きな揺れが巻き起こった。
 よろめいてしまう翼。尻餅をついてへたれ込むレイ。
 辺りを見回せば、闇が揺らぎ薄れては集まり、藤原に寄り添っていた。
 2階の方からは大きな倒壊音が聞こえる。
 それに続いて、レイが悲鳴を上げる。

「これは……」

「最初のダメージがダイレクトアタックとはね。
 いきなりちょっと派手な演出になってしまったらしい」

 顔を伏せていた藤原が髪をかき上げ、左右の闇に目配せをした。

「僕がダメージを受けるたびに、この廃寮は崩壊に向かっていく。
 元々ここは霊所として一般人には危ない場所なんだ。
 だから、ここと繋がった僕を倒せば、建物解体の任務を果たせるわけだ」

 藤原の説明を受けて、翼は意識を瞳に集中させる。
 青く染まった翼の瞳が、力の在り処を見定める。
 確かに精霊の空気が、そこかしこに流れを作っていた。
 この寮は確かに壊れかけている。柱などの構造は既に限界を超えている。
 ひびや隙間を精霊の力で満たして、ようやく均衡を保っている。

「面白い! じゃあさ、俺が負けたらどうなるの!」

 精霊の気配にワクワクした翼。
 意気揚々と藤原に質問を投げかける。
 藤原は耳をそばだてて、闇から意見を伺う仕草をする。

「目いっぱい悪戯する。内容はお楽しみに、ということだ。
 ちなみに闇は翼の力をどうも警戒してるようだな。
 むしろ反応のいい早乙女をどうするか、楽しみにしてるらしい」

「ひゃあ!」

 嫌な想像をかき立てられ、レイが短い悲鳴を上げる。

「ははっ! ならますます俺が勝たなくちゃね!
 攻撃は続いているよ! 《帝鳥ファシアヌス》で攻撃だ!」

 先ほどキグナス召喚に繋ぐコンボを補助したファシアヌス。
 持ち前の高めの攻撃力を生かし、藤原に突進を仕掛けにかける。

「2体目は通さない!
 リバースオープン! 《奇跡の光臨》!!
 除外ゾーンの天使族モンスターを特殊召喚。
 再臨せよ! 《天空騎士パーシアス》!!」

 ――すかさず駆けつけたパーシアスが、槍でファシアヌスの猛突をいなした。
 ファシアヌスは慌てて翼の陣地に駆け戻った。

《奇跡の光臨》
【罠カード・永続】
ゲームから除外されている自分の天使族モンスター1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

「パーシアスが戻ってきたか……」

 先ほどキグナスで2枚のカードを押し戻した。
 ここからの反撃は翼にも予測がついた。

「なら、リバースを1枚セットして、ターンエンドだ!」

「僕のターンだ、ドロー。
 ……とはいっても、ドローするカードは分かってるんだがな」

 カードを引いて、翼の反応を見ながら。
 藤原は藤原のセオリーを遂行する。

「戻しただけなら、すぐに同じ布陣を形成できる!
 再び墓地の光属性モンスター2体を除外し、《神聖なる魂》を特殊召喚する!
 さらに《天空騎士パーシアス》を生け贄に捧げ、《天空勇士ネオパーシアス》に進化!」

《神聖なる魂》 []
★★★★★★
【天使族・効果】
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する光属性モンスター2体を
ゲームから除外した場合に特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手のバトルフェイズ中のみ全ての相手モンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。
ATK/2000 DEF/1800

《天空勇士ネオパーシアス》 []
★★★★★★★
【天使族・効果】
このカードは自分フィールド上の「天空騎士パーシアス」1体を
生け贄に捧げ、手札から特殊召喚できる。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
また、このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
デッキからカードを1枚ドローする。
フィールド上に「天空の聖域」が存在し、
自分のライフポイントが相手より上の場合、
その数値だけこのカードの攻撃力・守備力がアップする。。
ATK/2300 DEF/2000

《天空勇士ネオパーシアス》ATK2300→6800

「さらに《マジック・プランター》を発動。
 《天空騎士パーシアス》の復活に使った《奇跡の光臨》が残っている。
 これをコストにカードを2枚ドローさせてもらう」

《マジック・プランター》
【魔法カード】
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 藤原はすぐさま元の布陣を再現した。

