光は鼓動する

製作者:村瀬薫さん



 物語は、アニメ・遊戯王GX終了直後のアカデミア新学期を舞台として創作されています。



第1章 デュエル・スター


 も く じ 

 第12話 孤児院ルミナス1-砕けて散ったカード-
 第13話 孤児院ルミナス2-新しい生活-
 第14話 孤児院ルミナス3-デュエルモンスターズとの再会-
 第15話 孤児院ルミナス4-置いてきた影-
 章末特集1 簡易登場人物紹介
 章末特集2 久白翼の仲間たち





第12話 孤児院ルミナス1-砕けて散ったカード-



 何もかもを奪われたときを覚えている。
 でも、まだ幼くて何を失ったかも数えられない。
 だけど、僕の心と居場所は更地にされた。

 吹き荒れる嵐の災厄だった。
 何かを目で捉えようとしても、すぐどこかに飛ばされ分からなくなる。
 全てを巻き込んで、あらゆる音が叫ぶ。
 砂埃が何もかもを運んできて、何がここにあった匂いか区別できない。
 手を伸ばしても、どんなものにも届かない。
 もう何を認識することもできない。
 ここはそういう場所だった。

 でも、一つだけ認識できることがあった。
 それは、僕がその惨状から守られていること。
 薄い緑のヴェールが形作られて、僕は嵐から離されていた。

 戸惑ったままで、僕は何もない空を見つめていた。
 どんなものの存在も許さない嵐。
 ただ、一つだけ存在することが許されている自分。
 どうして守られているのかも、どうしてここにいるかも分からない。
 自分には何もできないのに、自分はここにいる。
 その意味あるはずのことが、どうしても無意味でつらかった。
 何も与えられないことが、とてつもなく寂しくなった。

 こみあげてくるつかみどころのない感情。
 怒り、悲しみ、混ぜこぜ。
 僕は目をつぶり泣いた。
 ただ、泣き叫んだ。
 声はどこにも届かない。
 ただ自分が楽になるために、泣いた。
 抑えきれないうずきを、自分から解き放ちたかっただけ。
 わめいても誰も耳を傾けてはくれない。
 分かってもらおうとしても、騒音が返ってくるだけ。
 それでも喉がしゃくりあげる。声を出そうとする。
 僕がそうしたくてそうしているんだろうか。
 体が動いているだけなんだろうか。
 ただ、じっとしていられなくて、どこかの底から突き動かされる。
 僕はどうしてこんなに飢えているんだろう。
 どうして、求めているんだろう。
 何も得られないと、すぐに分かるはずなのに。
 何も戻せるはずがないのに。

 ようやく泣き疲れて声が枯れる。
 そうして、やっと嵐はやんだ。
 全てが地に落ちて、一瞬で静かになる。
 あたりは一面の砂。
 何もつかめない、すくえない。
 僕は倒れこんだ。
 もう何も残されていない場所。
 嵐に全てを奪われた場所。
 ただ一つだけ残されていたもの。
 右手に握った大きな鷹の描かれたカード。
 意識が遠くなる前に、わずかに輝いたそのカードが目に入った。



 僕はそれからの場所をよく覚えていない。
 いろんなところに連れられた。
 でも、どこに行っても、このカードだけは持っていた。
 ボロボロだったけど、手放してはいけない気がして……。

 最初は病院だった。
 僕は少し弱っていただけで、他にケガはなかった。
 父さんも母さんも死んでしまったと聞いた。
 僕はその意味がよく分からなかったけど、もう会えないことだと知った。
 寂しい。
 心細い。
 誰も迎えに来ない。
 頭が真っ白になる。
 僕は、これからどうなるんだろう。

 見たことのない人が、僕を訪ねてきた。
 僕はその人の顔を思い出せない。
 今も顔が曇っていてよく見えない。
 だけど、にらみつけられているのは分かる。
 すごく怖かった。

「あの嵐で本当に傷一つないとはな!
 呪われた奴の息子だけあるな。
 被災者とはいえ異常がなければ、病院に入れておくわけにもいくまい!
 どうしたものかな……。

 分かった。引き取るには引き取ろう。
 こいつの身元は嫌と言うほど知っている。
 だが、世話をするかどうかは親族で相談しよう。
 いや、親族というのも認めたくないが……。
 おい! 着替えさせろ! 連れて行くぞ!」

 僕は知らない人の車に乗せられた。
 そして、今まで見たことのない場所に着いた。
 すごく大きな家だった。
 門ががっちりしきられていて、外からは何も見えない。
 冷たい場所だった。

 そこに黒い服を着て、たくさんの人が集まっていた。
 奥の台に、父さんと母さんの白黒の写真が飾られていた。
 落ち着くような、寂しいような……。
 今までかいだことのない匂いがただよっていた。
 それからお坊さんが来て、よく分からない言葉をつぶやいた。
 みんな目を閉じて、それをじっと聞いていた。
 僕も、その真似をした。

 お坊さんが去った後、みんな何か話をしていた。
 意味はよく分からなかったけど、僕のことを話していた。
 でも、「無理」とか「できない」とか「余裕がない」とか、
 たくさんの否定的な言葉が飛び交っていた。
 いろんな険しい視線が向けられて、僕は目を伏せた。
 そうしなければならない気がしたから。
 僕は嫌われている。それが分かった。
 謝らなければいけない気がしたけど、何を謝るか分からない。
 だから、ただうつむいて、黙っていた。
 早くこの呼吸しづらい空気が終わってほしい。
 そして、その後に僕はどうなるんだろう。
 何を浮かべても、考えがまとまらない。
 じっと耐えていた。

 しばらく誰も話さない間があったあとに、さっきの男の人が大きな声でしゃべった。
「つまり、誰も引き取る気はないんだな。
 私たち以外で世話をしてくれるアテを探すしかあるまい。
 で、どう探すっていうんだ?」
 また話し合って、すぐに決まったみたいだ。
 夜も遅くなっていたから、みんな寝ることになった。

 おばあさんが布団を敷いてくれた。
 そのおばあさんは心配そうに僕を見ていた。
 布団を敷いてくれて、「ありがとう」と言って、寝ようとした。
 すると、おばあさんはぽつりぽつりと話し始めた。

「すまんねぇ。孫だというのに世話もしてやれず。
 ……ただ、あの子は許せないんじゃよ。
 あの子はずっと兄さん、あんたのお父さんに憧れておった。
 じゃが、悪い噂というか(霊障というのか?)のある者と駆け落ちしてしまってな。
 急に裏切られた気持ちになって、許せないんじゃ。
 あんたを受け入れたら、それがあべこべになってしまう。
 爺も死んで、余計に自分一人で責任を背負っている。
 今のあんたには何も分からんじゃろうがな……。
 いや、分かる必要もないんじゃよ。
 誰も本当のことは分からないんじゃ。
 ただ、もっともらしい理由をつけて、納得しようとしてるだけじゃよ。
 本当は……、ただ複雑なだけじゃ。
 理由と言い訳の糸が、いちいち重なって網になる。
 その網に絡められて、みんなうまく動けなくなっているんじゃよ。
 あんたは悪くない。あんたの家族も悪くない。
 結局……、余裕のないこの世界に愚痴るしかないんじゃ。
 あんたも今はこうなっているが、納まるべきところに納まるじゃろう。
 身動きもできない納まるべき場所にな……。
 それまで……ゆっくりおやすみ……」


 朝、僕は車に乗せられた。
 この男の人は口は荒いけど、運転は丁寧だった。
 きっちりと黄色信号から止まって、ブーブー鳴らされていた。
 たくさんの人に追い越されていた。
「急ぐ奴は勝手に急げばいいんだ。私は私だ」

 着いたのは、賑わう街の真ん中だった。
 広場があって、噴水もある。立派な建物だった。
 この建物は少し冷たい場所だと思っていた。
 けれど、訪ねた場所は温かな場所だった。
 ピンクにオレンジに黄色。温かな明かり。
 一面が柔らかい色、ぬいぐるみや積み木もある。
「すまない。この『子ども家庭課』で被災孤児の養育相談というのは、受け付けているか?
 何? やってないのか。じゃあ、どこで受け付けてるんだ?
 すまないが、不勉強でな。教えてくれないか?
 『児童相談所』? 何だ、そんなおあつらえ向きの所があるのか。 場所は……」

 僕はまた違う場所に連れられる。
 よく分からないけど、この人は僕のために動いてくれてる。
 僕のことは嫌いなはずなのに……。
 僕はこの人にどんな顔をしていいか、分からなかった。

