穿つドラゴン。
でも、明菜ならその運命の力も手にできるはず」
ミレイの語りかけにあたしは頷いた。
「うん! 試練の塔に明日挑もう!」
本当は恐ろしいことに挑むはずなのに。
あたしの胸は高鳴っていた。
これまでのつらかった気持ちは、はねのけてられていた。
一番やりたい方法で、一番やりたいことを目指せる。
どんな怖いことがあっても、立ち向かえる。そんな気がした。
「明菜お姉ちゃん、すごい。
あのすごいドラゴンに立ち向かうなんて。
わたし、憧れる」
隣に並んで眠る夜の中で、エルちゃんがささやいた。
「すごくなんてないよ。
あたしはただ後悔したくないだけ。
あんなこと言われて戻ったら、絶対に後悔して何もできなくなるから。
だから、絶対に引き下がれないって思っちゃったんだ。
命賭けるみたいだけど、そんな実感なんてなくって。
ただ、引けないから、全力で進むだけなんだ」
「それだけでもすごい。
後悔しないように進むって、すごく難しいことだよ。
いつだって、もう少しって引き延ばして、結局できなくて。
もっとやれると思ったら、全然自分ではできなかったりして。
そればっかりだと思う。だから、わたしすごく憧れる」
「……あたしだって、そうだよ。
たまたまチャンスに興奮任せに、全部を賭けて飛び込むだけなんだ。
本当はどうなるか、何が待ってるかなんて。
想像もできないし、どんな準備していいかさえ分からないよ」
「でも、今飛び込めるのは、明菜お姉ちゃんがこれまで頑張ってきたから。
いつも後悔して、後悔に慣れきっていたら、チャンスがあっても飛び込めない。
わたしにはできない、また諦めようって、一歩引いちゃう。
だから、明菜お姉ちゃんは、すごい」
「そう……なのかな」
「そう! あのドラゴンは散々もっと勇気を!って言ってたけど。
十分明菜お姉ちゃんはあたしにとって、勇気のあるお姉ちゃんだよ!
だから、自信を持って、試練を勝ち取って!
ドラゴンのみんなのためにも」
「うん! あたしは絶対にやり遂げてみせる!
だから、エルちゃんも……」
「……わたし……?」
「うん! エルちゃんだって、きっとこんなときが来る!
ううん、もしかしたら、帰ったらすぐにすごいことが待ってるかもしれない。
あたしばかり応援しておいて、自分はやれないなんて言わせないよ。
エルちゃんも何か頑張るって、言ってみてよ!」
「わたしの頑張ること……、じゃあ……」
エルちゃんは息を飲み込んで、つぶやいた。
「わたし、この世界のことを全部覚えてる。
ここにいて、ドキドキしたことを絶対に忘れない。
だから、この旅のことを小説に書くよ!
わたしたちの感じた全部が伝わる物語を、書いてみせる!
明菜お姉ちゃんは、わたしよりずっと未来に帰るんだよね。
そのいつかには、わたしの物語を手元に届けられるように頑張る!」
その夢の成果を、あたしはきっと知っていた。
あの机の上にあった本は、絶対にエルちゃんの書いた本なんだ。
どうしてあの場所にあるのかは分からないけど、そうだと確信できる。
このきらきらした言葉が、嘘になるはずなんてないから。
でも、あたしは話さないでおこう。
リューゲルさんが未来をいちいちぼかすのも、きっとそういうことなんだ。
全部分かっていたら、全然頑張れなくなっちゃうから。
だから、エルちゃんが全部で頑張れるために、夢の先を話さない。
「うん! 絶対に約束だよ!
あたし、楽しみにしてるから。
だからね、あたしも頑張ってみせる。
エルちゃんの物語をもっとすごくできるように、あたしも頑張るよ!」
あたしとエルちゃんは約束した。
夢がかなうように。かなえるために頑張れるように。
いつだって、強く向かっていられるように。
迎えに行くよ、明葉。だからもう少しだけ待っていて。
あたしは必ず辿り着いてみせるから。
第28話 幻想避行4-穿光竜と試練の塔-
「これが……試練の塔……」
灰色の天高くそびえ立つ塔がそこにはあった。
塔といっても細くなくて、体育館を積み上げていったみたいに大きい。
そのてっぺんは、雲の上で見えない。
「この塔って何で出来てるんだろう? 石でも煉瓦でもない……。
あとでリューゲルさんに聞いてみよう」
エルちゃんが塔を触って確かめる。
確かに頑丈そうだけど、何で出来てるんだろう。すごく不思議な塔だ。
この塔のまわりだけが浅い雲がかかって、薄紫の色に染まっていた。
「この塔は俺たちドラゴンが、この世界に住み始める前からあったんだ。
いつから建っているかは、全然分からない。
だけど、いつも支配者の住む場所にはなっているんだろうな。
この建物自体が生きているように、神秘的な力を集めているんだ。
ここにいるドラゴンは、最大限の力を発揮できるからなー」
「このてっぺんに、王子様がいるんだよね?
そこまで行けば、あたしを認めてくれるって」
「うん。大変な道のりだけど、頑張ろうね」
ミレイはそう言うけど……、大変なのかな。
「ねえ、これってさ、飛んでいったらダメなの?」
「へ?」
マギーが目を丸くして、あたしの顔を見返す。
「だって、あたしのドラゴンを使えば、雲の上までひとっ飛びだよね。
それで登ったら、手っ取り早いんじゃないかな?」
「うーん…………」
マギーは腕組みをして考え込んだ。そして、渋い顔をして答えた。
「やめた方がいいなー」
「どうして?」
「そりゃあ、飛んではダメとは言われてないが、そういう甘い道は確実に罠が……」
「うーん……、じゃあ試してみよっか」
ディスクを展開させて、2枚のカードを選び出した。
《異次元竜 トワイライトゾーンドラゴン》に《明鏡止水の心》を装備する。
これなら滅多な攻撃が来ても、大丈夫なはず。
《異次元竜 トワイライトゾーンドラゴン》
効果モンスター 星5/光属性/ドラゴン族/攻1200/守1500
このカードは対象を指定しない魔法・罠カードの効果では破壊されない。
また、攻撃力1900以下のモンスターとの戦闘では破壊されない。
|
《明鏡止水の心》
装備魔法
装備モンスターが攻撃力1300以上の場合このカードを破壊する。
このカードを装備したモンスターは、
戦闘や対象モンスターを破壊するカードの効果では破壊されない。
(ダメージ計算は適用する)
|
「ひとまずは偵察してみよっか。お願い、いってみて!」
トワイライトゾーンドラゴンは少し怯えながら、頷いた。
なんだかあたしも不安になってきたけど、いざとなればカードで助けてあげれば……。
トワイライトゾーンドラゴンが一回転して、恐る恐る空に向かっていく。
「あれ……?」
すると、雲が急に濃くなり、黒い暗雲になっていく。
風が急に強くなって、渦を巻き始める。
「お、おい。やっぱりまずいよな……」
そして、トワイライトゾーンドラゴンめがけて、黒い雷が打ち出される。
すかさず、手に握っていたカードをディスクに差し込んだ。
「きょ、《強制脱出装置》ッ!!」
トワイライトゾーンドラゴンがいなくなると、雷は立ち消えて、空も元の色に戻った。
「ごめんね! ごめんね、トワイライトゾーンドラゴン!
今のって、多分ヴァンダルギオンの雷!?」
「おー、よく分かるなー。その通りだな」
「うん、あたしもヴァンダルギオンは使うから。
にしても、今のって……」
「ルール違反扱いってことで、容赦なく攻撃されるみたいだな。
確かにここの近くにあいつらの法廷もあるしな。
こりゃあ、正攻法で真正面から塔を登るしかなさそうだなー」
あたしは、塔の扉に手をかけた。
ひやりと冷たくて、ずしりと重い。
どんな試練が待ってるかは知らないけど、みんなとなら何とかなるはず。
それにあたしにはモンスターたちもついている。
唇を結んで、力を込めて、扉を開いた。
そこに踏み入れると、私たちをにらみつけるような視線を感じた。
早速何かがいる。それに私たちを狙ってきている。
薄暗い闇の中で、翼の生えた悪魔が見えた。
影が飛びかかってくる。
「防いで! 《ゴーレム・ドラゴン》!!」
《ゴーレム・ドラゴン》
効果モンスター 星4/地属性/ドラゴン族/攻 200/守2000
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手は表側表示で存在する他のドラゴン族モンスターを
攻撃対象に選択する事はできない。
|
岩盤の両腕でがっしりとガードして、その攻撃を受け止めた。
火花が散るような鉄がぶつかった甲高い音がした。
「これって……、倒さなくちゃいけないのかな」
「《闇をかき消す光》!」
エルちゃんがカードを発動して、辺りが照らされる。
見えたのは、《ガーゴイル》だ。
その数は見えただけでも、10匹はいる。
《闇をかき消す光》
通常魔法
相手フィールド上に裏側表示で存在するモンスターを全て表側表示にする。
|
《ガーゴイル》
通常モンスター 星3/闇属性/悪魔族/攻1000/守 500
石像と思わせ、闇の中から攻撃をする。逃げ足も素早い。
|
「あいつらは影がないな……。それにここいらで見かける顔でもない。
何かの力で作られた生命体だ。明菜、容赦なく倒していいぞ。
ここなら少し休めば、すぐデュエルモンスターの体力は回復する。
温存とか考えずに、全力で薙ぎ払えー!」
「うん、分かった。ゴーレム・ドラゴン、少しの間だけ耐えてね」
ありったけのメンバーを、あたしは選び出す。
とはいっても、ディスクだとモンスターは5枚までしか出せないから……。
「いくよ、《スプリーム・スプライト・ドラゴン》!
《太陽竜リヴェイラ》! 《クロスライトニング・ワイバーン》!
そして、《神竜―エクセリオン》!」
相手の攻撃力は高くない。
もし大型モンスターが出てきても、リヴェイラでひるませる。
速攻で決着させる!