「さて、バトルフェイズに移行する。
 もう一度、《天空勇士ネオパーシアス》で攻撃だ!
 キグナスを貫け、『断罪のホーリー・ペネトレイター』!!」

 再び巨大な光が襲撃する。
 お返しと言わんばかりに、キグナスを圧倒。
 さらに翼を襲撃しようとする。

「でもダメージは遠さない! リバースカードだ!
 《ガード・ブロック》!!
 攻撃を1度防いで、カードを1枚ドローする!」

《ガード・ブロック》
【罠カード】
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 今度は翼が藤原の攻撃をいなした。
 しかし、これで翼のリバースは尽きてしまった。

「なら、《神聖なる魂》でファシアヌスを攻撃する!」

 半透明の精霊が光球を投げつけてくる。
 翼にはファシアヌスを守る手段がない。
 攻撃はそのまま直撃し、ファシアヌスのビジョンが消え去った。

翼のLP:1000→800

「僕はモンスターをセットして、ターンエンドだ」

 藤原は静かにターンを終えた。
 警戒した表情をしたままで。

「よし、俺のターンだ! ドロー!!」

 対照的に翼は意気揚々とターンを開始する。

LP800
モンスターゾーン
なし
魔法・罠ゾーン
なし
手札
5枚
藤原
LP5700
フィールド魔法
《天空の聖域》
モンスターゾーン
《天空勇士ネオパーシアス》ATK7200、《神聖なる魂》ATK2000、伏せモンスター×1
魔法・罠ゾーン
なし
手札
1枚

 モンスターの状況は劣勢時とほぼ同じ。
 しかし、今回は藤原の場にリバースが存在しない。
 切り札の《オネスト》も既に墓地にいる。
 似た布陣に見えて、格段に攻め込みやすいのは間違いない。

「俺は《儀式の準備》を発動するよ!
 デッキのアクイラを手札に加えて、墓地の儀式魔法《輝鳥現界》を回収する!」

《儀式の準備》
【魔法カード】
自分のデッキからレベル7以下の儀式モンスター1体を手札に加える。
その後、自分の墓地から儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。

「ここでアクイラか……」

 来るべき反撃を予期して、藤原は渋い表情をする。

「俺は《寧鳥コロンバ》を召喚だ!」

 丸々と太ったハトが場に無防備に現れる。
 攻撃力はゼロ。効果も戦闘向きとは言えない。

《寧鳥コロンバ》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/ 0 DEF/2000

 つまりは、その先のコンボのために召喚されたということ。

「儀式魔法《輝鳥現界》を発動するよ!
 場のコロンバを生け贄に、デッキのアンセルを生け贄に捧げ――」

 翼はすかさずカードを掲げ、反撃の嵐の襲来を告げる。

「来い! 《輝鳥-アエル・アクイラ》!!
 そして、すべてを吹き飛ばせ!
 『ルーラー・オブ・ザ・ウィンド』!!
 《天空の聖域》を破壊するよ!」

《輝鳥-アエル・アクイラ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「風」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。
ATK/2500 DEF/1900

 大嵐が巻き起こる。
 雲の大地ごと神殿は取り壊され、天使の統治する領域は崩された。
 勇士の光の槍は、その力強さを失っていく。

《天空勇士ネオパーシアス》ATK7200→2300

 今この場を支配するのは、雄大なる緑色の大鷲。
 心強いフェイバリットの降臨に、翼の声が高鳴る。

「いくよ! アクイラでネオパーシアスに攻撃だ!
 『シャイニング・トルネードビーク』!!」

 アクイラは空を旋回し、身体をしねらせ攻撃の準備をする。
 柔らかな光がその動きをわずかに妨げる。

《輝鳥-アエル・アクイラ》ATK2500→2200

「《神聖なる魂》の効果で、アクイラの攻撃力は300下がっている。
 そのままではネオパーシアスに敵わないが――」

 藤原は先の展開を見通した上で、翼に確認するように呟く。

「そうだね! だから、墓地の《兵鳥アンセル》の効果を発動だ!
 墓地から除外して、アクイラの攻撃力を400アップさせるよ!」

《兵鳥アンセル》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在する
鳥獣族モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも使用できる。
ATK/1500 DEF/1400