「あまり心配するな。何もお前を地獄に連れてくわけじゃない。
 お前みたいな奴を引き取る専門家に相談してるだけだ。
 きっと私たちよりもずっと優しくて、余裕のある方々さ。
 お前もそこにいる方がずっといいだろう。
 安心して暮らせるだろうに」

 僕は「ありがとう」と言った。

「恨まれては困るが、感謝されても困るな。
 私がしているのは、単なる整理だ。
 お前のためじゃなく、私たちのために動いているだけだ」

 感情で声はゆれずに、淡々と。
 用意していたように、答えは返された。


 僕は次の場所にしばらくの間いることになる。

「何だ? 全部話せというのか?
 まぁ仕方あるまい。
 長い話になりそうだ。こいつは遊ばせておけ。
 私はこの子の叔父、父親の弟でな。両親は先の災厄で……」

 僕は遊ぶスペースに連れて行かれて、ブロックを組み立てて遊んでいた。
 他にも何人か子どもがいたけど、僕みたいに一人遊びをしている子が多かった。

 しばらくして、あの人が来た。
「お前は少しの間、ここで暮らすことになる。
 引き取ってくれる所が見つかるまでな。
 孤児院か……里親か……。
 いや、今は孤児院と言わないのか。児童養護施設だったか?
 ひとまず、私の役割はここまでだ。
 居場所は連絡されるが、もう会うこともないだろう」

 男の人はようやくひとつのことが終わったというふうに、ため息をついた。

「今は分からないだろうが、お前にはいろんなしがらみがある。
 だが、お前は自由に生きていい。
 どのしがらみも、お前を完全に縛ることはできない。
 お前の父親のように、運命を打ち破って生きるといい。
 例え、忌まわしき血がまとわりついてもな」

 僕にそう言って、この人は職員の人に向き直った。

「至らない私たちで申し訳ありません。
 この子の世話をどうかよろしくお願いします」

 深く、長い礼をした。

 いきなりの丁寧なお辞儀。
 周りの人はみんなびっくりしていた。

「じゃあな、翼」
 軽く手をあげて、別れの挨拶をする。

 はじめて名前を呼ばれて、僕はびっくりした。
 僕は精一杯手を振り返した。

 男の人は振り返らずに、車に戻るまでずっと手をあげていた。
 僕の中の何かへも別れを告げるみたいに。



 何日かをその場所で過ごした。
 ここの人たちは僕の世話をしてくれた。
 話も聞いてくれた。
 だけど、それは『振り』が多かった気がする。
 すぐに切り替わる愛想笑い。
 本当は聴いていない、覚えていない。
 だから、きっと僕はずっとここにはいないんだろう。
 
 そして、僕に迎えが来た。
「あなたが久白 翼くんですね?」

 背が高いけど、怖い感じはしない。
 白いひげが形よく切りそろえられている。
 穏やかに笑みを浮かべた表情。
 たくさんしわがあって、お年寄りなんだろうけど、背筋がぴんとのびていて、きれいにしてある服は行き届いていた。
 黒を中心とした、格好いい魔法使いみたいな服だった。
 (司祭服の名称と意味を、僕は少し先に知る)

「うん」
 僕はうなずいた。

「私は鏡原 英志(かがみはら えいじ)と申します。
 これから翼くんが成人するまで、お力添えをさせていただきます。
 どうぞ、よろしくお願いします」

 腰を低くして、手を伸ばしてきた。
 その手に、僕は手をかさねた。
 かたく握手をした。

「さあ、行きましょう。
 翼くんの新しいお家へです。
 児童養護施設ルミナス。きっと気に入ると思います」

 向かう車の中で、僕は久しぶりに気分が弾んでいた。
 このおじいさんについていけば、面白いことが見られる。
 そんな気がしていた。
 こんな服を着た人も、たくさんいるんだろうか?

「うん? この服が気になるのですか?
 ああ、これは普段は私は着ないんですがね。
 今日は正式な場だったから、着ているんです。
 新しい家族、翼くんを迎え入れる記念すべき日ですから。
 これが私たちの正装ということに一応なってます。
 もっとも私はあまり敬虔な信徒ではないのですが……。
 いつもは作業着で汚れっぱなしなんですよ。
 菜園をいじったりしますから。
 そういえば……、あなたは何が好きですか?」

 突然、僕のことを聞かれて、少しとまどった。

「ああ、すみません。ぶしつけな質問でしたか。
 いえね、子どものしたいことに応じて、当番を決めるんです。
 例えば、動物・植物の世話、お掃除、料理の手伝いなどね……。
 その参考というのもありますし、それに……。
 単に翼くんのことを知りたいんですよ。
 これから長いつきあいになりますから」

 僕はこの人になら、いろんなことを話してもいいと思った。
 恥ずかしがって隠す必要は、きっとない。

「僕は、図鑑を見るのがすごく好きなんだ。
 鳥とか、花とかの! 写真がたくさんの本が好き!
 あと、それを見に行くのも好き!
 あとね! ブロックとか組み立てるのも好き。
 何か形になるのが楽しいんだ!
 それと……」

 僕はポケットから、あのカードを取り出した。
 前はキラキラしてたけど、今はくすんでしまったカード。

「父さんがときどき買ってくれたこのカードが好きなんだ。
 たくさんの絵柄があって、みんな格好よくて!
 その中でもこのカードが一番のお気に入りなんだけど、ボロボロになっちゃった……」

 おじいさんは運転しながら、ちらりとカードを見ると、表情を変えた。
 すごく嬉しそうに、目が見開いて「おお!」と驚きの声をあげた。
 わざわざ車を寄せて止めて、僕に聞いてきた。

「翼くんは、デュエルモンスターズを知っているのですか!?」

「これは じゅ、『でゅえるもんすたーず』って言うの?
 よく分からないけど、好きだよ」

「そのカードをよく見せてくれませんか?」

「え、え? いいけど、傷つけたらダメだからね!」

 僕はそっとカードを手渡した。
 おじいさんはまじまじとカードを見つめる。

「《輝鳥-アエル・アクイラ》……。
 いいカードですね……」

「おじいさん、このカードのことたくさん知ってるの?」

「知ってるも何も……。
 そうですね、このカードのことならこの辺りで一番詳しいんですよ。
 あとで私のコレクションも見せてあげましょう。
 もっと魅力的なデュエル……いえ、ショーの映像も見せてあげますよ!」

「え! そんなのがあるの!?」

「あるんですよ。デュエルモンスターズは集めるのも楽しみの一つですが、
 ここに書いてある数字とここの効果で、対戦するゲームもできるんです。
 私はその『デュエル』の道のプロだったんですよ」

「ええ! すごい! 早くいろんなカードが見たい!」
「いいですとも!
 しかし、不思議ですね。
 こうして焼けただれたようにシミがついてるなんて。
 翼くんはすごく大切にこのカードを扱っているようですが……。
 どこかに持ち歩いたりしたのですか?」

「ううん。僕もどうしてこうなったかは分からないんだ。
 確かにいつも肌身離さずに持っていたんだけど……。
 あの嵐があってからかな? こんな風になっちゃって……。
 ねえ! このカードを直せないかな?」

「うーん……、難しいですね……。
 ただのシミならばどうにかなりますがね。
 いえ、ですが、これはもしや……。
 どうしてこうなったか分からないと、ちょっと何とも言えません。
 ひとまず、このカードは……」

 そう言って、おじいさんはバッグから透明なシートを取り出した。
 カードと同じサイズだ。その中にアクイラを入れていく。

「これで少しは汚れなくなるでしょう。
 これは『スリーブ』といって、カードを汚れから守るものなんです」

「わあ、ありがとう!
 またきれいに戻ると、いいんだけどなー。
 ねえ! おじいさんのカードも見せてよ!」

「ええ、そうですね。先を急ぎましょうか」
 おじいさんはバッグのチャックを閉じて、車を発進させようとした。


 ――そのときだった。

「おじいさん! あの車!!」

 すごいスピードで車がこっちに向かってくる。
 運転してる人は目を閉じている。
 このままだとぶつけられる。

「伏せなさい!」

 脱出するのは間に合わない。
 身をかがめた。

 僕を守るように、おじいさんがおおいかぶさる。

 僕は怖くて、手を握った。
 手の中にあるカードも、握りしめた。
 そのとき、頭の中を透き通るような感覚が突き抜けた。
 すぐにぶつかった衝撃が来ると思った。
 でも、それは来ない。
 かわりにすごい風で、車が揺れたみたいだ。
 ごおうおうと、すごい音がした。
 僕は恐る恐る顔をあげてみた。