「みんな! いっけぇーッ!!」
攻撃を当てると、あっという間にガーゴイルたちは砕け散った。
体力が減ると、消えてなくなってしまうみたいだ。
ガーゴイルたちを倒すと、辺りがパッと明るくなった。
一番奥に階段が見える。これを登っていけばいいんだろう。
「ふぅ……。こうやって、各階の仕掛けを突破していけばいいのかな」
「それなら明菜お姉ちゃんがいれば、何とかなりそう。
どんどん進んでみよう!」
その後の階も大体の構造は一緒だった。
仕掛けのモンスター達を倒せば、明るくなって次の階に行ける。
中にはそれだけじゃ開かないところもあった。
そういうときは、怪しいところを調べれば、ボタンとかがあった。
あたしは全然そういうのを見つけられなかったけど、エルちゃんはすぐ見つけた。
エルちゃんが言うには、ありがちな仕掛けばかりらしい。
エルちゃんはほんの少しの違和感も、すぐに気づける。
やっぱり作家が夢だから、そういう感性がすごいのかな。
中には、少し変わった階もあった。
宝石やパーツを探し出して、台座にセットする階だ。
「この玉って、マギーとミレイの尻尾の玉に似てるよね」
エルちゃんも頷いて、ミレイにくっつけた。
「同じにしか見えない!」
「私でも自分のと同じ宝珠に見えるよ。
魔力とかは込められていないみたいだけど」
台座に2つの宝珠をはめると、突然辺りが暗くなった。
そして、映画館のように、映像が浮き上がった。
この2つの宝珠を、たくさんのドラゴンたちが囲んでいる。
どのドラゴンもすごく強そうで、大事な儀式が始まるように見える。
マギーとミレイが、何かに気付いたように顔を見合わせた。
「ねえ……、これってもしかして私たちの!?」
「この世界の記憶、ってやつか。って、何でこんなの記録してんだよー!
こんなの歴史に残す必要があんのかよー。
ハッ! まさか俺たちはやっぱり歴史に残るドラゴンになるってことか!
いやいや、にしたって、こんなところで見せるなあああ」
マギーたちの恐れたとおりに、その宝珠からはマギーとミレイが生まれた。
今よりもさらに小さくて2匹とも仔猫みたいだった。
「みんなに祝福されて、生まれてきたんだね」
「かわいい〜〜」
マギーとミレイは恥ずかしそうに、でも少しはにかみながらその映像を見ていた。
それが途切れると、次の階にいく階段への門が開いた。
同じような階がもう少し先に行くとあった。
今度は集めるものがちょっと趣味が悪かったけど……。
「こ、こ、これ集めるの……?」
エルちゃんが怯えているから、慌てて覗き込む。
「腕……?」
黄金色の腕だった。しかも、触ると少し柔らかくて温かい。
「ミイラか、何かかな。
これを真ん中の石版みたいなのに、はめるんだよね。
穴は5つあったから、あと4つ見つけないと。
エルちゃん、他にどこか変わったところあった?」
「多分、五芒星の形で、塔の対称に怪しいところがあるはず。
怖いから、動きそうだから。は、早く、早く終わらせて!」
急いで集めてはめると、また映像が照らし出された。
今度映ったのは、酷く強い風の吹き荒れる荒野と砂漠だった。
「今度は何の映像なんだろう。これもここの過去?」
「そうだなー、聞いたことはある。
俺たち竜が住むようになる前の世界だ。
確かこの魔神エクゾディアだったか。
こいつの力で沈黙の世界として、どの次元からも干渉を受けなかった。
この次元は、長い間何もない岩石と砂だけの荒野だったんだ」
画面が切り替わって、今度は洞窟の内部が映し出される。
そこには、なんと人がいた。
異国風のマントと、逆立ててきっちり整えられた髪。
線の細いスマートな眼鏡が、知性を感じさせる。
それでも腕は軍人のように引き締まっている。
そして、片方の腕は人間ではなくて悪魔のような腕だった。
その人が歯を食いしばりながら、目の前を見上げていた。
その先には、黄金の魔神が眠っていた。
「なぜだ! なぜ、ボクの呼びかけに答えない!!
ボクは王となるんだ! 争いもなく憎しみのない世界を作り上げるんだ!
そのためには、お前の力が必要なんだ!
お前と契約するためには、何が必要だというんだ!」
枯れ枯れの声で、男の人は必死に叫んでいた。
もう何度目の呼びかけなんだろう。
息が切れて、男の人は膝をついて、目を閉じた。
すると、悪魔の腕が怪しく光った。
同時に黄金の魔神も、鈍く紫色の光を放って、共鳴した。
その光が収まると、男の人は青ざめた顔をして、魔神を見上げた。
怯えたような表情だった。だけど、瞳には確固たる意思が感じられた。
歯を食いしばり、魔神をにらみつけて、訴えた。
「それがお前の求める覚悟だと言うのか。
王たる者に必要な試練だとでも言うのか!
そうだな。王は大いなる目的のために犠牲を惜しんではならない。
ボクにそれができないとでも思ったか!
――受けてやろう。ボクの一番大事な者の命を、お前にくれてやろう!
エコーなら、必ず分かってくれる! ボクの望みを理解してくれる!
待っていろ! この強欲な魔神め! ボクは必ずお前の力を掌中に収める!
例えボクらのどんな――」
少しだけためらって、震える腕に力と決意を込め直した。
「――どんな犠牲を払ってでもだ!!」
その懸命な叫びが、洞窟に響いて、映像は途切れた。
次の階への扉が開かれても、あたし達は立ちつくしていた。
あまりの痛々しい叫びと、必死な様子が瞳に残って、動けなかった。
「エクゾディアの封印は解かれて、もうこの世界にはいない。
そして、この世界の止まっていた時間が動き始めたんだ。
あの男が、結果的には封印を解き放ったんだな。
行こう、明菜。この記憶は過去だ。悩んでもどうしようもない」
「う、うん……」
胸に違和感が残った。
どうして何かを犠牲にしなくちゃいけないんだろう。
いつでも、どこでだって。
それが本当に必要なことかもしれないけど、納得はいかなかった。
ウロボロスさんも、やりたいことのためには犠牲はやむを得ないと言っていた。
でも、ウロボロスさんのやっていることの、本当の目的は何だろう。
争いをなくすため、と言っていた。
でも、この精霊実験から、どうやって争いの根絶につながるんだろう。
あの研究所のエルさんの謎、そしてウロボロスさんの本当の考え。
帰ったら、あたしは解き明かさなくてはならない。
決してあたしの裏切りを悟られないようにしながら。
そして、ずっと登っていった先に、また一つ。
7つの宝石を集める試練だった。
もう塔の外からは雲が見える。多分、頂上も近いんだろう。
「ルビー、アメジスト、トパーズ、サファイア、うーん……。
名前は聞いたことはあるけど、どれがどの色か分からないよ」
「明菜! レディーの身だしなみの基本として、宝石は覚えなさい!
ロマンとおしゃれを兼ね備えた、美の結晶体なんだから!
今は緊急時だからいいけど、全部終わってからの宿題ね」
ミレイに怒られてしまう。でも、あれ覚えるのは難しそう。
7匹の動物の石像に、それぞれ宝石をはめたとき、また新しい画面が映し出された。
紫色の空、ずっと向こうに見える虹。
この塔の周りと同じように、神秘的な風景だった。
それは雲と雲の間にあるような、透明で澄んだ世界。
そこに光のボールがあった。
でも、その光は安心して見ていられる温かいものじゃない。
攻撃を繰り出して、何もかもを消し去るような激しい光だ。
光のボールは激しく脈打って、中にいる誰かを攻撃しているようだった。
そのボールが消えると、傷ついた二人が現れた。
双頭の竜の魔人が、守るように必死に少年を抱きかかえていた。
でも、その努力は届かなかったみたいだ。
少年はもう死んでいた。冷たくなって動かない。
魔人は涙を流して、嘆いていた。
怒りに打ち震え、その身をわなわなと震わせる。
「ボクは守れなかったね、ごめん……、ごめんよ。
虹の都にキミが辿り着くことが、大人になるための洗礼の儀式だったのに。
でもね、せめてあの『破滅の光』の思い通りにはさせない。
ボクにはまだ力がある。決して使ってはならない力が」
魔人の体が変化していく。体にも顔が浮き出て、金色の角が体中に突き出る。
周りの景色が歪んでしまうほどに、力が、この魔人に集結している。
「トルガノとクルシェロが造ったこの体。
だから、この体には世界の元素を取り込み、力として撃ち出す能力がある。
クルシェロが大気から元素を集めて、輝ける鳥を生み出すように。
でも、あいつに届かせるには、少し集めるだけじゃ足りないかな。
ううん、トルガノは分かっていたんだろうね。
だから、この力は一度行使したら制御できないもの。
本当の、最後の手段だったんだ。王子も巻き込む可能性があるからね」
集められすぎたエネルギーが真っ赤な炎になって、魔人を取り囲む。
「あいつに届かせるには、この世界のバランスが崩れるほどの力がいる。
でも、もうこの世界なんて必要ないんだ。
キミを守れない、いや、キミが大人になることさえできない世界なんていらない!