《輝鳥-アエル・アクイラ》ATK2200→2600

 風がさらに勢いを増して、アクイラを後押しして。
 回転するクチバシのドリルが、ネオパーシアスを打ち破った。

藤原のLP:5700→5400

 加熱するデュエルに、闇が嬉しそうにざわめく。
 ささやくように冷たい風が通り抜け、レイが再び悲鳴を上げる。

「このまま攻め抜くよ!
 カードを1枚セットして、ターンエンドだ!!」

 デュエルのペースを完全に握った翼がターンを終えた。

「僕のターン、ドロー……」

 藤原は対策を考えながら、カードを引く。

「まずはリバースモンスターを反転召喚!
 《スケルエンジェル》だ。
 カードを1枚ドローしておこう」

 天使の翼と靴だけしか見えない透明なモンスターが出てくる。
 そして、デッキに向かって矢を放ち、藤原に導き寄せた。

《スケルエンジェル》 []
★★
【天使族・効果】
リバース:自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/ 900 DEF/ 400

 引いたカードを見て、藤原は表情を引き締めた。
 何かが思い当たったように、思案気に眉をひそめた。

「斗賀乃先生の思っていることが、やっと少し分かった気がする」

「え?」

 唐突なつぶやきに、翼は思わず声を上げる。

「確かに久白は強い。ひたむきな攻めと前向きな姿勢。
 僕がこうも苦戦してしまうのだから、デュエルの腕は確かだ。
 だから、心も強い。そう簡単なことでは挫けないだろうな」

 話しかけるのでなく、自分に確認するように藤原は呟いた。

「だが、だからこそ無鉄砲さが気になってしまうんだ。
 僕も斗賀乃先生も慎重すぎるからかもしれない。
 計画性というか、地に足の着いた感覚がないというか。
 何かを置き去りにして、がむしゃらに走っているような。
 そんな危うさを、僕らに感じさせてしまうのだろうな」

 藤原の神妙な呟き。
 廃寮に隙間風が吹き抜けて、翼の背筋をくすぐった。
 ――そこに在る闇はいつでも、誰かの心の闇を見つめている。

「俺は、確かにそうかもしれない。
 何かをしてなくちゃいけないと思って、走って走って。
 でも、そのやり方の変え方を今は分からない。
 壁にぶち当たっても走り続けることしか、俺には思い浮かばないんだ」

 いつもなら、自分の心を上手く言葉に出来ないなのに。
 今はすらすらと説明する言葉が思い浮かんでいた。
 藤原か、あるいは廃寮の闇に導かれたように。

「斗賀乃先生なら『自己を見つめ、過酷に鍛え直せ』とでも言うのだろうな」

「えっ、そうなの?」

 斗賀乃の冷たい態度からは、翼はそう前向きには感じなかった。

「やり方は厳しいが、あのデュエルで言いたかったことはそれだと思う。
 斗賀乃先生は久白の成長に強い関心を持っている。
 そうでなければ、あんなに強い感情を込めてデュエルをしない」

「自分を見つめ直す……」

 翼は自分で自分に呟いた。
 しかし、すぐに何かが見えるわけでもなかった。

「でも、それはそう簡単にできることじゃないんだ。
 僕にだって、やっと見えてきたばかりなんだ。
 自分の心の在り方を見つめ通して、正しいやり方が見えてきた人なんて、
 僕ら学生の中にはそうそうはいやしない」

 藤原は諭すように語りかける。
 自分を見つめ通してきた経験を振り返りながら。

「だから、久白。
 君は風を感じながら、そのまま走り抜けるんだ。
 自分の精一杯をぶつけたなら、何か得るものがある。
 それで受ける挫折も大きいかもしれない。
 だけど、僕が傍についている。
 精霊の力だって、人よりは詳しいつもりだ。
 僕を頼りに思う存分、君は君でぶつかっていってほしい」