 そして、僕ははじめて見たんだ。
 緑色に透き通る大きなワシの姿を。
 とがったくちばしと鼻と羽毛。
 何もかもを包み込むような大きな翼。
 あのカードのイラストそのままの、《輝鳥-アエル・アクイラ》がそこにいた。

 向かってきた車はもう目の前にはなかった。
 振り返った先に、その車は僕たちの後ろ側に止まっていた。
 ガードレールに車体をこすりつけて、ようやく止まっていた。
「まさか助かるとは……。これはカードの精霊の力ですか?
 目の前にいるのはさっきのカードの……」
「アクイラ……」
 僕はいつのまにか呼びかけていた。
「きみが助けてくれたんだね……。
 あの嵐のときも、そして今も……」
 僕には分かる。いつも見守ってくれていたことを。
 そして、伝わってきた。
 アクイラの伝えたい気持ちが……。

 君を護れてよかった。
 君の母さんからの使命を果たせて……。
 だけど、私はもうここまでだ。
 君とずっと一緒にいれなくて、すまな……。

「アクイ…ラ……?」
 目の前のアクイラのイメージが薄らいでいく。
 少しずつアクイラを作っていた緑の光が散り散りになっていく。
「アクイラ!」
 僕は手を伸ばした。
 だけど、窓越しで届くはずもなくて。
 光はすくいきれずにそのまま……。
 そして、僕が握っていたカードに目をやると……。

 カードは砕けて散っていた。
 スリーブの中でようやくもとの形を留めて。

「わああああああああ!」
 僕は泣き叫んだ。
 僕のお気に入りを失ったのが嫌だ。
 でも、それ以上に何か大切なつながりを失った気がする。
 父さんからもらったカード。
 母さんから……。
 母さん?
 そうだ。アクイラに頼んだのは母さん?
 だから、僕はあの嵐の中でも大丈夫で。
 このカードはそのつながり。
 それを僕は散り散りに……。

「翼くん、どうしたのです?
 ややっ! これは!
 カードがこんな風にやぶれてしまうとは……。
 これはもしや、やはり……。

 予定変更ですね。
 施設に行く前に、寄るところができました。
 翼くん、ちょっとだけ待っててくださいね。
 もしかしたら直せるかもしれません」

 おじいさんは車を飛ばした。
 僕はふさぎ込んで、カードを見つめていた。



「さて、着きましたよ」
 着いたのは、アパートだった。
 新しくてぴかぴかしている。白い塗装がまぶしい。

「ここに住んでいる人なら、何か知っているかもしれません」
 一室の前で呼び鈴を押す。

『はーい。誰なのニャ?』

 すぐにおどけた調子で返事があった。

「大徳寺さん、ルミナスの鏡原です。災厄に関することで追加情報がありまして……。
 以前話していたデュエルモンスターズと魔術の関係性について、
 つまり超神秘科学体系(ミスティック・サイエンス・システム)についても……」

『それは大事な用件なのニャ。すぐ向かうのニャ』

 出てきたのは、背が高くてやせた男の人だった。
 真ん中から分けた黒い髪がなびいている。
 目はニコニコしているが、優しい感じはあまりしなかった。
 むしろ何かを隠しているようにも見えた。

「突然お伺いしてしまってすいません。
 ちょっとこの子、翼くんのためにもすぐに必要で……」

「別に大丈夫なのニャ。
 その用件ならいつでも聞くのニャ。
 それにしても、その子すごく落ち込んでるけど、大丈夫ニャ?」

「実はそれも関連して、急ぎなのです。
 早速用件なのですが、このカードを直してほしいのです」
 そう言って、僕の持っているカードを指した。

「うわあ、これはメチャクチャなのニャ。
 どうしてこうなったというのニャ?」

「『説明できない力』が発動して、こうなりました。
 私たちの車に居眠り運転の車が衝突しようとしました。
 そこに突然地面から風が巻き上げて、私たちは無傷。
 そのドライバーも車は損傷したものの、大したケガなく済みました。
 そして、事故の前後で大きく変わったのはこのカードだけだったのです。
 最初からすすけていたのですが、事故のあとにこうして散々にやぶけてしまいました。
 さらに翼くんが言うには、すすけてしまったのも『嵐の災厄』の後だそうです。
 翼くんはあの嵐の中の貴重な生き残りなのです。

 二度、通常では説明できない奇跡が起きました。
 前後の変化はこのカードの消耗のみです。
 あなたの言う超神秘科学体系とデュエルモンスターズとの関連。
 つまりはデュエルモンスターズの引き起こす不思議な力。
 それに関連していると思い、頼みに来ました。

 いやまぁ単純にこの子のためにカードを直せないかと、
 困っているだけでもあるのですが……」

 そこまで話終わると、大徳寺さんは急に真面目な顔つきになった。
「素晴らしく貴重な情報ニャ。
 翼くん、ちょっとそのカードを貸してほしいのニャ」

 僕は放したくなかったけど、怖いから手渡した。
 声は穏やかなのに、目がもう笑っていない。

「……少し調べさせてほしいのニャ。
 ついてきてほしいのニャ」

 大徳寺さんについて、アパートの裏にまわった。
 そして、物置みたいなところを開けた。
 その部屋は、暗い地下に長い階段が続いていた。

「この先なのニャ。
 子どもが歩くには危ないから、おぶってあげてほしいのニャ」

 僕たちは下っていった。そして、ひとつの扉。
「さぁ、ここなのニャ」
 大徳寺さんは扉を開け放つ。

 目の前は見たことのないものばかりになった。
 棺おけ、ずがいこつ、生き物の羽根や体毛、たくさんの本、
 鮮やかな色の液体の入った試験管、人を飲み込めそうなくらい大きな釜、部屋の中心には大きな魔方陣。
 まるで映画の魔法使いの部屋みたいだ。

「ここは……」
 おじいさんもびっくりしている。
「もうここに来たら隠す必要はない」
 大徳寺さんの声色が変わる。
 瞳が赤色になって、魔法が宿っているみたいだ。

「私の本来の名はアムナエル。
 災害調査という名目でここに来ているが、実際は錬金術師であるからここにいる。
 私たちは大いなるエネルギーが発生するところには、いつでもどこでも向かう。
 この部屋も錬金術の研究のための工房(アトリエ)だ。

 過去にはプロ・デュエリストであり、現在は孤児院経営をしている鏡原さん。
 あなたは災厄とデュエルモンスターズのどちらにも通じている。
 だから、超神秘科学体系の存在とデュエルモンスターズの可能性も教えた。
 それがこんなにも早くその有力なリンクに巡り合わせてくれるとは……」

「これは……いやはや……。
 いきなり話が大きくなりましたが、特に話は変わりません。
 錬金術に精通していることを広める気もないですし。
 それで……このカードは直せそうなのですか?」

「デュエルモンスターズが魔術道具として『普遍性』を備えているのならば」

「うぅむ、私にはよく分からないのですが、可能性はありそうなのですね?」

「私はデュエルモンスターズをある程度しか『視た』ことはない。
 このようにいわゆる『精霊が宿っている』とされるカードを手にするのも初めてだ。
 だが、デュエルモンスターズが魔術道具として『起動』する可能性は極めて高い」

 すごく熱気が込められた口調で語っている。
 僕は何を話しているのか分からない。
 おじいさんも早く直してほしくて困っている。

 その空気に気付いて、大徳寺さんは調子を変えた。

「いけないいけないニャ。興奮して、熱くなりすぎたのニャ。
 現代科学にかぶれた普通の人には分かるわけないのニャ。
 とはいえ、全く説明しないのも不親切ニャ。
 そこで実験しながら、紹介するのニャ」

「ええ……。私も興味深いには興味深いのですが、今は時間もないです。
 本来は翼くんをまっすぐルミナスまで送るはずでしたし。
 申し訳ないのですが、手短かで分かりやすくお願いします」

「心得たのニャ。
 じゃあ、まず普通のカードの説明からいくニャ」

 そう言うと明かりが消えて、真っ暗になる。
 そして、大徳寺さんの周りだけ明るくなった。

「ここにごく普通のデュエルモンスターズのカードがあるのニャ。
 これは《エルディーン》のカード。タネも仕掛けもないカードニャ。
 そう……タネも仕掛けもないはずなのニャ……。
 でも、この金の粉をかけると……」

 そう言って、そのカードのイラストに粉をかける。
 だけど、何も起こらない。少し光ったようにも見えたけど……。

「こんな風に表側は何ともないのニャ。
 今度はうずまきみたいな紋様の裏側にかけてみるのニャ」

 そのまま、粉をかける。
 するとキラキラと反応する。
 黄金色に光って、うず状に。
 中心の黒に向かって、吸い込まれていくように。
 でも、その黒はどこかに通じているようでどこにも通じない。
 ふさがれている穴のようだ。