みんな、みんな消えちゃええええぇッ!!!!」
集められた力が一気に爆発する。
その爆発で何もかもが見えなくなって、真っ暗になった。
この映像が、途切れたんだ。
「今の映像は、……分かる?」
でも、クルシェロにトルガノって聞いたことある名前のような……、まさかね。
「いや、分からない。俺も歴史は習ってきたけど、想像がつかない。
本当にずっとずっと昔の世界の話なんだろうな。
でも、聞いたことのある言葉はあるな。『破滅の光』だ」
「『破滅の光』……?」
「世界が出来上がった伝説、創世神話とでも言えばいいのかな、その一説だな。
この世界は、『優しき闇』と『破滅の光』の絶え間ない争いで造られてきた。
闇と光のイメージとは少し反するかも知れないが、闇は安らぎと保護を意味する。
逆に光は動乱とか攻撃を意味するんだ。
宇宙の本質は、闇だ。誰だって、最終的には安定した安全な状態を目指すだろう。
だけど、それだと世界は停滞してしまう。居心地はいいはずだけどな。
そこに揺さぶりをかけるのが、破滅の光だ。
結局、どんな歴史を紐解いてみても、文明が革命的に発達するのは、戦乱期なんだ。
本当の必要に迫られて、競い合って絞り出すから、より優れたものが生まれる。
もちろん行き過ぎた争いは、不毛で何も生み出せなくなるけどな。
『優しき闇』と『破滅の光』は永遠に争い続けるけど、それは終わらない。
『破滅の光』をどんなに食い止めようとしても、完全に消滅はさせられない。
逆に『優しき闇』の平和や安寧を祈る意思も消えることはない。
そうして世界を発達させ続ける為の意思が働いてるって、話だよ。
もちろん、おとぎ話とか教訓の話かもしれないし、本当かは分からないけどな」
「……………」
とてつもない規模の話だと思う。争いを起こす意思がある。
そんなのがあるなんて、悲しいことを増やすばかりなのに。
無理な争いを仕掛けられなくても、あたしたちは頑張るのに。
ずっと続いているなら、その力は誰にも突き止められてないのかもしれない。
だけど、今あたしにできることは、目の前に精一杯進むことだけだ。
「でも、例えば世界に意思があって、犠牲とか争いを生み出すのだとしても、
あたしは、あたしの手の届く範囲はせめて守りたい」
「そうだな。それがいい。守ろうとする意志も、世界を進化させる。
誰が何を操ろうとしても、俺たちは俺たちの守るべきもののために闘うだけだ。
そんなどこかの高尚ぶった神様の意思なんて糞食らえだ。
そんなのがなくても、俺らドラゴンは誇りと正義のために競って強くなるさ!」
そして、この階が最後の階だった。
久しぶりの空の薄明かりがまぶしい。
紫色の塔の屋上、強く吹き荒れる風。
髪が真横にそよぐ。
そこにあの白銀のドラゴンはいた。
あたしたちの姿を見下ろして、確認する。
「難なく越えてきたようだな」
「うん。あたしにはみんなも、モンスターたちもついてるから」
「そうだな。その協力者を引き寄せるのも、お前の運命の力だ。
だが、我はお前の運命の力強さを、この目で確かめなければ気が済まない」
目の前にデッキが浮かび上がる。
「お前が一つ一つの運命を、その手でドローするごとに切り開け。
我が繰り出す試練を、すべて打ち砕いてみせよ。
お前もデッキを構えろ」
ディスクを構える。強くにらみつけられていて、目が離せない。
心臓のドキドキが高鳴って、体が熱い。
あたしの心も、この時間を待っていたように、意識が引きしまる。
「明菜、勝てよ。この世界を救う架け橋になってくれ」
「明菜、頑張って。絶対に明菜の願いをかなえなきゃ」
「明菜お姉ちゃん、負けないで。この物語を絶対にハッピーエンドにしよう」
あたしは一度振り向いて、頷いた。
あたしは絶対に未来を勝ち取ってみせる。
「「デュエル!!」」
カードを5枚引く。ドラゴンの目の前にも、カードが5枚浮かび上がる。
先攻のランプはあたしだ。
「あたしのターン、ドロー!」
相手はどんな恐ろしい攻撃を仕掛けてくるか分からない。
ここは相手の攻め方を見ながら、考えないと。
「あたしはモンスターをセット。リバースを1枚セットして、ターンエンド」
「……それだけか?」
値踏みするように、王子は様子をうかがっている。
あたしはにらみ返して、視線で答えた。
「フン、なら我のターンだ。ドロー!」
ドローと唱えると、デッキからカードが浮かび上がり、目の前に加えられる。
ディスクと違って、目の前にカードが並べられる。
今にも裏返り攻撃が繰り出されそうで、威圧感がある。
「我は2枚のカードを発動する。
《死皇帝の陵墓》! 《カードトレーダー》!」
《死皇帝の陵墓》
フィールド魔法
お互いのプレイヤーは、生け贄召喚に必要なモンスターの数×1000ライフポイント
を払う事で、生け贄モンスター無しでそのモンスターを通常召喚する事ができる。
|
《カードトレーダー》
永続魔法
自分のスタンバイフェイズ時に手札を1枚デッキに戻す事で、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
|
2枚のカードが裏返り、発動する。
その足元に、古墳の祭壇が浮かび上がる。
「《死皇帝の陵墓》の効果を使用する。
ライフを2000ポイント支払うことで――」
シューティングレイ・ドラゴンのLP:4000→2000
|
「えっ!! この序盤から、半分のライフを使って!?」
「《フェルグラントドラゴン》を召喚!!」
金色のきらびやかで、鋭利なトゲのある鱗を持つドラゴンが現れる。
竜のボスとも言えるくらい威厳のあるモンスター。
最初のターンから、いきなりこんなモンスターを召喚してくるなんて。
《フェルグラントドラゴン》
効果モンスター 星8/光属性/ドラゴン族/攻2800/守2800
このカードはフィールド上から墓地に送られた場合のみ特殊召喚する事が可能になる。
このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、
自分の墓地に存在するモンスター1体を選択する。
このカードの攻撃力は、選択したモンスターのレベル×200ポイントアップする。
|
「ゆくぞ、『ヘヴンズ・バースト』ッ!!」
まぶしく大きな光線が、あたしの伏せモンスターを一瞬でなぎ払う。
「伏せモンスターは、《仮面竜》。破壊されても、ドラゴンを呼べる!
あたしはデッキから2体目の《仮面竜》を守備表示で召喚するよ!」
《仮面竜》
効果モンスター 星3/炎属性/ドラゴン族/攻1400/守1100
このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、
デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
その後デッキをシャッフルする。
|
様子見でこのカードを伏せていてよかった。
攻撃表示で出していたら、大ダメージを食らっていたはずだ。
「ならば、我はカードを2枚セット。ターンエンドだ」
「あたしのターンだね、ドロー!」
伏せカードが2枚。手を出すには怖いけど、このままだと押し切られる。
ここでひるんだら、相手のペースに飲み込まれる。
今の手札で立ち向かうなら、この手だ。
「あたしは、《ライトニング・ワイバーン》を召喚!」
《ライトニング・ワイバーン》
効果モンスター 星4/光属性/ドラゴン族/攻1500/守1400
手札からこのカードを捨てる事で、
デッキから別の「ライトニング・ワイバーン」を2枚まで手札に加える事ができる。
その後デッキをシャッフルする。
この効果は自分のメインフェイズ中のみ使用する事ができる。
|
「ほう、低級モンスターを召喚だと?」
「ううん、ただ召喚しただけじゃないよ!
リバースオープン! 《連鎖破壊》!!
同じ名前のモンスターをデッキから墓地に送る!」
《連鎖破壊》
通常罠
攻撃力2000以下のモンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚されたら発動する事ができる。
そのモンスターのコントローラーの手札とデッキから同名カードを全て破壊する。
その後デッキをシャッフルする。
|
「さらに《守護神の矛》を装備! これで攻撃力は――」
《守護神の矛》
装備魔法
装備モンスターの攻撃力は、墓地に存在する装備モンスターと
同名カードの数×900ポイントアップする。
|
《ライトニング・ワイバーン》ATK1500→3300
|
「《フェルグラントドラゴン》を超えたよ!!
《仮面竜》も攻撃表示にして、バトルフェイズ!
『ライトニング・ビーライン』ッ!」
一直線に雷が走り、《フェルグラントドラゴン》を貫いた。
シューティングレイ・ドラゴンのLP:2000→1500
|
攻撃は通った。もう一つ通せれば、ライフでは勝利は目前になる。
「《仮面竜》で攻撃するよ! 『アヴェンジャー・ヒートブレス』!」
でも、さすがに吐き出した火の玉は届かなかった。
「リバースだ。《ガード・ブロック》。
その攻撃ダメージを無効にし、1枚ドローする」
《ガード・ブロック》
通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
|
シューティングレイ・ドラゴンのLP:1500→2000
|
「え……? 回復!?」
「このカードを発動していた。《神の恵み》。
ドローするたびに、我のライフは500ポイント回復する」
《神の恵み》
永続罠
自分はカードをドローする度に500ポイントのライフポイントを回復する。
|
「そっか、なるほど。じゃあ、あたしはターンエンドするよ」
これでライフを補っていく作戦なのかな。
でも、補給できるライフにも限界がある。
あたしのモンスターたちは崩せないはずだ。
「ドロー。《神の恵み》により回復する。
さらにここで《カードトレーダー》の効果。
1枚のカードをデッキに戻し、もう一度ドローだ。
これによりもう一度《神の恵み》の効果が発動、さらに回復する」
シューティングレイ・ドラゴンのLP:2000→2500→3000
|
「あ! それもコンボのためのカード!」
「驚いて呆けている場合ではないな。
まだ、ドローの手はある。《トレード・イン》を発動!
手札の《光神機−轟龍》を捨てて、2枚ドロー!
さらにこのドローにより、ライフを回復する!」
《トレード・イン》
通常魔法
手札からレベル8のモンスターカードを1枚捨てる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
|
シューティングレイ・ドラゴンのLP:3000→3500
|
あっという間にライフが回復していく。
これなら連続で、大型モンスターを繰り出せる。
「さらに我はライフを2000ポイント支払い、《創世神》を召喚する」
シューティングレイ・ドラゴンのLP:3500→1500
|
《創世神》
効果モンスター 星8/光属性/雷族/攻2300/守3000
自分の墓地からモンスターを1体選択する。
手札を1枚墓地に送り、選択したモンスター1体を特殊召喚する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
このカードは墓地からの特殊召喚はできない。
|
夜明けの真っ赤な太陽を思わせる天の巨人。
現れれてすぐに、両手を向かい合わせ、光のオーブを作り出して、大地へ放った。
「その効果、手札1枚を捨てることで、モンスターを復活させる!
《スキル・サクセサー》を捨てて、効果発動! 『エターニティー・クリエイション』!
再び現れよ! 《フェルグラントドラゴン》!!
そして、その真の力を解放する!」
《フェルグラントドラゴン》がまぶしく輝きに満ちる。
光の魔力が、そのドラゴンをさらに強化する。
「『グロリアス・フェル』、墓地のモンスターのレベルに応じ、攻撃力上昇。
《光神機−轟龍》と共鳴させる! その攻撃力は4400!」
《フェルグラントドラゴン》
効果モンスター 星8/光属性/ドラゴン族/攻2800/守2800
このカードはフィールド上から墓地に送られた場合のみ特殊召喚する事が可能になる。
このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、
自分の墓地に存在するモンスター1体を選択する。
このカードの攻撃力は、選択したモンスターのレベル×200ポイントアップする。
|
《フェルグラントドラゴン》ATK2800→4400(レベル8×200)
|
「ッ!!」
「容赦はせん! その布陣を叩きのめすッ!
《フェルグラントドラゴン》! 『エイトスヘヴンズ・バースト』!