 藤原は翼へ『君の助けになる』と言い聞かせた。
 翼は、その訴えかけに少し違和感を覚えた。
 とても有り難い申し出だとは思う。
 けれど、この切迫感は何だろう。
 まるで、今そこに危機が迫っているかのような切実さ。
 今手を結ばなければ、誰かが壊れてしまうような重圧感。
 それが不安をかき立てるのだけれども。
 誰かが導きを差し伸べてくれるのは嬉しかった。

「心配してくれて、ありがとう。
 俺は俺で頑張ってみるよ」

 その不安については、直面してから考えればいい。
 今は素直に感謝して、前を見つめていようと思った。

「ああ、それでいい。
 僕が伝えたかったのは、それだけだ。
 とはいえ、その勢いにあっさり負けるわけにもいかないな」

LP800
モンスターゾーン
《輝鳥-アエル・アクイラ》ATK2900
魔法・罠ゾーン
伏せ×1
手札
2枚
藤原
LP5400
フィールド魔法
なし
モンスターゾーン
《スケルエンジェル》ATK900、《神聖なる魂》ATK2000
魔法・罠ゾーン
なし
手札
3枚

「こんないい引きができたのなら、言い訳はできないな」

 藤原は手札を見ながら、自信あり気に呟いた。
 あの慎重な藤原がそう呟くからには。
 ここから繰り出される手は、相当厳しいものに違いない。

「僕は《スケルエンジェル》を生け贄に捧げ――。
 2体目の《天空騎士パーシアス》を召喚する!」

 再びパーシアスが現れ、《神聖なる魂》と並び立ち、上級モンスターが並ぶ。

「それだけじゃない。
 今これで僕の墓地に存在する天使族モンスターは4体になった。
 このときに手札から特殊召喚できる大天使のカードがある!」

 藤原の綿密な計算から導かれた特殊召喚のチャンス。
 手札の1枚が強い光を放ち、高貴なる存在の光臨を告げる。

「来い! 《大天使クリスティア》!!」

 白騎士の天使が、赤い翼をはためかせ舞い降りる。
 自ら強く発光して、フィールドに新たな光の秩序を打ち立てる。

「このモンスターがフィールド上に存在するとき、お互いに特殊召喚ができなくなる。
 そして、自身の効果による特殊召喚に成功したとき、追加効果が発生する!
 『エンジェリック・サルベイション』!!」

 クリスティアはその身に纏う赤い聖骸布(せいがいふ)を墓地に向かって解き放つ。
 聖者の力を秘めた織物は、死せる天使を救済する寄る辺となって、
 藤原の手に新たなカードを呼び込む。

「墓地から天使族モンスター1体を手札に加える」

《大天使クリスティア》 []
★★★★★★★★
【天使族・効果】
自分の墓地に存在する天使族モンスターが4体のみの場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚に成功した時、
自分の墓地に存在する天使族モンスター1体を手札に加える。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
お互いにモンスターを特殊召喚する事はできない。
このカードがフィールド上から墓地へ送られる場合、
墓地へは行かず持ち主のデッキの一番上に戻る。
ATK/2800 DEF/2300

「僕が選び出すのは、《オネスト》だ」

《オネスト》 []
★★★★
【天使族・効果】
自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で存在する
このカードを手札に戻す事ができる。
また、自分フィールド上の光属性モンスターが
戦闘を行うダメージステップ時にこのカードを手札から墓地へ送る事で、
エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。
ATK/1100 DEF/1900

「また手札に《オネスト》が……」

 これで藤原の光属性モンスターに、安易に戦闘を仕掛けられなくなった。
 さらにフィールドには翼得意の特殊召喚を封じる最上級モンスターが君臨している。
 簡単に打ち崩せるような布陣ではない。

「さて、バトルだ!
 《大天使クリスティア》でアクイラに攻撃!」

 クリスティアがアクイラに向かって飛翔する。
 この攻撃を通せば負けてしまう。
 翼は防御手段を出し惜しみなしで行使せざるを得ない。

「リバースカードオープン!
 《風霊術−「雅」》!!
 アクイラを生け贄に捧げて発動だ!
 クリスティアをデッキに戻すよ!」

《風霊術−「雅」》
【罠カード】
通常罠 自分フィールド上に存在する風属性モンスター1体生け贄に捧げ、
相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して発動する。
選択した相手のカードを持ち主のデッキの一番下に戻す。