「これが『デュエルモンスターズには魔術道具としての可能性がある』ということニャ。
 今、中心のだ円形の黒点に向かって、黄色い線が何重にも浮かび上がったのニャ。
 今の黄色の粉は魔術の力が通うためのパイプやラインに反応するのニャ。
 機械なら電子回路や電線、植物なら葉脈に水脈を思い浮かべればいいのニャ。

 つまり、どんな原理か、どういう意図を持ってかは分からないけど、
 あらかじめ魔力が通るためのラインが組み込まれているのニャ。

 ここまでは私の研究で分かっていたことなのニャ。
 どのカードでも裏側は同じ反応をするのニャ。

 つまり、デュエルモンスターズはマジックアイテムとしての素質があるのニャ。
 魔法使いがよく使うホウキ、杖みたいにニャ。
(あ、あれはフィクションとして語られてるけど、錬金術と同じく実在するのニャ。
 でも、ちゃんとした手法を持って作られなければ、存分には使えないニャ)

 これまでの研究ではここまでは分かっていたのニャ。
 問題はその先ニャ」

 そこまで話すと、明かりがともった。

「だけど、デュエルモンスターズで魔術を発生させる方法は分からないのニャ。
 これがさっき言った『起動』ということなのニャ」

 今度は白い粉の入った試験管を取り出した。
「これは魔力の込められた粉。純度が高いからエネルギーそのものと言ってもいいのニャ。
 これをこのホウキにかけてみるのニャ」

 さらさらとホウキに粉がかけられる。
 次の瞬間、ホウキは命を与えられたみたいに動き出した。
 ぶんとすごいスピードで前に進む。
 そして、壁にぶつかって止まった。

「今度はこのパピルスにかかれた魔方陣にかけてみるのニャ」

 粉が触れると、魔方陣が青く光って波打つ。
 そして、ボンと炎が起こった。すぐに燃えてなくなってしまう。
 すごい! 本当にこの人は魔法使いみたいだ!!

「こんな風に普通のマジックアイテムは、魔力を注げば『起動』するのニャ。
 それがデュエルモンスターズだと……」

 さっきみたいに粉をふりかける。
 僕はうきうきしながら手品を見つめる。
 でも、さらさらと流れていくだけで何も起こらなかった。

「確かに魔術のためのラインはあるのニャ。
 でも、それを活性化させる方法が分からないのニャ。

 何らかの力を発動する仕組みが用意されている。でも、その作動方法は分からない。
 ここがミッシング・リンク(解明できないつながり)になっているのニャ。
 つまり、普通のカードは魔術の水脈が死んだままで魔力の水が流れてくれないのニャ」

 そして、ようやくテーブルに置かれていた僕のアクイラを手に取る。

「でも、特別なカードもあると聞いていたのニャ。
 デュエル中に説明できない現象が起こることが、まことしやかに語られているのニャ。
 デュエル後に仮死状態になったり、幻覚が起こされたり……。
 特に神のカードと呼ばれるカードとか貴重なカードにそういう噂が絶えないのニャ。

 このカードもそんな説明できない現象を引き起こしてきたのニャ。
 何かがあって、特別なカードになっていると推測できるのニャ。
 だから、私の推測が正しければこのカードは治ってしまうのニャ」

「やや! 直せるのですか?」

「私の推測が当たってれば、直せるのニャ。
 ちょっとスリーブから取って、綺麗に裏側にして並べるのニャ」

 一枚一枚の破片を取り出して、またそのまま裏返して並べた。

「これにさっきの白い粉をかけてみるのニャ」

 人差し指と親指から、少しずつ分け与えるみたいに。
 白い粉が、光が流れ落ちていく。
 すると黄色い線が流れ星のようにぐるぐるとカードをめぐり始めた。
 そして、さっきは何の反応もなかった真ん中の黒い円が光る。
 電球みたいに輝きを強めていく。
 まぶしくカード全体が輝き始める。
 中心部の光は心臓のように鼓動し、生きているみたいだ。
 そして、風がうずまいて埃をまきあげる。
 喜びの声をあげるみたいにざわめいて。
 そこで大徳寺さんが粉をかけるのをやめる。
 光はおさまり、いつのまにかカードはキズ一つない状態に戻っていた。
 そして、あのとき見た緑の大きなワシが宙にいた。
 僕に向かって鳴いて、大丈夫なことを見せ付けるように部屋を飛び回る。
 それに合わせて、僕も首を動かして目で追いかける。

 すごい! アクイラが元に戻った!!
 でも、大徳寺さんには見えてないみたいだ。
 僕とおじいさんがアクイラを見ても、大徳寺さんはカードに夢中なままだ。

 大徳寺さんは目をまた赤く光らせて、興奮してまくしたてる。
「す……素晴らしい。思った通りの成果だ。
 一度活性化さえすれば、魔術回路は生きる。
 それなら問題なく魔力は通って『起動』する。
 中心部に核のある疑似生命が形成されて、力が体現される。
 これで力を制御できれば、あの方の願いも私の目的も……。
 しかし、問題は活性化させる方法だ。
 他の活性化済みのカードと安置するか、それとも何らかのショックを与えるか、または膨大な魔力とともに密閉するか、もしくは違う魔術体系を組み込めばいいのか……。
 どちらにしろ、これは超神秘科学体系の一端として間違いなく探求の価値がある。
 私の行きつく先もデュエルモンスターズであったのかもしれない……」

「ひとまず直りましたね!
 翼くん、よかったですね!
 しかし、またこういったことが起こってしまうのでは?」

「そうだな……」
 僕にうかがうような険しい目を向けて、いきなり黄色い粉をふりかけた。
 けむたい。
 僕は思わず腕で振り払った。
 するとその粉に触れた腕が黄色く光った。

「やはりか……。天然の魔術師とは……」
 納得がいったみたいに、大徳寺さんはつぶやいた。

「デュエルモンスターズが疑似生命即ち精霊を宿すマジックアイテムならば、
 その精霊の意志のみで、自分を消滅させるようなことは通常は行わない。
 自分を傷つけるほどの力をセーブするように、生き物はできている。
 となれば、つまりこの子にはその魔力を抽出する、
 または発揮させる魔術の力があるということだ。
 普段はコントロールできないだろうが、無意識のうちに発揮していたんだろう」

 そう言うと、戸棚の奥から何かを取り出した。
 銀の腕輪。かすかに光っている。

「これを身につけなさい。
 銀は魔を退ける力を持つ。
 本来は抗魔に使われるものだが、抑魔にも効果はある。
 これで力は抑えられる。
 ただし、お前の力が抑えきれないほどになれば、自然と壊れる。
 その頃には制御できるくらいに成長しているだろう」

 僕は腕輪をつけさせられた。
 はずれない。びくともしない。

「肌荒れや成長して食い込むなどの支障がないように作られている。
 より強い力に目覚めなければ、一生を平穏に暮らせるはずだ。
 孤児院なら魔術の鍛錬をさせるはずもないから、大丈夫だろう。
 ただし……」

 目を見開き、僕を鋭く見つめる。
「次の救済はない。
 私は流浪の錬金術師。ここもすぐに離れるだろう。
 今度お前が何かを失ったら、私はその傍にはいない。  取り返しのつかないことになる。
 お前の能力を極めれば、地脈を吸い取り野山を枯らすこともできる。
 それほどの力が宿っていることを忘れるな。
 もっとも……、今のお前には何も実感できないだろうがな」

 そこまで言うと、顔がゆるみ目の色も元に戻った。

「そういうことなのニャ。
 だから、新しい保護者の鏡原さん。
 この子の監督をしっかり頼むニャ」

「分かりました。
 そういう特別な子どもも私たちに任されやすいですからね。
 できる限り見守ってあげますとも」

 パンパンと手をたたき、場がしきられる。
「さあ! 用事が済んだなら、帰るニャ!
 それとも研究材料として、そのカードをくれるのかニャ?」

 よだれをたらして、僕のアクイラのカードを見つめる。
「ダメ!!」
「いけません。あなたの研究も恐らく大事なことなのでしょうが、
 この子にとって親の形見とも言えるものなのです。遠慮してあげてください」

「ただの冗談ニャ。そんな真面目に受け取ることないのニャ。
 じゃあ、もし違うことが分かったら、報告よろしくニャ。
 私はもう少しこの『嵐の災厄』について調べているのニャ。
 この子を守ったのもデュエルモンスターズの超神秘なら、
 もしかしたら、超災害を引き起こしたのもデュエルモンスターズかもしれないのニャ」

「分かりました。こちらも報告を待っています。
 さあ、今度こそ向かいましょう。翼くんの新しいお家へ」





第13話 孤児院ルミナス2-新しい生活-



「さあ、着きましたよ」

 着いたのは、新しくて大きめの家だった。
 新しい住宅団地から少し離れた場所。
 今は春の始まりの夕暮れ。
 山が近くて、虫の鳴き声が聞こえる。
 まだ少し冷たい風に、頭の中まで澄んでいく。

 マンションに暮らしていた僕には、この一軒家は新鮮だった。

 おじいさんはドアに手をかける。
「遅れると電話したとはいえ、待たせてしまいましたね。
 今は春休みの時期ですから、みんな家にいます。
 だから、今日は……」

 ドアを開け放つと、たくさんの人が玄関に押し寄せていた。
 所狭しと、6人の子どもに6人の大人と、白い毛玉みたいな小さな犬。

「翼くん! ようこそ、ルミナスへ!!」

 パン! パン!! パン!!!