《創世神》! 『デストラクション・ヘイロー』!」
一瞬にして、あたしのモンスターは光線に押しつぶされ、光輪に裂かれる。
「《仮面竜》の効果……、《異次元竜 トワイライトゾーンドラゴン》を守備表示で召喚するよ」
「フン、守勢にまわるようなら、一気に潰してくれよう。
我はカードを1枚伏せる。ターンエンドだ」
「あたしのターン、ドロー!」
明菜 | LP2000 |
モンスターゾーン | 《異次元竜 トワイライトゾーンドラゴン》DEF1500 |
魔法・罠ゾーン | なし |
手札 | 4枚 |
|
|
|
シューティングレイ・ドラゴン | LP1500 |
フィールド魔法 | 《死皇帝の陵墓》 |
モンスターゾーン | 《創世神》ATK2300、《フェルグラントドラゴン》ATK4400 |
魔法・罠ゾーン | 《神の恵み》、《カードトレーダー》、伏せカード×1 |
手札 | 0枚 |
完全に押されている。王子の布陣も完璧だ。
最上級モンスターを中心にしたデッキがうまく回っている。
速攻召喚のための、《死皇帝の陵墓》。
さらにそのライフを補給する《神の恵み》。
極めつけは《カードトレーダー》だ。
あのデッキは、本当はそううまくは手札がかみ合わないはず。
最上級モンスターが多くて、手札事故を防ぎきれないはずだ。
そこを手札交換を増やしてカバーして、《神の恵み》の効果をさらに受けられる。
こんな強固な陣地を一瞬で作り上げる。
これが竜の王子と呼ばれるドラゴンのデュエル……!
でも、立ち向かわなくちゃいけない。
ここからあたしが闘うためのフィールドを作り出す。
そして、これ以上相手の場が充実するのは絶対に防ぐ。
ならば、今伏せなくちゃいけないカードは――!
「リバースを2枚セット! これでターンエンドするよ!」
「王子、飛ばしてるなぁ。
あそこまで絶好調に回られると、手のつけようがないぞ。
さすがの運命力とも言うべきか」
「でも、マギー。明菜お姉ちゃんは全然諦めてない!
絶対に逆転する! 瞳の強さなら、お姉ちゃんのほうが上!」
「我のターンだ、ドロー。さらに《カードトレーダー》で手札を交換」
シューティングレイ・ドラゴンのLP:1500→2500
|
今引きなおしたカードは追加のモンスターか、それとも……。
あたしのトラップをうかがいながら、王子はにらみつける。
「言ったはずだな。守勢に回れば、蹂躪すると。
臆病な手は、我が怒りに触れることとなる!
リバースをオープン! 《竜の逆鱗》!
これで我がフィールドのモンスターは貫通効果を得る!!」
《竜の逆鱗》
永続罠
自分フィールド上のドラゴン族モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時に
その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。
|
《フェルグラントドラゴン》が雄たけびを上げ、勇みかかる。
その手をやっぱり狙ってたんだ!
「読んでたよ! カウンター罠オープン! 《盗賊の七つ道具》!!
ライフを1000ポイント支払い、その発動を無効化するよ!
あたしもドラゴンデッキの使い手! きっとそのカードが来ると思ってた!」
《盗賊の七つ道具》
カウンター罠
1000ライフポイントを払う。
罠カードの発動を無効にし、それを破壊する。
|
「ほう……。だが、我の攻撃は止まらない!
《竜の逆鱗》を防いだところで――、ッ!!?」
ドラゴンの表情に初めて動揺が走る。
それはあたしの手札の1枚のカードが、黒く輝いているから。
そう、仕掛けた罠はフィールドだけじゃない。
これが切り札の逆転のカウンターカード!!
「今、相手の効果の発動をカウンター罠の効果で無効にした!
このときに召喚できる竜の王者のカードがある!
来て!! 《冥王竜ヴァンダルギオン》!」
頼もしい漆黒の王竜が、暗雲とともに現れる。
ここから一気にあたしのフィールドにしてみせる!
「さらに罠を無効化したから、追加効果発動!
『ブラック・エクスキューション』!
相手のカード1枚を破壊できる! あたしは《創世神》を選ぶよ!」
《冥王竜ヴァンダルギオン》
効果モンスター 星8/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2500
相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、
無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。
●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。
●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚する。
|
魔力の込められた黒い雲が包み込み、《創世神》は倒れこむ。
「だが、《フェルグラントドラゴン》が残っている!
しかし、敢えて攻撃力の勝るこのモンスターを残したとなると……」
「そうだよ!! そのモンスターもやっつける!
もう1枚のリバースオープン! 《バーストブレス》!!
《冥王竜ヴァンダルギオン》を生け贄に捧げて、そのドラゴンも破壊する!」
《バーストブレス》
通常罠
自分フィールド上のドラゴン族モンスター1体を生け贄に捧げる。
生け贄に捧げたモンスターの攻撃力以下の守備力を持つ
表側表示モンスターを全て破壊する。
|
ヴァンダルギオンが力を振り絞り、攻撃力の勝る《フェルグラントドラゴン》を倒す。
「フフ、なかなか果断に富んだ手を見せてくれる。
だが、お前を守るカードもいなくなって、振り出しだな。
我はカードを1枚セットし、ターンエンド」
明菜 | LP1000 |
モンスターゾーン | 《異次元竜 トワイライトゾーンドラゴン》DEF1500 |
魔法・罠ゾーン | なし |
手札 | 1枚 |
|
|
|
シューティングレイ・ドラゴン | LP2500 |
フィールド魔法 | 《死皇帝の陵墓》 |
モンスターゾーン | なし |
魔法・罠ゾーン | 《神の恵み》、《カードトレーダー》、伏せカード×1 |
手札 | 0枚 |
1枚のリバースが加えられただけ。
これなら、今押し切れるかもしれない。
「あたしのターン、ドロー!」
振り出しには戻っていない。
ヴァンダルギオンを生け贄にしたのも、決して無駄じゃない。
このカードがあったから、ううん、ミレイがいてくれるから思い切れたんだ!
「あたしは《ドラゴ・ミレイ》を召喚するよ!
そして、その第一効果を発動する!
『ミラクル・リヴァイヴ』!!
ミレイとトワイライトゾーンドラゴンを生け贄に捧げることで、
モンスターを蘇生できる!」
《ドラゴ・ミレイ》
効果モンスター 星2/光属性/ドラゴン族/攻800/守400
このカードと自分フィールド上に存在する
ドラゴン族モンスター1体を選択して生け贄に捧げる。
墓地に存在するドラゴン族モンスター1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在するドラゴン族モンスターの
攻撃力はエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも使用できる。
|
ピンク色の光が溢れて、新しい奇跡を呼び起こす。
「《冥王竜ヴァンダルギオン》を蘇生召喚するよ!!」
これで先に最上級モンスターを召喚できた。
「王子のライフは2500よ!
私のカードがつなげたこの攻撃が通れば、もしかするかも!」
「いくよ! ダイレクトアタック!!
『冥王葬送』ッ!」
黒い強大な衝撃波が放たれる。
でも、ドラゴンは戸惑わずに、リバースに手をかける。
そして、緑色の柔らかな光が包み込む。
「《ドレインシールド》!
攻撃を無効化し、その分のライフを回復する。
惜しかったが、我はまだ終わらせん!!」
《ドレインシールド》
通常罠
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
そのモンスターの攻撃力分の数値だけ自分のライフポイントを回復する。
|
シューティングレイ・ドラゴンのLP:2500→5300
|
「やっぱりこれだけじゃ終わらないよね。
あたしはこのままターンエンド」
でも、大幅にライフを回復させてしまった。
ピンチに追い込んだはずなのに、こっちの攻撃まで利用する戦術。
一瞬たりとも油断できない相手だ。
あの気迫もまったく緩んでいない。
ううん、むしろその闘争心はどんどん高まっている。
こっちまで胸が高鳴るような、ドラゴンの興奮が伝わってくる。
「我のターン、ドロー!
そして、《カードトレーダー》の効果を……」
セオリー通り、カードを引きなおそうとして、ドラゴンの動きが止まる。
「――いや、ここは手札を交換しない。
このままの手札で、メインフェイズに移行する!」
シューティングレイ・ドラゴンのLP:5300→5800(《神の恵み》の効果)
|
手札を交換しない!? じゃあ、まさかここで逆転の手を引いた?!
「ライフを2000ポイント支払うことで、最上級モンスターを召喚する!
召喚するのは――」
シューティングレイ・ドラゴンのLP:5800→3800
|
手札の、今導かれたカードを裏返す。
銀色の巨体、空を覆う翼、黒い三本の角のイラスト。
それはまさしく――。
「我自身、《シューティングレイ・ドラゴン》を召喚するッ!!」
《シューティングレイ・ドラゴン》
効果モンスター 星8/光属性/ドラゴン族/攻2300/守2200
???
|
目の前に竜の王子が並び立つ。
攻撃力の数値は、ヴァンダルギオンが今は勝っている。
でも、あの強いプレッシャーに、あの自信。
確実に今ヴァンダルギオンを打ち倒せる力を秘めている!
「《冥王竜ヴァンダルギオン》か。
相手にとって、不足は無い! ゆくぞッ!!
デッキより墓地に送ったカードの種類に応じ、我は効果を得る。
モンスターを選択して墓地に送ることで、その第一効果を発動する!
我が墓地に送るのは、《アームド・ドラゴン LV10》!!
よって、そのレベルに応じて、1000ポイント攻撃力を増強させる!
『シューティングレイ・インパクト』!」
真ん中の角が光って、翼はオレンジの光を帯びる。
あの夜、あたしたちに攻撃したときの翼の色!
《シューティングレイ・ドラゴン》ATK2300→3300
|
「攻撃力増強の効果ッ!?」
「さらに墓地の《スキル・サクセサー》の効果を発動!!
攻撃力を800ポイントアップさせる!」
《スキル・サクセサー》
通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
このターンのエンドフェイズ時まで、
選択したモンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
また、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の
攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。
この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動する事ができず、
自分のターンのみ発動する事ができる。
|
《シューティングレイ・ドラゴン》ATK3300→4100
|
「攻撃力4100!!」
「ゆくぞ、我自身の攻撃! 『シューティングレイ・ヴォルテックス』!!」
翼全体が光り輝き、魔力を集める。
そして、一気に解き放って、無数の光線の流星嵐が撃ち出される。
この攻撃をそのまま通したら、一気に押し切られてしまう!
「墓地からミレイの第二効果を発動するよ!
『ミラクル・リィンフォース』!!
ヴァンダルギオンの攻撃力を800ポイントアップさせる!!
迎え撃って!!」
《冥王竜ヴァンダルギオン》ATK2800→3600
|
《シューティングレイ・ドラゴン》ATK4100 VS 《冥王竜ヴァンダルギオン》ATK3600
|
対抗はしきれない。ヴァンダルギオンは光の流星嵐に飲み込まれる。
これが竜の王子自身の力……。
「すんでのところで生き延びたか。だが、これからが本当の試練だ。
我が攻撃を乗り越えて見せよ!! ターンエンド!」
まだ、相手は効果を秘めている。
絶対に押し切られない。勝ってみせる!