 旋風が巻き起こり、クリスティアをデッキに押し戻す。
 しかし、これで翼の場はがら空き。
 対して、藤原の場には2体の上級天使が控えている。

「僕の場には《天空騎士パーシアス》と《神聖なる魂》がいる。
 しかし、君にはリバースカードはなくても、ダメージを防ぐ手段がある。
 発動せざるを得ないな」

 防衛策を見抜かれていても、後に繋げるために翼に選択肢はない。

「墓地のピクスを除外して、その効果を発動だ!
 このターンの俺に対する戦闘ダメージをゼロにする!」

 翼が柔らかなオーラに包み込まれ、追撃は見送られる。

《恵鳥ピクス》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
このターン、コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。
ATK/ 100 DEF/ 50

「では、バトルを終了して、第2メインフェイズ。
 手札から通常魔法《封印の黄金櫃》を発動する。
 デッキからカードを1枚選択してゲームから除外し、
 僕の2つ後のスタンバイフェイズに手札に加える。
 僕は《大天使クリスティア》を除外してサーチ対象とする」

《封印の黄金櫃》
【魔法カード】
自分のデッキからカードを1枚選択し、ゲームから除外する。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時にそのカードを手札に加える。

「今の僕の墓地の天使族モンスターは3枚。
 でも、《オネスト》を墓地に送れば、すぐに4枚になる。
 もう一度クリスティアを特殊召喚して、今度こそチェックメイトだ。
 僕のターンはこれで終了だ」

「俺のターンだ、ドロー!」

 藤原の強固な布陣。
 それを突破するには、再び輝鳥を展開するしかない。
 翼には特殊召喚を介さない除去手段がほとんどない。
 《ゴッドバードアタック》も《風霊術−「雅」》も使った今となっては、
 次に《大天使クリスティア》を召喚されれば、挽回は困難である。
 このターンが、恐らくは最後のチャンスになる。

「俺は《貪欲な壺》を発動するよ!
 墓地のアクイラ、ストルティオ、キグナス、ノクトゥア、ファシアヌスの
 5枚をデッキに加えて、カードを2枚ドローする。」

《貪欲な壺》
【魔法カード】
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 チャンスに繋げるためのドロー。
 祈りを込めて、カードをデッキに戻し、
 そして、新たに2枚を引き抜いた。

「……………」

 手札には4枚のカード。
 繋がる可能性を考え、――そして途中でやめた。
 翼の【輝鳥】デッキは、考えて動かすデッキではない。
 そのときのドローに任せて、風の勢いを呼び込むデッキ。
 ならば、今できる最大限の一手一手を積み重ねていけば、それが最善になる。

「俺は《命鳥ルスキニア》を召喚するよ!
 そして、そのまま生け贄に捧げて、
 デッキからレベル4以下の鳥獣族モンスターを特殊召喚する!」

 命の火をその身に宿した小鳥が舞い、新たな鳥獣を呼び込む。

《命鳥ルスキニア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを生贄に捧げる事で、
自分のデッキまたは墓地からレベル4以下の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果により「命鳥ルスキニア」を特殊召喚することはできない。
ATK/ 500 DEF/ 400

「俺はデッキから《英鳥ノクトゥア》を特殊召喚する!
 さらにこのときデッキの『輝鳥』と名のつくカードをサーチできる!
 俺がデッキからサーチするのは――」

 ここまでのデュエルで最も活躍した1枚。
 それを思い浮かべ、すかさずデッキからその雄姿を辿る。
 
「お前がこのデュエルのエースだ!
 《輝鳥-アクア・キグナス》を手札に加える!」

「何! また儀式をしてくるだと!」

 次々とカードを手繰り寄せる翼。
 さすがの藤原も動揺を隠せない。
 その動揺を確信づけるように、翼の勢いも止まらない。

「3枚目の《輝鳥現界》を発動だ!
 場のノクトゥアと、デッキのアイビスを生け贄に捧げ――」

 翼の呼びかけに応えて――。
 その場には何度でも青い粒子が立ち込めて。
 そして、優雅なる白鳥へと姿を変えていく。

「来い! 《輝鳥-アクア・キグナス》!!」

 翼が前を目指す限り、水流は何度でも立ちはだかる相手を押し戻す。

《輝鳥-アクア・キグナス》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「水」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上のカード2枚を選択し、
1枚をデッキの一番上に、もう1枚を持ち主の手札に戻す。
ATK/2500 DEF/1900