 クラッカーが鳴らされる。
 僕を迎えるみんなの笑顔。
「ただいま帰りました。
 今日は翼くんの歓迎パーティです。
 悲しいこともあったでしょう。
 ですが、今はこの巡り会いに感謝しましょう」
 そう言って、おじいさんは右手で十字をきった。

 それを見て、男の子が笑い出した。
「うわあ……。オーナー先生が十字を切るの久々に見たぁ。
 堅苦しいのは抜きにして、早く入ってよ!
 ここ狭いし、俺おなかが空いた!」
「分かりました分かりました。さぁ、食堂はこっちです」

 食堂に入って、子ども達はみんな長テーブルの席に着く。
 たくさんの料理が並んでいる。
 僕も席をすすめられて、座った。
 あのおじいさんが右手の角の席に着いた。
「さて、これからルミナスの新しい家族に加わる久白翼くんです。
 先の嵐の不幸で、こちらの方に来ることになりました。
 今は幼稚園を卒業したばかりで、この4月から小学校に通うことになります。
 だから、明菜ちゃんと同い年ですね。
 みなさん仲良くしましょう。
 それでは固いことはここまでです。
 乾杯しましょう!
 杯を持って……、乾杯!」

「「かんぱーい!!」」

 パーティが始まった。
 今まで病院と児童相談所の簡素な食事が続いていたから、すごくおいしく感じた。
 代わる代わる話しかけられた。
 僕は質問攻めにされて、いろんなことを説明される。
 趣味とか好きなもののこと。
 ここの生活がどんな感じだとか。

 くすぐったい気持ちになる。
 大人の人たちに囲まれて、ちやほやされるときみたいに。

 僕はみんなの質問に、ようやく答えていた。
 でも、こっちからは全然話しかけられない。
 まだ、みんなと会ったばかり。
 何を話していいか分からない。
 もじもじとするしかない。

 でも、僕は明菜ちゃんって女の子とたくさん話をした。
「あたしもね、ここに来てまだ2ヶ月くらいなんだ。
 4月からは一緒の小学校だし、よろしくね」
「うん、よろしく!」
 僕は握手をする。
「あれ? じゃあ、コタロの散歩は翼くんになるの?」
「コタロってこの子のこと?」
 さっきから足下からじゃれてくる白い子犬を指先でつつく。
「うん! さっき日課のこと話したでしょ?
 ここでは料理とか掃除とか、なにかの家事をみんなで分担するって!
 それでね、最初の日課ではこの子の世話をするんだって。
 だから、あたしが今までオーナー先生と一緒にお散歩と餌やりをしてたの。
 ねえ、オーナー先生! どうするの?」
「うーん……、そうですねぇ……。
 こんな短い間に2人も迎えるのは確かに珍しいですしね。
 翼くんも明菜ちゃんもまだ幼いですし……。
 3人でお世話しましょうか!」
「やったー! じゃあ改めてよろしくね、翼くん」
 二人が笑っているから、僕も笑い返した。


 僕の生活がすごくめまぐるしいものに変わるかと思ったけど、そうでもないみたいだ。
 生活リズムは普通と変わらない。
 きっと学校が始まれば、朝から昼は学校で、夕方には帰って。
 ただ、帰って過ごすところがすり替えられただけみたいだ。

 でも、それはやっぱり大きな違いだ。
 ここには僕が今まで遊んできたものがない。
 何をして過ごせばいいのか分からなかった。
 そこにあるものは、多分誰かのもの。
 だけど、聞くのもためらわれた。
 僕は手持ちぶさたにしていた。

 だから、逆に日課のときは安心できた。
 やることが決まっていて、お決まりをこなすだけでいい。
 僕が何をしていいか分からない感じにならなくて済む。
 他にも誰かに誘われたときとかは嬉しかった。
 何をしていいか分からない時間が一番困る。

 僕が縄を持ちながら、コタロが先をとてとてと歩いていく。
 コタロは小刻みに忙しく歩いてるけど、僕たちは歩くだけで追いつける。
 コタロは歩きながらこっちを何度も振り返る。
 ご機嫌そうに舌を出して、しっぽを振っている。
「コタロはね、シーズーっていう犬種なの。犬にもたくさん種類があるんだよ。
 ルミナスに戻ったら、一緒に図鑑見て、オーナー先生にお世話のための本を読んでもらおうよ」
 明菜ちゃんは得意そうにコタロのこととか、世話のやり方を説明してくれる。

「このお散歩は単なる散歩なんですが、他にもいろいろ考えてあるんです。
 ここに来た子に早めにこのあたりの場所を覚えて親しんでもらうことや、近所の人に顔を見せることも兼ねているんです。
 うちは保育士や栄養士の他にも、ボランティアや信徒や近隣住民の方から協力を得て、運営していますからね」
 おじいさんは相変わらず説明が大好きみたいだ。でも、よく分からない。
「ひとまず、翼くんがここに早く慣れてくれたらなという話なんです」
「うん、そっか。なら大丈夫だよ。
 ここはみんな優しいから!」
 僕はそう言って、微笑んだ。
 みんなが笑顔のここは、居心地がいいはずなんだ。
 きっと僕が感じている不和も少しずつなくなっていくだろう。

「ねえ、変な質問していい?」
 散歩が終わり際に、僕は明菜ちゃんに話しかけた。
「なぁに?」
「明菜ちゃんはどうやってここに慣れたの?」
 明菜ちゃんは首を傾げる。
 僕も的外れで、答えにくい質問だと思った。
「どうしても何も、そのうちに……。
 でも……、そうだね……」
 明菜ちゃんは少し遠い目をして、前を見据えて話した。
「あたしは強く生きなくちゃいけないんだ。
 自分の殻に閉じこもっている場合じゃない。
 だから、あたしは手を差し出して向き合うんだ」

 思いのほか、力強い答えが返ってきた。
 目の前の女の子がすごく大人びて見えた。
 ――そして、遠く感じた。
 僕はただ迷っているだけなのに、明菜ちゃんは……。
「なんだか……、すごいや」
「ご、ごめんね。いきなり熱っぽい話し方して。
 翼くんはあたしのこと知らないのに。
 でも、そのうちに教えてあげるね。
 あたしがここに来ることになった理由。
 だけど、今は辛気くさくなっちゃうから、教えない!」
 明菜ちゃんはそう言って、笑った。


 夜に一人で眠るときに、僕はとりとめもなく考える。
(隣り合わせに布団を敷いていても、僕は一人だ)

 これまで僕は違う場所にいた。
 こうなることを全く想像できない僕がいた。
 なんとなく歩いていく。
 誰かの後ろ姿についていく。
 行き先も知らないまま、手を引かれる。
 巻き込まれる。
 気がつくと、見覚えのない場所。
 ここには僕の意志がない。

 でも、僕は手を引くことができていない。
 みんなに頼って甘えていいのか、分からない。
 ここにいる人は本来僕に関わるはずもなかった人達。
 僕はどう寄りかかればいいんだろう。
 何だか気後れしてしまう。

 僕は今をどう受け止めて過ごしていいか分からなかった。
 どこで何をして、誰に話しかけていいのかが分からなかった。
 気持ちが落ち着かなかった。

 だから、僕は一人で散歩に行きたかった。
 少しだけこの道をはずれてみたかった。
 今の外側から、今を見てみたいと思った。

 僕は下駄箱から余っていた靴を取り出していた。
 ガボガボのどこにも行けなさそうな靴。
 だけど、僕はこれを履いて行くんだ。

 年長の人以外はみんなもう寝ている時間。
 暗い中で、窓の前に靴を持って立つ。
 僕は深呼吸をする。
 まだ、春になりきらない寒さを思い切り吸い込む。
 ここから先にいけば、何かが変わる気がする。
 僕の中のよく分からないもやもやが、やっつけられるんだ。
 朝起きて何か違う感じで、ぼんやりすることもない。
 きっと、明日はすっきりした気分で目が覚めるんだ。