たとえ未知の運命が立ちはだかっていても、乗り越えてみせる!
《シューティングレイ・ドラゴン》
効果モンスター 星8/光属性/ドラゴン族/攻2300/守2200
1ターンに1度だけ、デッキからカード1枚を選択して墓地に送る。
このカードがフィールド上にある限り、墓地に送ったカードの種類により、
相手ターンのエンドフェイズ時まで以下の効果を得る。
●モンスター:このカードの攻撃力は墓地に送った
モンスターのレベル×100ポイントアップする。
???
|
「あたしのターン、ドロー!」
その威圧感をはねのけるべく、あたしは力強くドローした。
第29話 幻想避行5-少女と繋がる空-
「《貪欲な壺》を発動!
《ライトニング・ワイバーン》3体と《仮面竜》2体をデッキに戻して、
カードを2枚ドローするよ!」
《貪欲な壺》
通常魔法
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。
|
明菜 | LP500 |
モンスターゾーン | なし |
魔法・罠ゾーン | なし |
手札 | 3枚 |
|
|
|
シューティングレイ・ドラゴン | LP3800 |
フィールド魔法 | 《死皇帝の陵墓》 |
モンスターゾーン | 《シューティングレイ・ドラゴン》ATK3300 |
魔法・罠ゾーン | 《神の恵み》、《カードトレーダー》 |
手札 | 0枚 |
状況は決して良くない。
王子のドラゴンはまだどんな効果を秘めてるか分からない。
あたしのライフだって、一度ダメージを通したら、それだけで削りきられてしまう。
相手の手札は今はないけれど、まだ《死皇帝の陵墓》がある。
いつ違う大型ドラゴンが召喚されてもおかしくない。
反撃の手が揃うまで、なんとかしのげるようにしないと。
「あたしはモンスターをセットして、リバースをセット。
これでターンを終了するよ」
「我のターン、ドロー!
そして、《カードトレーダー》の効果で手札を交換する」
シューティングレイ・ドラゴンのLP:3800→4300→4800
|
王子が手札を引き直す度に、追いつめられている感覚がする。
引いたカードは、今は使わないみたいだけど。
「魔法カード《テラ・フォーミング》を墓地に送ることで、我自身の第二効果を発動する!
『シューティングレイ・エナジー』!!」
今度はデッキから魔法カードを墓地に送って、緑色の柔らかな光を帯びる。
カードを墓地に送る度に、違う効果を得るの……?
「これにより、我はモンスターを戦闘破壊したときに、
その攻撃力分のダメージを相手に与え、
その守備力分の我のライフを回復する効果を得る!」
《シューティングレイ・ドラゴン》
効果モンスター 星8/光属性/ドラゴン族/攻2300/守2200
1ターンに1度だけ、デッキからカード1枚を選択して墓地に送る。
このカードがフィールド上にある限り、墓地に送ったカードの種類により、
相手ターンのエンドフェイズ時まで以下の効果を得る。
●モンスター:このカードの攻撃力は墓地に送った
モンスターのレベル×100ポイントアップする。
●魔法:このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与え、
そのモンスターの守備力分だけ自分のライフポイントを回復する。
???
|
「ッ! 守備表示でも、ダメージを与えてくる効果!」
「明菜お姉ちゃんのデッキはドラゴン族!
ライフポイントは500!
ほとんどのドラゴンがこの攻撃力を越えてる!」
「明菜のデッキでそれを下回る攻撃力といえば、《ゴーレム・ドラゴン》と……」
「ミレイ、そんな目で俺を見るなー。
お互いに《ヤマタノ竜絵巻》より攻撃力が低いだろー!」
「バトルだ! 『シューティングレイ・ヴォルテックス』!!」
数え切れない光線が、裏側表示のカードを打ち抜く。
そして、砕いたカードの破片は、緑色の光の粒になり弾け飛ぶ。
火山弾のように、あたしに降り注ぐ。
シューティングレイ・ドラゴンのLP:4800→5600
|
「なるほどな。伏せていたのは、マギーか。
その《プチリュウ》以下の貧弱な攻撃力が幸いしたな」
「王子ぃー……」
「仕留め損ねたが、次はその手は通用しない。
このままターンエンドだ」
「あたしのターンだね、ドロー!」
これでその場しのぎで、モンスターを伏せることもできなくなった。
なら、あとは罠でうまく切り抜けるしか方法は……。
「あたしは《ライトニング・ワイバーン》の効果を発動するよ!
手札からこのカードを捨てて、残りの2枚を手札に加える」
《ライトニング・ワイバーン》
効果モンスター 星4/光属性/ドラゴン族/攻1500/守1400
手札からこのカードを捨てる事で、
デッキから別の「ライトニング・ワイバーン」を2枚まで手札に加える事ができる。
その後デッキをシャッフルする。
この効果は自分のメインフェイズ中のみ使用する事ができる。
|
「さらにマギーの第二効果も使っておくね。
手札のドラゴンと墓地のマギーを除外することで、2枚ドローする!
『マジカル・リロード』!」
《ドラゴ・マギー》
効果モンスター 星2/光属性/ドラゴン族/攻400/守800
このカードを融合素材モンスター1体の代わりにする事ができる。
その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。
墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
手札のドラゴン族モンスター1体をゲームから除外し、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
「ドラゴ・マギー」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
|
生け贄を本当は確保したいところだけど、うっかりモンスターを出せない。
「カードを1枚伏せて、ターンを終了するよ」
この2枚のリバースがあるなら、王子の攻撃もやり過ごせるはず。
「我のターン、ドロー。
さらに、《カードトレーダー》の効果で手札を交換する」
シューティングレイ・ドラゴンのLP:5600→6100→6600
|
「さらに《トレード・イン》を発動。
手札より《トライホーン・ドラゴン》を捨てて、カードを2枚ドロー。
そして、ドローしたことにより、さらにライフを回復する」
《トレード・イン》
通常魔法
手札からレベル8のモンスターカードを1枚捨てる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
|
シューティングレイ・ドラゴンのLP:6600→7100
|
ライフの差はどんどん開いていく。
でも、今は相手の効果に用心しながら、守るだけで精一杯だ。
「我の第三の効果を発動する!!
罠カード《ドラゴンの宝珠》を墓地に送り、効果発動!
『シューティングレイ・プレッシャー』ッ!!」
「今度はトラップカードを墓地に!」
紫色の光が集まって、大きな翼が怪しく揺らめいている。
「この効果により、1枚のカード効果を封印する!
我が封印するのは、今伏せたそのカード!」
紫色の光に、リバースが打ち抜かれる。
これって、つまり――。
《シューティングレイ・ドラゴン》
効果モンスター 星8/光属性/ドラゴン族/攻2300/守2200
1ターンに1度だけ、デッキからカード1枚を選択して墓地に送る。
このカードがフィールド上にある限り、墓地に送ったカードの種類により、
相手ターンのエンドフェイズ時まで以下の効果を得る。
●モンスター:このカードの攻撃力は墓地に送った
モンスターのレベル×100ポイントアップする。
●魔法:このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与え、
そのモンスターの守備力分だけ自分のライフポイントを回復する。
●罠:フィールド上のカード1枚を選択し、その効果を無効にする。
この効果の発動にチェーンすることはできない。
|
「指定したカードを、我の次のターンまで紙くずにする。
それは伏せカードでも、チェーンさえ許さず問答無用でだ。
カウンター罠主体のお前にはなかなか効く効果だろう。
得意な《光の護封剣》の時間稼ぎも我には通用しない!」
「モンスター、魔法、罠。それぞれを墓地に送ることで、違う効果を得る!
これが王子の効果! 状況を読んで、効果を選んでくるんだ!」
「そうだ、明菜。これが王子の特殊能力。
相手の場に応じ効果を変えて、致命傷を狙ってくる。
やっと明菜が王子の効果をすべて発動させた。
だけど、これじゃあ明菜が毎回追い詰められている!
スレスレでかわしてたんじゃ、ライフが持たないぞ!」
「その通りだ。さあ、頼みの綱はもう1枚の伏せカードか。
ゆくぞ! 『シューティングレイ・ヴォルテックス』!!」
「明菜お姉ちゃん! かわして!!」
エルちゃんから言われなくても大丈夫。
当然、通せるはずなんてない!
「もう1枚のリバースは、《エンジェル・ロンド》!!
そのダイレクトアタックを無効化するよ!
さらに手札から《サンセット・ドラゴン》を捨てて、カードを2枚ドロー!」
《エンジェル・ロンド》
カウンター罠
相手モンスターの直接攻撃宣言時に、手札を1枚捨てて発動する。
相手モンスターの直接攻撃を1度だけ無効にする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。
|
「やはり、手札補充しただけあって、備えはあったか。
だが、いつまで続くか。我は《超再生能力》を発動。
このターン、ドラゴンを1体墓地に送っている。
カードを1枚ドローし、ライフを回復してターンエンドだ」
《超再生能力》
速攻魔法
エンドフェイズ時、自分がこのターン中に
手札から捨てた、または生け贄に捧げた
ドラゴン族モンスター1体につき、デッキからカードを1枚ドローする。
|
シューティングレイ・ドラゴンのLP:7100→7600
|
さっきの王子の攻撃は、やっとのことでかわせた。
でも、それがいつまでもできるわけじゃない。
現に今封じられているカードだって、《攻撃の無力化》だ。
リューゲルさんが忠告していた通りだった。
その気になれば、フィールドのカードの効果さえ封印できるんだ。
本当ならモンスターを出して、無力化して、生け贄召喚につなげるところなのに。
完全に相手のペースに押されて、あたしの戦術を乱されてしまっている。
でも、やっと効果が掴めた。流れを引き戻す方法なら、今編み出さなくちゃ。
「あたしのターン、ドロー!」
ッ! このカードと、この手札ならもしかしたらいけるかもしれない。
仕掛けていくなら、ここのタイミングしかない。
「あたしはカードを1枚伏せて、ターンエンド!」
明菜 | LP100 |
モンスターゾーン | なし |
魔法・罠ゾーン | 伏せカード×2(うち1枚は《攻撃の無力化》) |
手札 | 3枚 |
|
|
|
シューティングレイ・ドラゴン | LP7600 |
フィールド魔法 | 《死皇帝の陵墓》 |
モンスターゾーン | 《シューティングレイ・ドラゴン》ATK2300 |
魔法・罠ゾーン | 《神の恵み》、《カードトレーダー》 |
手札 | 2枚 |
「我のターン、ドロー!