「その召喚時の効果だよ! 
 『ルーラー・オブ・ザ・ウォーター』!!
 《天空騎士パーシアス》と《神聖なる魂》を手札とデッキに戻す!」

 藤原を守る2体の上級モンスターが姿を消した。
 ダイレクトアタックを通したあのときと同じように、
 守り手の天使のいない伽藍がらんの聖域が、ただそこにある。

「すごいな。これで僕の場は正真正銘のがら空きだ。
 だが、僕のライフはまだ5400ポイントある。
 少しでも残せば、《神聖なる魂》と《オネスト》の攻撃で僕の勝ちだ。
 さて、どうする?」

 翼の攻めに感心しながら、藤原の余裕はまだ消えていない。
 次の戦闘さえ通れば藤原が勝つ。その優位はまだ揺らいでいない。

「何とかしなくちゃ、負けちゃうよな。
 だったら、この場でどうにかしてみせるよ!
 今儀式の生け贄にしたアイビスの効果だ!
 カードを1枚ドロー!」

《霊鳥アイビス》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードを生け贄にして儀式召喚を行った時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/1700 DEF/ 900

 翼の手に加わった3枚目のカード。
 指先に伝わる力強い鼓動。
 そこに吸い込まれるまま、翼はカードを繰り出した。

「俺は儀式魔法《大地讃頌》を発動するよ!
 場のキグナスを生け贄に捧げて――」

《大地讃頌》
【魔法カード・儀式】
地属性の儀式モンスターの降臨に使用する事ができる。
フィールドか手札から、儀式召喚する地属性モンスターと同じレベルになるように
生け贄を捧げなければならない。

 《大地讃頌》に対応する翼のカードは1枚のみ。
 地を司る輝ける鳥。再びその場に姿を現す。

「いくよ! 《輝鳥-テラ・ストルティオ》!!
 そして、効果だ! 『ルーラー・オブ・ジ・アース』!
 墓地から鳥獣族モンスターを蘇生できる!
 俺が蘇生するのは――」

 輝鳥を召喚するために、輝鳥を生け贄に捧げる。
 一見不合理に見える儀式だが、これこそがストルティオの真価のコンボ。
 並び立つエースの競演を思い描き、翼の胸が高鳴る。

「今生け贄に捧げた《輝鳥-アクア・キグナス》だ!」

《輝鳥-テラ・ストルティオ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、自分の墓地の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
ATK/2500 DEF/1900

 並び立つ両雄。
 大地の輝鳥と流水の輝鳥が、攻撃のために身構える。

「攻撃力2500のモンスターが2体……。
 そして、もう1枚の手札は――」

 藤原は翼の表情を見て取った。
 あれはライフを削りきれずに悔しがる表情ではない。
 コンボを繋ぎ尽くして、勝利へと駆け抜ける表情だ。
 ならばこの勝負は、――藤原の完敗だ。

「バトルだ!
 ストルティオとキグナスで攻撃!
 まずはストルティオだ!
 『シャイニング・クエイクレッグ』!!」

 今度こそと地を猛進するストルティオから、藤原へと強烈な蹴り。

藤原のLP:5400→2900

 そして、空から飛来する白き勇姿。

「キグナスの攻撃の前に速攻魔法を発動!
 《異次元からの埋葬》!
 ゲームから除外されているカードを墓地に戻す!
 俺は《恵鳥ピクス》と《兵鳥アンセル》を墓地に戻す!
 そして、そのままアンセルの効果を発動だ!
 墓地から除外することで、キグナスの攻撃力を400アップさせる!」

《異次元からの埋葬》
【魔法カード・速攻】
ゲームから除外されているモンスターカードを3枚まで選択し、
そのカードを墓地に戻す。

《兵鳥アンセル》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在する
鳥獣族モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも使用できる。
ATK/1500 DEF/1400