 窓に両手をかけて、そっと開ける。
 パジャマを風が通り抜ける。
 でも、胸の高鳴りで寒くは感じない。
 そっと靴を置いて、履く。
 足音をたてないように、踏み出す。
 僕は夜へと飛び出した。

 でも、どこに行くかなんて決めてなかった。
 この辺りはまだお決まりの散歩コースしか知らない。
 ひとまずそこを歩きながら、考えようかなと思った。
 いつも通り過ぎるだけの神社に立ち寄るのもいいかもしれない。
 僕は振り返って、最後にルミナスを確認しようとした。

 そうすると、――僕の後ろにはあのおじいさんが立っていた。
 広がっていた思考が、真っ黒にぬりつぶされる。
 夜に抜け出すのは、禁止されている。
 いけない。しかられる。

 そう思ったのに、おじいさんは穏やかな声で語りかけた。
「はい、夜のお散歩はそこまでです」
 僕はあっけにとられて、おじいさんを見つめる。
「本当はしからなくてはいけないのですが、まぁいいでしょう。
 どこに行こうとしたんですか?」
 僕は後ろめたくて、うつむきながら話す。
「……どこでもないよ。
 ただ、ちょっと気分転換したかっただけなんだ」
「そうですか……」
 おじいさんは少し考えて、思いついて話す。
「それでは明日、特別に気分転換に連れて行ってあげますよ。
 だから今日はもうおやすみなさい」
「はい……」

 孤児院に手を引かれながら、僕は最後に聞いた。
「どうして、僕が抜け出すって分かったの?」
「ちょっと不安に思っていたんですよ。
 翼くんが、遠くを見ているような気がしまして……」

 ――僕は、この人にはかなわないと思った。


 翌朝、僕はおじいさんと二人きりで出かけた。
「どこに行くの?」
「そうですね……。面白い場所ですよ。
 私たちと少なからず、関係のあるところです」

 そして、僕らがついたのは一つの施設の前だった。
 天井のところには十字架とベル。
 白が基本の清潔感のあるたたずまい。
 いろんな人がこの施設に入っていく。
「ここは……?」
「教会ですよ。正確にはキリスト教のカトリックですね。
 最初に会ったときに、私は司祭服――魔法使いみたいな服を着てましたよね。
 これがその理由です。ルミナスはここの系列なんです。
 ここが運営母体となって、慈善事業を行っているんです。
 とはいえ、私は全く信徒というわけでなく、今も聖書は集会でたまたま聞いたところどころしか覚えていないのですが……。
 私の姉がここの司祭長をしてまして、その縁で私もルミナスの運営に携わっているのです」
「ええと……、なんでたくさんの人が入っていくの?」
「それはですね……。ふふふ、入ってみれば分かりますよ」
 僕はこんなにたくさんの人が入っていくのだから、何か楽しいことが待っているんだろうと思った。きっとみんなで何か面白おかしいことをやるんだ。
 僕らは扉を開けて、進んでいく。
 おじいさんに手を引かれながら、たくさんの人をかきわけて。
 そして、広間に出た。
 一番奥のステージに司祭服の人たちが並び、観客がせわしく座っていく。
 僕たちも座った。
「ねえねえ、これから何が始まるの?」
「歌ですよ、さあそろそろ始まりますよ」
 指揮を取る人が一礼をする。
 静かに拍手がわき起こる。
 その人が振り返り、始めるために手をあげる。
 すると、この場は静まりかえる。
 音楽のためだけの空間が出来上がる。

Joshua fit the battle of Jericho, Jericho, Jericho,
Joshua fit the battle of Jericho
and the walls came tumbling down…

 歌が響いていく。
 閉じられた部屋のあちこちに反響する。
 声に包まれていくように、柔らかに響く。
 折り重なるいろんな高い声、低い声。
 どれもが混じり合い、しかし決して一人一人が埋もれずに。
 
 指揮者が大振りな動作をすると、声も鼓動するように大きくなる。
 僕たちの目を覚ますように、何かを伝えようとするように。
 音楽は力強く僕たちに織り込まれていく。

 歌う人一人一人が熱心な表情をして、声を張り上げる。
 まるで必死に今に自分を込めているみたいに。
 張りつめていて、それでいて満足げに。

 30分くらい、僕らはその場で歌に浸っていた。
 僕はすごいと思った。
 でも、どうして僕の気分転換にここを選んだのかは、よく分からなかった。

 最後の歌が終わる。
 曲の合間の拍手よりも、より大きな拍手でこの場は終わった。
 僕も大きく拍手をした。

 歌が終わり、おじいさんが語り出した。
「ここは何をしに来る場所なのか知ってますか?」
「分からない。集まって……何かをする場所?」
「ええ、それだけの場所なんです。
 もっと正確に言えば、何かを探し求める場所でしょうかね」
「みんなで?」
「ええ」
「今の合唱がどんなグループに分かれていたか覚えていますか?」
「うん。男の人と女の人、そこからさらに高いのと低いの。全部で4つ」
「その通りです。でも、みんなそれぞれ違ってましたよね。
 一人一人の声の強弱に大小の調子が」
「当たり前だよ。一人で全部の声を出しているわけじゃない」
「そうです、その通りですよ。
 各グループではやることが違うのは当たり前。
 やるべきことや与えられた場所が一緒でも、さらに個人個人の表現は違うんです。」
「うん、違って当たり前だよね」
「だから、翼くんもそれでいいんですよ」
「え?」
 僕にはその言葉の意味がつながらない。
「私たちにいきなり慣れようとしたり、遠慮したりしなくていいのです。
 個人個人のペース、興味、表現があって当然なのですから。
 自分の思うままでいいんですよ」
「え……」

 いきなり自分のことを話されて、戸惑う。
 僕は確かにどこか収まりがつかないような気持ちだった。
 それは僕が僕を抑えこんでいたからなんだろうか?
 自分でも、自分が今までどうして違和感に戸惑っていたのかはっきりつかめない。
「自分のやり方で自分を出していいんですよ。
 あの合唱が決してひとつに溶け合わないように。
 同じパートの中でも、歌い方が人によってそれぞれ違うように。
 私たちと同じ場所で暮らしていても、決められたことを守るだけで、
 あとは翼くんの望むように振る舞っていいんです」
「でも……」

 いや、ここで言わなくちゃいけないのは『でも……』なんかじゃない。
 もっと、ちゃんと自分のことを話さないと。
「僕はここでどう過ごしていいか分からなくて……。
 みんなは優しく接してくれるんだけど、どう受け止めていいか分からない。
 みんなが嫌いとか信じられないわけじゃないけど……、でも慣れなくて……」
 僕はうつむきながら、よく分からないもやもやをなんとか口にした。

 おじいさんは真剣に聴いて、うなずきを返している。
「やはり、そうでしたか……」
 穏やかにその言葉が返ってくる。
 そして、ゆっくりと語り出した。

「当てはまるところだけでいいので、聞いてください。
 翼くんが遠くを見ているなぁと思ったのは、目の前の相手だけを見ていないからだと思うんです。いえ、決して相手のことを考えていないという意味ではありません。むしろ考えすぎて、遠慮してしまっていると思うんです。本当は考えなくていいはずの不安や恐れを相手に重ねてしまい、どうしていいか分からなくなってしまっていると思うんです。
 でも、そんなに考えなくていいと思うんです。翼くんは十二分に感じる心はありますし。
 私が伝えたいのは、頼ってもいいということなんです。
 もっと自分のしたいことや興味を表に出して、私たちに言ってほしいのです。
 何も言わずに、自分の中でしまい込まなくていいのです。
 その方が私たちも嬉しいんです」
「うん……」

 僕はその話していることを正しいと思った。
 僕はみんなを知らない。だからたくさん想像して、むやみに怖がる。
 だけど、ここから脱出して知り合うためには、もっと話さなくちゃいけないんだ。