《カードトレーダー》で、手札交換を行う……」
シューティングレイ・ドラゴンのLP:7600→8100→8600
|
「その決して揺らがぬ、臆せぬ闘志。なかなかのものだ。
だが、肝心の戦況は引き寄せられていないようだがな」
「ううん、まだ勝負は分からないよ!
あたしのカウンター罠はまだ全然封じきれてないよ!」
「ほう。ならば、また封じられてみるか?」
2枚の伏せカードを、王子がにらみつける。
「我の第三効果を再び発動する……。
デッキより罠カード《破壊神の系譜》を墓地に送ることで、
前のターンから伏せられていたそのカードを封印する!
『シューティングレイ・プレッシャー』!!」
伏せていた《攻撃の無力化》はもう一度封じられる。
「バトル! 『シューティングレイ・ヴォルテックス』!!」
もう一度、無数の光線が襲ってくる。
あたしは迷わずにカードを発動する。
「リバースカード、オープン!!
その攻撃に対して発動! 《攻撃の無力化》!!」
《攻撃の無力化》
カウンター罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。
|
「えっ! あのカードの効果は封じられてるはず?!」
「エル、あの明菜が無駄なアクションをすると思うか?
効果の無いカードを敢えて発動したとなれば、
その先に狙いと、そして逆転の一手が絶対にある!」
「その通りだよ、マギー。そして、エルちゃんはもっと勉強しないとね。
やっぱり発動はできた! なら、このカードも発動できるはず!
2枚目のリバースをオープン! 《カウンター・カウンター》!!
《攻撃の無力化》の発動を無効化するよ!」
《カウンター・カウンター》
カウンター罠
カウンター罠の発動を無効にし、それを破壊する。
|
そして、逆転の純白の光が、手札で輝く。
「カウンター罠の発動を、カウンター罠の効果で無効にした!
このときに召喚できる竜の皇帝のカードがある!!
いくよ!! 《天帝竜アルジャザーイル》!!!」
天雷が空を引き裂いて、新たな竜帝が現れる。
《天帝竜アルジャザーイル》
効果モンスター 星8/光属性/ドラゴン族/攻2800/守2500
このカードは通常召喚できない。
カウンター罠の発動をカウンター罠で無効にした場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
自分のデッキからカウンター罠カード1枚を手札に加える。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
|
「ッ!! なるほど。この局面でその召喚に成功するとは。
その観察眼と、駆け引きに出る心意気! 賛嘆に値する。
さすがに策無しでは、その皇帝には敵わぬな。
だが……」
王子の手札のカードから、霧が立ちこめる。
そして、雲のように大きい、揺らめくドラゴンが現れる。
「相手が特殊召喚したことにより、《ファントム・ドラゴン》を特殊召喚する。
その大きさ故に、自分の召喚ゾーンを封じてしまうが、問題ない」
《ファントム・ドラゴン》
効果モンスター 星8/光属性/ドラゴン族/攻2300/守2200
相手がモンスターの特殊召喚に成功した時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
自分のモンスターカードゾーンは2ヵ所が使用不可能になる。
|
「まさか、アルジャザーイルの召喚を予測していた?!」
「予測……いや、違うな。
これは風向きというものだ。我は風を感じただけ。
お前の闘志が新たな風を呼び寄せる必然を読んだ。
だが、その風の流れを読めただけだ。
風を摘み取ることはここではできぬ」
王子は読めたと言っていた。
でも、少なからず、この手には動揺しているみたいだ。
少しだけ沈んだ口調で、浮かぶカードに次の一手を指示する。
「我は攻撃を中断する。そして、《アドバンスドロー》を発動。
《ファントム・ドラゴン》を生け贄に捧げ、2枚ドロー。
そして、さらにライフを回復する」
《アドバンスドロー》
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
レベル8以上のモンスター1体を生贄に捧げて発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
|
シューティングレイ・ドラゴンのLP:8600→9100
|
引いたカードを見て、王子は少しだけ考え込む仕草を見せた。
王子のこんなためらうような表情は、このデュエルで初めてだった。
「明菜よ。お前は運命を意識しているか?」
「運命?」
「言い換えれば、我が先ほど『感じた』と言った風の流れのことだ。
お前はその流れを身に感じて、決闘に臨んでいるのか?
追い風に激励を受けて、好機を意識しその身を賭すように。
鋭い風に切り刻まれ、逆境を意識しその身を奮い立たせるように」
「……………」
王子の言葉と一緒に、身を固めさせるように風が吹き込む。
ローブをすり抜けて、あたしの肌身を風の指がなぞる。
冷や汗も肌の緊張も感じ取るように、王子もこの世界もあたしを試していた。
「あたしには、運命とか流れとかそんなのは分からない。
でも、あたしにはやりたいことがある。
そして、このままにしておけないことだってある。
だから、自分のできるだけをする。それだけだよ」
「……そうか。それがお前の闘う理由か。
なるほどな。自らを奮起させるには、十分な理由だ。
だが、決闘に身を置くならば、もっとその意義を見出すことだ。
己がそこに在ること、ある風に立ち向かうということ。
それは個人だけの問題ではない」
「自分が巻き起こす風と、相手の巻き起こす風が対峙すること。
言うなれば、自分の運命と相手の運命のぶつかり合い。
それは、互いの信念が相手を圧倒しようとする決闘だ。
自ら風を放ち、相手の風を乱すこと。
相手の風に立ち向かい、その自らの風で切り開くこと。
このデュエルとて、同じことだ。
ただのカードの力や、タイミングだけではない。
そこに風の流れがある。自分を励まし、相手を阻むものが。
気勢が、強き瞳が、その手に込める力が、それを物語る。
相手の風を乱し、さらに高い場所へと導こうとする流れがある。
ドローはその最たるものだ。
勝利に値しない者に、決して利することはない。
心が動揺し、放つ風が弱まればそのドローは乱れる。
相手の意思に圧倒され、風が影響を受ければその運命の導きは乱れる。
一手一手において、一つ一つのぶつかり合いにおいて、
未来が姿を変えようとする瞬間がある。
お前はその流れを意識しなくてはならない。
もっとも……、お前は意識せずとも、感じ取っているかもしれんがな」
相手の風と、自分の手に込められた運命。
あたしはそれを意識したことはなかった。
それでも、あたしはその風を知っている気がした。
あたしを後押しする何かや、進まなければならない瞬間の予感を。
そして今だって、あたしは感じ取ることができる。
王子のプレッシャーに立ち向かおうとする何かを。
あたしと一緒に闘って後押ししてくれる何かを。
「ねえ、マギー。あの王子が珍しく相手を認めるような発言してるけど……」
「素直には絶対認めないだろうが、間違いないだろうな。
王子はあれだけ手札交換をしておきながら、決定打を繰り出せない。
それは明菜に勝負の流れが傾きかけているってことだ。
だけど、王子はあの通りまったく食い下がるつもりもない。
このデュエル、ここからが本当の勝負だな」
「我はカードを1枚伏せて、ターンエンド」
「あたしのターン、ドロー!」
何度も手札交換をしながら、確実に選び抜かれた伏せカード。
流れがあたしにあるとしても、次の手もなしに飛び込むのは危険すぎる。
アルジャザーイルを失ったら、反撃ができなくなってしまう。
ここは……。
「あたしはアルジャザーイルの効果を発動する!
『ヴァニティー・プロフェシー』!!
デッキからカウンター罠を1枚サーチするよ。
手札に加えるのは……」
1枚のカードを選び出して、王子にかざす。
「《天罰》か。モンスター効果へのカウンター、なるほどな。
これで我は第三効果以外封じられたということか。
我の喉元に刃を突きつけるとは、いい度胸だ」
「さらに《打ち出の小槌》を発動するよ!
これであたしは1枚を残して、3枚のカードを引きなおす!」
《打ち出の小槌》
通常魔法
自分の手札を任意の枚数デッキに加えてシャッフルする。
その後、デッキに加えた枚数分のカードをドローする。
|
この手なら、例えアルジャザーイルを失っても、まだ次につなげる。
ここは攻めないといけない。少しでも相手を消耗させる。
王子のドラゴンを打ち破らなくちゃいけない。
「いくよ! バトルフェイズ!
アルジャザーイルで攻撃! 『天帝浄化』!!」
白く透き通った雷を、王子のドラゴンに放った。
この攻撃を通せれば、アルジャザーイルの効果で押し切れる。
だけど、柔らかい緑色の壁が立ちふさがって、攻撃は吸収された。
あのデッキの戦術なら、確かにこのカードが複数枚あるのも分かる。
「2枚目の《ドレインシールド》。
その攻撃を無効化して、我のライフに加算する」
《ドレインシールド》
通常罠
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
そのモンスターの攻撃力分の数値だけ自分のライフポイントを回復する。
|
シューティングレイ・ドラゴンのLP:9100→11900
|
やっぱり防がれた。でも、防がれただけだ。
ライフポイントは1万をオーバーしている。
それでも大事なのはライフじゃない。このフィールドだ。
まだ、あたしが攻めに打って出られるチャンスなのは変わりない。
この天帝竜がいるフィールドを死守しなくちゃいけない。
「あたしはカードを3枚伏せる!
ターンエンド!」
「我のターン! ドロー!
さらに《カードトレーダー》の効果で手札を交換する!」
シューティングレイ・ドラゴンのLP:11900→12400→12900
|
明菜 | LP100 |
モンスターゾーン | 《天帝竜アルジャザーイル》ATK2800 |
魔法・罠ゾーン | 伏せカード×3 |
手札 | 1枚 |
|
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シューティングレイ・ドラゴン | LP11900 |
フィールド魔法 | 《死皇帝の陵墓》 |
モンスターゾーン | 《シューティングレイ・ドラゴン》ATK2300 |
魔法・罠ゾーン | 《神の恵み》、《カードトレーダー》 |
手札 | 3枚 |
「3枚のリバースか。
立ちふさがるというならば、すべて壊せばいい!
我は《巨竜の羽ばたき》を発動する!
我自身を手札に戻すことで、すべての魔法・罠を破壊する!!」
《巨竜の羽ばたき》
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
レベル5以上のドラゴン族モンスター1体を手札に戻し、
お互いのフィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する。
|
ついに来た。王子の巻き起こす大きな風が。
あたしに向かって、吹き荒れる強い風。
それでも、その風の予感を、あたしのドローは感じ取っていた。
あたしは今ここで、押し返す風を起こせる!
「リバースカード、オープン!!
《アヌビスの裁き》!