《輝鳥-アクア・キグナス》ATK2500→2900

「これでフィニッシュだ!!
 キグナスの攻撃!
 『シャイニング・スプリットウィング』!!」

 キグナスがアンセルの風を纏い、さらに加速する。
 水気を帯びた白き翼の太刀。
 藤原を一直線に斬りつけ、そのライフはゼロを指した。

藤原のLP:2900→0

 デュエルが終わると、急に日差しが射してきた。
 廃寮を夕暮れが照らし出していた。

「いきなり明るくなった?」

「ああ、闇が消えたから、陽の光が入ってきたんだ。
 今までは闇に占領されてたけど、もうここはそういう場所じゃない。
 ありのままの何もない建物に還っていくんだ」

 藤原が思い出を振り返るように、廃寮を見渡した。
 
 ――轟、と。感傷に水を差すように、あちこちから倒壊音が響く。

「ああ、そうだったな。
 ここは崩れる。デュエルに夢中ですっかり忘れていた。
 巻き込まれる前に、さっさと脱出するか」

 藤原が声をかけて、翼もまた出口に向かう。

「ま、待ってよ」

 二人にレイが弱々しく声をかける。
 へたり込んだままのレイに、藤原は首をかしげた。

「早くしないと、本当に危ないぞ。
 闇の力なしには、この建物はもう原型を保てないんだ」

「分かってるよ。
 けど……」

 レイは顔を赤らめて俯向き、ためらいがちに告げた。

「こ、腰が抜けちゃって……」

 頭を掻きながら、照れるレイ。
 藤原と翼は笑って手を差し伸べて、崩れる廃寮を3人で脱出した。





 その1週間後のことだった。
 翼が騒がしく駆けていき、保健室のドアを開けた。

「クロノス先生が襲われたって!?」

 その大きな声に保健室のみんなが振り向く。
 レイがたしなめる。

「ダメだよ! 大きな声を出したら!」

「ご、ごめん。でも、本当にびっくりしたから。
 それで、その倒した奴ってのは?」

「それがね……」

「うーん、私から話すノーネ」

「クロノス先生! 大丈夫!?」

「寝ながらしゃべるくらいなら平気ナノーネ。
 動くことはできそうにないケード」

「私が宿直室からパトロールに出ようとしたら、
 その扉の目の前にいたノーネ」

「そして、デュエルしたら負けて吸い取られたノーネ。
 すごく強いドラゴン使いだったノーネ」

「姿と背格好は?
 やっぱり変人奇人?」

「いやいや、普通だったノーネ。
 黒いローブで、顔はゴーグルで見えないし、声もボカされてたケード。
 必要最小限のことしかしゃべらないから、何も分からなかったノーネ」

「うーん。正体不明で慎重……なのかな?
 いやでも、宿直の先生を正面から襲ってる時点で大胆?」

「とにかくこのことは一部にしか知らせてないノーネ。
 下手な騒ぎは起こしたくないノーネ。
 並のデュエリストじゃ、歯が立たないノーネ」

「じゃあさ、つまり俺たちの出番ってことだよね!」

「そういうことになるケード、慎重にやらないといけないノーネ。
 真正面からデュエルしたら敵わないかもしれなイーノ」

「そうだね……。ひとまず、みんなを集めて相談しよう。
 明菜ちゃんや藤原先輩、それに剣山先輩にも伝えなくちゃ!」

「頼んだノーネ!
 生徒に任せるのは苦しいケード、私はちょっと動けないノーネ」

「あ、そうだ! クロノス先生!
 お弁当置いておくから食べてね!
 体力回復には食べるのが一番いいんだから!」

 そういって、レイは作ってきたお弁当を開いて見せる。

「オゥ! 気持ちは嬉しいケド、もう少し洋風のメニューが欲しいノーネ……」

「えり好みしない! さて、翼くん。早速連絡を回そう!」

「頼んだノーネ!
 早くスタミナを付けて、私もすぐに復帰すルーノ」

 仕掛けられた謎の襲撃。
 藤原の暗示していた危機の予感。
 それでも手を取り合えるなら、きっと何とかなる。
 翼はレイに従って、明菜へと連絡を繋げた。




第10話 心は通じない/瞳の先に届かない に続く...