「聞き分け良く、すぐに納得しなくてもいいんですよ。
 反発や違和感だって遠慮無く口に出してほしいんです。
 ですがこうして言われるだけでは……、どうしていいか分かりづらいですよね。
 ……じゃあ、もう一度お話を少しだけ戻してみましょう。
 みなさんがここで『何か』を探しているのは話しましたよね?
 では、その『何か』ってどんなものか分かりますか?」
「うーん、全然分からないよ。
 僕はここのことを何も知らないし」
「じゃあ、ここの人はどんな風に見えますか?」
「うーん……」
 僕は今目の前を通り過ぎる人と、すれ違ってきた人の顔を浮かべた。
 困ったような顔の人、ひたむきに前を見ている人。たくさんの人がいたけど……。
「みんな、『何か』を追いかけているように見えた」
「いい答えです。『何か』というのは、『慰め』や『納得する理由』なんです。
 私は宗教について、良いとも悪いとも判断していません。どちらの側面もあるでしょう。
 たくさんの大人の人がいましたよね。でも、みんな右往左往してるんです。
 自分の気持ちや状況に、どう整理をつけて納得していいか戸惑っているのです。
 だから、自分の心を説明してくれる何かを探しに来るんです。
 ここでは心の在り方についてアドバイスをしていますから。
 もっとも……その答えに飛びついて思考停止してしまうのはよくないことですが」

「少し話が遠回りになってしまいましたね。
 伝えたかったのは、こうやって大人の人もみんな悩むということなんです。
 自分がどう考えて、どう接して、どう受け止めるかについて。
 だから、翼くんがどうしていいか分からないのは、悪いことではないのです。
 むしろ、ちゃんと自分について向き合っている賢明で誠実なことなのです。
 でも、ちゃんと向き合うなら、自分の心の中だけではいけないんです」

 そうしてゆっくりと話されて、僕は少しずつ楽な気持ちになっていった。
 強ばりが、解けていく。

「だから、前向きに自分のしたいことを周りに話してみてください。
 ここにはたくさんの人がいます。施設には横のつながりもあるのです。
 何かに興味があるなら、私たちだけではなくその人達にも頼れるのですよ。
 何かを知るためには、それを知っている人に聞くのが一番の近道ですから」

 僕の思考は広がっていく。
 何かをしてみたいと、胸が躍り出す。

「だから、また始めましょう。
 大事にしたいものを育むことを」

 僕は、確かめるようにうなずいていた。


 それから、僕は少しずつみんなに積極的に関わるようにしていった。
 僕の好きなものを、慎重に辿りながら。
 図鑑を見て、たくさんの生き物に胸をはせるのも好き。
 いろんな人から図鑑を借りて、たくさんの動物を覚えた。
 小鳥の世話も自分から手伝うようになった。
 実際に歩いて、生き物や自然に触れるのも好き。
 教会系列の合同主催のキャンプには欠かさず参加した。
 
 僕は少しずつ気付いていった。
 みんないろんなものを抱えていることを。
 たくさんの理由があって、ここにいることを。
 僕はそれに向き合って生きようとするみんなを尊敬する。
 その励みになりたいと思う。

 そして、クラス中のみんなや孤児院のみんなが夢中になっているものに気付く。
 デュエルモンスターズ。
 僕は前からそれを知っている。
 父さんと母さんが残してくれたこのカード。
 《輝鳥-アエル・アクイラ》。
 そこに向かって再び手を伸ばしたとき、僕の世界はさらに広がっていった。





第14話 孤児院ルミナス3-デュエルモンスターズとの再会-



「あれ? みんな何を見てるの?」
 居間に一台だけあるテレビを、みんなが囲んでいた。
 僕は明菜ちゃんに話しかける。
「あ、翼くんも見る? 今いいところだよ!
 ほら、早く早く! オーナー先生がいないうちに見ちゃわないと」
「え? え?」
 ぐいと、手を引かれて僕もその輪に加えられる。

 そこに映っていたのは、あのオーナー先生だった。
 落ち着いた雰囲気は今と変わらないけど、髪の色は真っ黒。
 力強い眼差しは若さと熱に燃えている。
 黒い魔法使いのようなローブをまとって、スタジアムに立つ。
 盤を片手に向き合っている。
 数枚のカードを手に持って……。

「あ、鏡原先生! それにデュエルモンスターズ!!」
「あれ? 翼くんもデュエルモンスターズを知ってるの?」
「うん……。でも、こうやって対戦を見るのは初めて!」
「じゃあ、見ておくといいよ。
 これが世界で一番流行っているゲーム、デュエルモンスターズだよ!」


デュエル・スター 鏡原 VS 難攻不落の守護者 水前寺

鏡原
LP3000
モンスターゾーン《岩石の巨兵》DEF2000
魔法・罠ゾーン
永続魔法《凡骨の意地》、伏せカード×2
手札
1枚
水前寺
LP4000
モンスターゾーン《ネオアクア・マドール》DEF3000・装備《レアゴールド・アーマー》、
《水霊ガガギゴースト》ATK1850
魔法・罠ゾーン
《暗黒の扉》
手札
1枚

《岩石の巨兵》
通常モンスター 星3/地属性/岩石族/攻1300/守2000
岩石の巨人兵。太い腕の攻撃は大地をゆるがす。

《ネオアクア・マドール》
通常モンスター 星6/水属性/魔法使い族/攻1200/守3000
水を支配する魔法使いの真の姿。
絶対に破る事のできないと言われる巨大な氷の壁をつくり攻撃を防ぐ。

《レアゴールド・アーマー》
装備魔法
このカードを装備したモンスターをコントロールしている限り、
相手は装備モンスター以外のモンスターには攻撃できない。

《暗黒の扉》
永続魔法
お互いのプレイヤーはバトルフェイズにモンスター1体でしか攻撃する事ができない。

 黄金の鎧を着た仮面魔法使いが大きな水の壁を作っている。
 さらにその前には黒くて不気味な扉がある。
 そこを向かい合わせに、二人が立っている。
 
「我は《キラー・スネーク》を召喚する。
 さらにこの者の魂を生贄に捧げる。
 ……これで《水霊ガガギゴースト》の魂は純化された。
 あらゆる障害をもくぐりぬけることができる!」

《キラー・スネーク》
効果モンスター 星1/水属性/爬虫類族/攻 300/守 250
自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在している場合、
このカードを手札に戻す事ができる。

《水霊ガガギゴースト》
効果モンスター 星4/水属性/爬虫類族/攻1850/守1000
このカードは通常召喚できない。
相手の墓地の水属性モンスター1体をゲームから除外して特殊召喚する。
自分フィールド上の水属性モンスター1体を生贄に捧げることで、
このターンこのカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。

 お化けのように足が透けているとかげ人間。
 さらに透けて、青い光に包まれた。
 そして、勢いよく水の壁と岩石を通り抜けて、オーナー先生に攻撃する。

「ぐぅ!!」

鏡原のLP:3700→1850

「さて、我はこれにてターンエンド。
 追い込まれて、まさに背水の陣とも言えるな。
 《キラー・スネーク》は墓地から手札に戻る効果がある。
 次のターンで再びガガギゴーストの魂の糧となれば、確実に攻撃は通る。
 我の完全たる守護者《ネオアクア・マドール》の水の壁は絶対に破れない。
 破ったとしても攻撃できるのは1体のみ。
 さすがの貴殿でもこの危機は脱却できまい」

「やばいよ……。よく分からないけど、先生ピンチじゃないの?」
 明菜ちゃんが不安そうにつぶやく。
「大丈夫だよ! ここを逆転するから『デュエル・スター』なんだ!
 見てよ! やっぱり余裕そうじゃん!」
 男の子がワクワクしながら話す。
「いやいや、オーナー先生が余裕そうなのはいつものことでしょ」
「うるせい! あ、ほらオーナー先生の出番だぞ!」

「ええ、これはまずい状況ですね。
 ですが、まだまだ逆転の可能性はあります。
 私のデッキはきっとやってくれますよ」
「なんと! この水の世界に(あらが)う自信があるとは!!
 ならば、その(きらめ)きを魅せてみなさい!」

「ええ、もちろん退屈な思いはさせません。
 私のターンです、ドロー!」
 オーナー先生はなめらかな動作でカードを引く。
 その手に吸い込まれるように、引いたカードで弧を描く。
「場の《凡骨の意地》の効果を発動」

《凡骨の意地》
永続魔法
ドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターだった場合、
そのカードを相手に見せる事で、自分はカードをもう1枚ドローする事ができる。

「ふむ……」
「私が引いたカードは《神魚》。
 効果のないモンスターをドローしたとき、もう一度ドローできます」
「ほほう。 それでも、この鉄壁を破るのは不可能。
 有象無象の通常モンスターをいくら引いても恐るるに足らぬ」