手札の《サンライズ・ドラゴン》を墓地に送って、
《巨竜の羽ばたき》の発動と効果を無効にする!」
《アヌビスの裁き》
カウンター罠
手札を1枚捨てる。
相手がコントロールする「フィールド上の魔法・罠カードを破壊する」効果を持つ
魔法カードの発動と効果を無効にし破壊する。
その後、相手フィールド上の表側表示モンスター1体を破壊し、
そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える事ができる。
|
「伏せてたのは、《天罰》じゃなかった?!」
「ああ。もうコストのための手札もないしな。
明菜はここまで闘ってきて、知ってたんだ。
目に見える対抗策じゃ王子に打ち破られることも。
それであの手札交換で、敢えて入れ替えてたんだ。
《スタンピング・クラッシュ》もまだだったしな」
「それにこのカウンターは、魔法・罠を守るだけじゃない。
その後の追加効果が起こるわ! これで王子を!!?」
黒い渦はその風を飲み込んで、さらにその勢いは収まらない。
「そして、相手の場にいるモンスターを破壊して、ダメージを与える!
破壊するのは、《シューティングレイ・ドラゴン》!!」
白銀の巨体に、黒い疾風が襲いかかる。
王子は目を見張り、たじろがずその激しさを受け止める。
「オオオオオオッ!!」
相手の攻撃を一身に受け止める。
その風を受ければ、自分が破壊されることもためらわずに。
……これが王子の闘う世界なのかもしれない。
負けることが決まったならば、目を見張り相手の実力を受け止める。
それが決闘をリスペクトするということ。闘争の美学と誇り。
そして、風が終わったとき、デュエリストとしての王子は目を閉じていた。
シューティングレイ・ドラゴンのLP:12900→10600
|
「しかと受け止めよう。お前の強さも、道を切り開く意思も。
我の手を何度も食い止め、さらに今は打ち破ってみせた。
その闘志と絶対に退かない心。称賛に値せよう」
王子は威厳を持った声で、話した。
でも、あたしは素直に言葉を返せなかった。
その裏から響いてくる声がある。
称賛の裏に秘められた、負けを決して認めない闘志。
肌をしびれさせるほどに、声が重みを持って響く。
「だが、我とてこの世界から力を託された竜の王子。
やすやすと力を譲り渡すにはいかぬ!」
その怒号に合わせて、手札の1枚のカードが開く。
「魔法カード発動! 《遙かなる飛翔》!!
ドラゴン族モンスターを墓地から除外する!
そして、そのモンスターを同じ属性とレベルを持つドラゴンを蘇生召喚する!!」
《遥かなる飛翔》
通常魔法
自分の墓地からレベル7以上のドラゴン族または
レベル7以上の鳥獣族のモンスター1体を選択して発動する。
自分の墓地からそのモンスターと同じレベル・属性・種族を持つ
モンスター1体をゲームから除外することで、
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
このカードの効果で特殊召喚したモンスターの
攻撃力は800ポイントアップする。
|
「蘇生の魔法!? それに同じレベルと種族の条件なら!」
王子のデッキは高レベル統一のドラゴン族中心のデッキ。
さらに自分の効果で好きなモンスターを墓地に送れる。
このカードの効果も逃すことなく発揮できる。
「我はレベル8・光属性のドラゴン《ファントム・ドラゴン》を墓地から除外。
そして、このモンスターの除外により、現在特殊召喚できるモンスターは2体。
我が復活させるのは、我自身《シューティングレイ・ドラゴン》!!
さらにこのカードで復活したモンスターは、攻撃力が800アップする!」
白銀に光る翼がはじけるように散らばる。
そして、もう一度空を覆うような白銀の翼竜が君臨する。
その栄光と闘志を知らせるように、光のかけらを撒き散らしながら。
《シューティングレイ・ドラゴン》ATK2300→3100
|
「この塔には、この世界に偏在する力が集まってくる。
精霊のエネルギーの地脈の中心にあるのが、この塔だ。
我はこの世界から力を託され、種々のドラゴン達から期待を受け、この塔に在る。
ドラゴンの繁栄を保ち、世界の大義なき闘いを根絶する理想のために。
この光の一粒一粒が、我に理想を託すドラゴン達の願いの結晶だ」
王子は胸を張って、周りの光へと手をかざした。
その信頼に応えるように、一粒一粒が輝きを増した。
願いを託されて、それに応えようとする強い意志。
そんな強い想いを背負ったら押しつぶされてもおかしくないのに。
王子は真正面から受け止めて、むしろ誇らしげに進み続ける。
――あたしはそのキラキラを受け取るに相応しいんだろうか?
「リバースは3枚か。闇雲に罠を射抜くよりも、ここは攻め抜く!
我は我自身の効果により、デッキより魔法カードを墓地に送る。
そして、得る力は『シューティングレイ・フォース』!!
効果ダメージと回復の効果を得る!!」
《シューティングレイ・ドラゴン》
効果モンスター 星8/光属性/ドラゴン族/攻2300/守2200
1ターンに1度だけ、デッキからカード1枚を選択して墓地に送る。
このカードがフィールド上にある限り、墓地に送ったカードの種類により、
相手ターンのエンドフェイズ時まで以下の効果を得る。
●モンスター:このカードの攻撃力は墓地に送った
モンスターのレベル×100ポイントアップする。
●魔法:このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与え、
そのモンスターの守備力分だけ自分のライフポイントを回復する。
●罠:フィールド上のカード1枚を選択し、その効果を無効にする。
この効果の発動にチェーンすることはできない。
|
「これが我を後押しする力だ!
その身に受けるがいい! その願いの力と重みを!!
『シューティングレイ・ヴォルテックス』!!」
「それでもあたしは退けない!
迎え撃って!! アルジャザーイル!
『天帝浄化』!」
白銀の光の流星嵐が放たれる。
純白の光の轟雷弾が迎え撃つ。
ぶつかり合う膨大なエネルギー。
あたしは3枚のリバースで支援したかった。
でも、それはできない。
あたしのデッキはカウンターと除去がメイン。
戦闘を想定したカードは少ない。
じりじりとアルジャザーイルが押されていく。
やがて、流星嵐がアルジャザーイルを飲み込み、破壊した。
そして、吸収しきれない衝撃波があたしを襲ってくる。
「リバース、オープン!!
《デイメンション・ウォール》!
あたしへのダメージを王子に移し替える!!」
《ディメンション・ウォール》
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
この戦闘によって自分が受ける戦闘ダメージは、
かわりに相手が受ける。
|
シューティングレイ・ドラゴンのLP:10600→10300
|
罠で相手を牽制するときに欠かせないのは、その多様性。
どんな種類の罠が伏せられてるか分からない恐怖。
そこに相手を追いつめられれば、そのまま押し切れる。
でも、王子は決して怯まない。
これだけ罠を強調しても、まだまだ攻め手を強化して、必殺を狙ってくる。
今のタイミングで罠を封じることもできたはずなのに、追撃を狙ってきた。
――でも、そのあくまで攻めを重視するところに隙があるはず。
「だが、まだ我の効果が残っている!!
モンスターの戦闘破壊により、ダメージと回復の効果が発動する!
『シューティングレイ・エナジー』!」
緑色の光の粒が弾けて、大爆発を起こす。
さっきのマギーとは桁違いの衝撃。
何も見えない神秘的な爆発の中で、あたしは1枚のカードを開いた。
「《ダメージ・ポラリライザー》を発動!
ダメージを含む効果の発動を無効にして、お互いにカードを1枚ドロー!
同時発動の回復効果も無効にする!」
《ダメージ・ポラリライザー》
カウンター罠
ダメージを与える効果が発動した時に発動する事ができる。
その発動と効果を無効にし、お互いのプレイヤーはカードを1枚ドローする。
|
シューティングレイ・ドラゴンのLP:10300→10800(神の恵み)
|
これでこのターンのバトルは終わり。
1枚のカードを引かせてしまったけど、やっとしのげた。
でも、王子のターンはまだ終わっていない。
すかさず王子は、そのカードを発動してきた。
「《強者の苦痛》を発動する!
お前のモンスターはそのレベルだけ攻撃力が下がる!
さらにカードを1枚セットする。
我はこれでターンエンド!!」
《強者の苦痛》
永続魔法
相手フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの攻撃力は、
レベル×100ポイントダウンする。
|
明菜 | LP100 |
モンスターゾーン | なし |
魔法・罠ゾーン | 伏せカード×1 |
手札 | 1枚 |
|
|
|
シューティングレイ・ドラゴン | LP10800 |
フィールド魔法 | 《死皇帝の陵墓》 |
モンスターゾーン | 《シューティングレイ・ドラゴン》ATK3100 |
魔法・罠ゾーン | 《神の恵み》、《カードトレーダー》、《遥かなる飛翔》、伏せカード×1 |
手札 | 0枚 |
フィールドのプレッシャーが強くなる。
目の前に立つ王子のドラゴンの威圧感。
覆しようが無いくらい大きいライフ差。
勝てたときの、これから背負うものの重さ。
どれも本当なら、乗り越えるのも難しいはずだった。
でも、今は違った。
澄んだ風が通り抜けるように、超えていける気がした。
あたしの気持ちが王子より強いとかそんなのじゃない。
絶対になんとかなるとか、そんな保障もない。
ただそれでも前に進んでいける、その確信があった。
その風はどこから吹いてくるんだろう。
そして、どこに向かって、この風は吹いていくんだろう。
何があたしをこんなにも勇気付けて、前に進めてくれるんだろう。
「あたしのターン、ドロー!」
この世界に来る前に、あたしは自暴自棄になっていた。
取り返しのつかないことをしてしまったから。
でも、そんなことはなかった。
後戻りとか、やり直しはできない。
けれども、この世界に来ても、あたしはいつもあたしであったように。
どんなときも、あたしのやるべきことはあたしを見逃さなかったように。
「あたしは《龍の鏡》を発動する!!
墓地の《サンライズ・ドラゴン》と《サンセット・ドラゴン》を融合!
来て! 《太陽竜リヴェイラ》!!
その『夕焼け』の効果を発動! 『サンセット・ヴェール』!!
王子のドラゴンを守備表示にするよ!」
《龍の鏡》
通常魔法
自分のフィールド上または墓地から、
融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、
ドラゴン族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)
|
《太陽竜リヴェイラ》
融合・効果モンスター 星8/光属性/ドラゴン族/攻2400/守2400
「サンライズ・ドラゴン」+「サンセット・ドラゴン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
1ターンに1度だけ、次の効果から1つを選択して発動する事ができる。
●表側表示でフィールド上に存在するモンスター1体を選択し、裏側守備表示にする。
●裏側表示でフィールド上に存在するモンスター1体を選択し、表側攻撃表示にする。
|
「させぬ!! リバース発動《スキルドレイン》!
1000ライフを支払い、その効果を無効にする!」
シューティングレイ・ドラゴンのLP:10800→9800
|
《スキルドレイン》
永続罠
1000ライフポイント払って発動する。
このカードがフィールド上に存在する限り、
フィールド上に表側表示で存在する効果モンスターの効果は無効化される。
|
「ここで逆転するはずが、そのカードかよー!」
「でも、見て! 明菜は全然動揺してないわ」
「ううん、それだけじゃない。
明菜お姉ちゃんは何だか気持ちよさそう。
まるで心地いい追い風を受けてるみたい」
世界は繋がっている。意味を持って繋がっている。
あたしは連続している。いつだって、前に向かっている。
あたしがやらなくちゃいけないことを果たすために。
――だから、帰ろう。あたしたちの世界へ。
「リバースカードオープン! 《異次元からの帰還》!!
ライフポイントを半分支払って発動!
除外されているモンスターをすべて特殊召喚するよ!
いくよ、《サンセット・ドラゴン》、《サンライズ・ドラゴン》!
そして、マギーにミレイも!!」
《異次元からの帰還》
通常罠
ライフポイントを半分払う。
ゲームから除外されている自分のモンスターを
可能な限り自分フィールド上に特殊召喚する。
エンドフェイズ時、この効果によって特殊召喚されたモンスターを
全てゲームから除外する。
|
「さらにミレイの特殊効果『ミラクル・リヴァイヴ』を発動!
このカードの効果は《スキルドレイン》が発動してても、
コストで墓地に送られてから発動になる効果だから、発動ができる!
マギーとミレイを墓地に送って、アルジャザーイルを特殊召喚!
そして、ミレイの墓地効果『ミラクル・リィンフォース』を発動!
あたしのフィールドのモンスターすべての攻撃力を800アップ!」
《ドラゴ・ミレイ》
効果モンスター 星2/光属性/ドラゴン族/攻800/守400
このカードと自分フィールド上に存在する
ドラゴン族モンスター1体を選択して生け贄に捧げる。
墓地に存在するドラゴン族モンスター1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在するドラゴン族モンスターの
攻撃力はエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも使用できる。
|
みんな最初から応援してくれてたね。ありがとう。
マギーもミレイもエルちゃんも、あたしを励ましてくれた。
その力なら、あたしはこれからも乗り越えていける気がする。
「装備魔法発動! 《団結の力》!
アルジャザーイルに装備して、攻撃力をアップする!
フィールドのモンスターは4体! 3200ポイントアップ!」
《団結の力》
装備魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体につき、
装備モンスターの攻撃力・守備力は800ポイントアップする。
|
《天帝竜アルジャザーイル》ATK2800→2000→2800→6000
《太陽竜リヴェイラ》ATK2400→1600→2400
《サンライズ・ドラゴン》ATK2400→1800→2600
《サンセット・ドラゴン》ATK2400→1800→2600
|
「すべてのモンスターで攻撃!!
『天帝浄化』! 『サンシャイン・バースト』!
『サンライズ・バースト』! 『サンセット・バースト』!」
シューティングレイ・ドラゴンのLP:9800→6900→4500→1900→0
|
すべての攻撃が通って、デュエルは一瞬で決着した。
やっと、勝てたんだ!
モンスターの映像が消えて、王子だけが残る。
王子はすべてを受け入れたみたいに、穏やかな声で語った。
「お前の風は、研ぎ澄まされた風だ。
透き通り、それでいて鋭く凛としている。
その風に魅せられて、お前を後押しする風がある。
そして、従わぬ風さえも、巻き込んでいく力強さがある。
我が起こす風さえも、巻き込んでいけ。
吹き抜ける旋風の核となれ」
王子のデッキから、カードが何枚か抜き出される。
その中でも真ん中で目立って輝くカードが1枚。
「約束通りだ。我のカードを授けよう。
そして、このカードにエネルギーを込めてある。
光の波動弾を3度撃つことができるはずだ」
「でも、このカードって王子のだよね。
あたしが持っててもいいの?」
「今はお前に必要なのだ。持って行くがいい。
この世界の風が味方し、運命を託そうと動いたのだ。
それを我が反故にするわけにはいかぬ。
この世界で必要となれば、もしくは使命を果たし終えれば、
自然と我の元に還ってくるだろう。案ずることはない」
「それは俺たちのカードも一緒だなー。
というか、俺たちなんだけど……」
マギーとミレイが顔を見合わせる。
そして、合図が通じたみたいに、ミレイがうなずいた。
「私たちもついていっていい?
別に監視するとかそんなんじゃなくて、アドバイザーとかでもなくて。
旅の仲間として、明菜についていきたい!」
王子も二人を見て、うなづく。
「せっかくの次元を駆けるいい機会だ。行くといい。
時間間隔の違いなど気にするな。
ドラゴンにとって、それは些細なことだ」
「それはあたしも嬉しいよ!
でも、あたし本当は精霊とか見えないし、大丈夫かな」
「ここで見た後なら、きっと大丈夫だろー。
まー、後は信じるしかないか。
明菜ならきっと、精霊と心を通じ合わせることを体でもう覚えてるさ。
少なくとも前でも宝珠くらいなら見えたんだしな」
「そだね。そうだといいな。
あれれ、でも、なんでいきなり見送りムードなのかな……?」
「だって、そりゃあなあ……」
マギーはステッキで、上を指さした。
空には大きな穴があった。穴の向こうはシャボン玉のような虹色。
いかにも異次元に繋がっていそう。
「さっき《異次元からの帰還》を発動しただろ。
あのときのカードの力に、気持ちも合わさったみたいだなー。
精霊界の空気って、そういうのも汲み取るから。
さらにあの怒濤の4連続攻撃でエネルギーも爆発して、押し広げられて。
それであんな大きな穴ができたわけだ。
異次元の穴は、俺たちも作るから分かるけど、あれなら明菜の世界に通じてる。
あそこに飛び込めば、そのまま帰れるよ」
「明菜、待ちきれないでしょ。
やっと力も手に入れて、やることも決まったんだから。
あとは調べて作戦を練って、動き出さなくちゃ。
となれば、ここだと時間はほとんど経たないとしても、
気持ちはいてもたってもいられないんだよね?」
「それは……うん、そうだね。
なら、ここから踏み出さないといけないよね」
少しためらっても、あたしはまた歩きだす。
だから、敢えて考えない。
悩まなくても、結論は分かるから。
ここでさよなら。挨拶をしなくちゃいけない。
あたしはうつむくエルちゃんに向き直った。
エルちゃんは、ここから先は一緒に行けない。
かがんで、話しかける。
「エルちゃん、約束したよね。
二人とも夢を果たすって。
あたしは明葉を救う。エルちゃんは小説を書く。
そして、二人で夢を確かめ合うって」
「……………」
エルちゃんはうつむいていた顔を上げた。
「うん。もうお別れなんて、寂しい。
また元に戻ったら、頼りない毎日が続く。
それで何もなかったように過ごしちゃうかもしれない」
瞳の端の涙をぬぐって、エルちゃんは続けた。
「だから、わたしは忘れない。
意味がない物語なんてない。
この世界の光のきらめきを覚えてられるなら、わたし頑張れるから。
今の約束がこの先を照らしてくれるなら、わたし頑張れるから。
また会おう、明菜お姉ちゃん!」
「うん、約束!」
あたしは小指を立てて、エルちゃんに差し出した。
「これって……?」
「あ、そっか。エルちゃんは分かんないかな。
日本の約束の合図! 指きりげんまん!
小指と小指をからませて、約束をするの」
エルちゃんは不安げに小指を差し出して、からませてきた。
「こう?」
「うん。これで約束。
エルちゃんの世界の10年後くらいかな。
日本っていう国の南に、デュエル専門の学校があるの。
そこにあたしがきっといるから。
エルちゃんはその頃にはもうあたしをとっくに追い越して大人かな。
遊びに来てね! そしたら、デュエルでもしようよ!」
「うん、約束! きっと探し出してみせるから。
今はデュエルで勝てる自信全然ないけど……。
それまでに腕も磨いとく!」
「うん。そのときでも負けるつもりはないけどね!
そうだ! あたしからカードをあげようかな」
とっさにあたしはデッキを取り出した。
お守りになりそうなカード、あったかな。
少しだけ考えて、すぐにそのカードが浮かんだ。
「このカードをあげる。使わなくてもいいけど、お守りにしてね」
差し出したのは、黄金の槍のカード。
《守護神の矛》だ。
《守護神の矛》
装備魔法
装備モンスターの攻撃力は、墓地に存在する装備モンスターと
同名カードの数×900ポイントアップする。
|
「これ、いいの? さっきのデュエルで使ってた。
攻撃力をすごくアップさせてたのに」
「うん。でも、いいんだ。だから、エルちゃんにあげる。
見守ってるって意味とか、夢を貫くって意味なら、このカードが一番面白そうかなって」
エルちゃんはカードをまじまじと見つめて、微笑んだ。
「ありがとう! わたしこのカード使いこなしてみせる!
それでお姉ちゃんをデュエルでびっくりさせるよ!」
「ふふ、それは楽しみ。だから、絶対に約束だよ!
胸を張って、会おうね!」
「うん!」
つないだ小指に力をこめて、祈りを切った。
きっとエルちゃんの夢は必ずかなっていくんだろう。
あたしが元の世界に戻っても、あの本がまだあるのなら絶対にそうだ。
もしかしたら、今傍にいる『エルさん』は気付いていて、黙っているのかもしれない。
あたしが過去の『エルさん』と出会うのを待ってるのかもしれない。
リューゲルさんが別とか何とか言ってたけど、きっとそうだと思う。
でも、そうだとしたら、どうしてウロボロスさんと一緒にいるんだろう。
それは分からない。でも、きっとこれから分かるんだろう。
この約束はきっと叶って、エルちゃんとあたしはまた会えるから。
そう考えたら、戻るのがもっと楽しみになった。
だって、ここでお別れじゃない。すべての空は繋がっているんだ。
「またね!」
この言葉が空の果てまで響いて、きっとまた会えるから。
精一杯手を振ってから、空の狭間に飛び込んだ。
―――― ――― ―― ―
第3章 希望に導かれしもの に続く…
第3章(30話以降)はこちらから