「そうですか。では、お言葉に甘えて。
 ドロー、モンスターカード《ワームドレイク》です。
 さらにドロー、モンスターカード《ベビードラゴン》。
 続けてドロー、《フェアリー・ドラゴン》。
 再びドロー、《音女》。
 もう一度ドロー、《スカイ・ハンター》。
 まだまだドロー、《ヒューマノイド・スライム》。
 またまたドロー……」

「まだ続くと!? だが、所詮は子供だまし!
 効果の無いモンスターをいくら引こうと倒せるはずがない!」
「おや、不要なカードなどありませんよ。
 ひとつひとつのカードには必ず可能性があるのです、忘れてはいけませんよ。
 今度は《セイント・バード》。ドローできますね。
 終わらずにドロー、《ワイバーンの戦士》です。
 恵まれたドローですね、さらに次は《砦を守る翼竜》。
 そして、ドロー……。
 おや、これは通常モンスターではないですね」

「ようやく終焉か。我の《キラー・スネーク》が墓地で嘆いている。
 このような戯れ言には付き合っておれぬと。
 さて、貴殿の言う可能性とやらは徒労に終わるかな?」
「いえ、私の可能性はさらなる可能性につながります。
 では、カードを1枚伏せて、魔法を発動します。
 私が発動するのは《手札抹殺》!
 手札を全て墓地に送り、新しくカードを引きます。
 墓地に送るカードは10枚、手札に加えるカードも10枚です」

《手札抹殺》
通常魔法
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから
捨てた枚数分のカードをドローする。

「我の手札は皆無、よって貴殿が一方的に引く……。
 それだけ引いても、まだ貴殿の理想は完成せぬか?」
「そうですね。彼らも大切な勝利のパズルの1ピースです。
 ですが、今回の主役はこちらのようです……」
「むむむ……、仕掛けてくるか!?」

 一枚のカードを手に取り、オーナー先生は意味ありげにつぶやいた。
 水の動きがなんとなく弱まったようにも見える。
 静かに観察していた相手も、じっとその挙動を見つめる。
 絶対に今からすごいことが起こる。
 そう思わせてくれる力強さを感じる。

「魔法カード発動! 《融合》!!
 手札の《悪魔の知恵》と《魔天老》を融合します……」

 2体のモンスターが現れる。
 そこからうずまきが現れて、モンスターが飲み込まれる。

《融合》
通常魔法
手札またはフィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

《悪魔の知恵》
効果モンスター 星3/闇属性/悪魔族/攻1250/守 800
このカードの表示形式が攻撃表示から表側守備表示に変わった時、
自分のデッキをシャッフルする。

《魔天老》
通常モンスター 星3/闇属性/悪魔族/攻1000/守 700 天界から追放された堕天使。闇での闘いに優れている。

「ゆきます! 冥界の暗黒僧侶、《スカルビショップ》!!!」

 大きな角と悪魔のような顔。
 どくろをかたどった骨の鎧。顔のような盾。
 溢れる魔力でその周りだけ景色が赤色にゆがんでいる。

《スカルビショップ》
融合モンスター 星7/闇属性/魔法使い族/攻2650/守2250
「悪魔の知恵」+「魔天老」

「攻撃力2650の上級モンスター……。
 だが、まだ《ネオアクア・マドール》の守備力には及ばない」

 焦る相手。恐る恐るオーナー先生の手札をうかがう。

「ふふふ、安心下さい。もう手札からカードを使うことはありません。
 もう既に必要なものはフィールドに揃っていますから……。
 このターンで決着させます」

「な、なんと! たった1体のモンスターしか攻撃できないぞ!?
 馬鹿な! そんなことをできるはずは……」

「たった1体のモンスターですか……。
 水の壁を解いて、場をよくごらんなさい。
 《スカルビショップ》は本当に一人ですか?」

「何?」

 僕たちも注意深く画面を見つめる。
 すると《スカルビショップ》の周りにたくさんのモンスターがついている。
 このモンスター達は……。
「先刻、墓地送りにしたカード……」
「その通りです。私が発動したのはリバースカード《守護霊のお守り》。
 墓地から見守るモンスターの数だけ攻撃力が上がるのです」

《守護霊のお守り》
通常罠
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択する。
選択したモンスター1体の攻撃力は、ターン終了時まで
自分の墓地に存在するモンスター1体につき攻撃力が100ポイントアップする。

《スカルビショップ》 ATK2650→4850

「攻撃力4850!!
 だ、だが守備モンスターにダメージは……」

「では、空を見上げなさい」

 ドーム内の上をカメラが移す。
 空は赤く染まって、いつの間にか一面を隕石が埋め尽くしている。
「こ、これは流星……?」
「そうです。《メテオ・レイン》のトラップカード。
 私のモンスターが攻撃すればたちまちにあなたのモンスターに降り注ぎます。
 そして、あなた自身にダメージを与えるのです」

《メテオ・レイン》
通常罠
このターン自分のモンスターが守備表示モンスターを攻撃した時に
その守備力を攻撃力が越えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。

「そして、ラストのキーカードです。
 《凡骨の意地》で最後に引いたこのカード。
 ライフを1000ポイント支払い……」

 オーナー先生が何かをするたびに、がい骨魔法使いは強くなっていく。
 持っている大きな剣を天に向かってかざす。
 大きな魔法力が集まってきて、赤黒い魔力がたちこめる。

「《拡散する波動》を発動!!
 すべてのモンスターに攻撃が及びます!」

《拡散する波動》
通常魔法
1000ライフポイントを払う。
自分フィールド上のレベル7以上の魔法使い族モンスター1体を選択する。
このターン、選択したモンスターのみが攻撃可能になり、
相手モンスター全てに1回ずつ攻撃する。
この攻撃で破壊された効果モンスターの効果は発動しない。

「こんな戦術……見たことがない……。
 これが『デュエル・スター』のデュエル……」
「ええ。私は闘うたびにデッキを変えます。
 いつでもみなさんに新しい世界が見せられるように……。
 このデュエルモンスターズに眠るたくさんの可能性を魅せるために。
 その中でもこのデッキはとっておきです!
 それではいきますよ! 《スカルビショップ》!!
 流・星・嵐・暗・黒・魔・導・烈・波・閃(メテオストリーム・ダークマジック・ディフュージングスラッシュ) ! ! ! 」

 剣を振るのを合図に、世界が色を変える。
 赤い波動が円状に広がっていく。
 空から隕石が落ちてくる。
 水の壁が、魔法と隕石に打ち砕かれる。
 そして、モンスター達は魔法を浴びて消滅する。
 モニターのライフがゼロを指し示した。
 オーナー先生の勝利が示されて、試合は終わった。
 TV向こうの会場は割れんばかりの拍手が起こった。


「す……すごい……」
 何かルールにのっとった試合みたいだけど、その決まりはよく分からない。
 でも、あのディスクにカードを置く度に、魔法やモンスターが生まれる。
 『攻撃!』と手をかざせば、モンスターが向かう。
 まるで本物の魔物使いの決闘を見ているみたいだ。

「これがデュエルモンスターズって言うの?
 僕もカードをあのディスクにやればできるの?
 あんな風に格好いいモンスターを出して、面白い魔法を使えるの?
 すごい! すごいよ!!」
 僕は興奮にまかせて、思うままに話していた。
「オーナー先生って昔あんなに格好良かったんだぁ……。
 あたしもあれやってみたい!!
 カードとあの道具さえあれば、ああいう風にできるの?」
 明菜ちゃんの質問に、男の子が知った顔で答える。
「いや、カードをただ引いて使ってるだけに見えて、かなり計算してるんだぜ!
 あの引いたモンスターは全部融合して強くなるモンスターだし、
 サポートカードの組み合わせもよく考えられてる。
 そこを知ってから見ると、さらにデュエルは面白いんだぜ!」
「本当に!? 僕、もっと知りたい!」
 あんなことが自分の手でできるなんて……。
 絶対にやってみたい!
「あたしも、あたしも!!」

「なるほど……。ならば、私の訓練を受けてみますか?」
 後ろから突然声がして、僕達はびっくりして振り返る。
「 「 オーナー先生!!? 」 」
「気恥ずかしいので、もう少しこっそり見てほしいものですが……。
 私は今でもたまにゲストで試合に出るくらい精通しています。
 一線からは退きましたが、今でも負けることはまずありませんよ。
 このルミナスでも上の子達はみんなやってるんです。
 いえ、世界中の子ども達がいまやデュエルモンスターズに夢中ですね。
 まるで魔法に魅入られたかのように。
 もっとも先に目を付けた私たちも普及のために様々な努力をしたのですがね」

「例えばルミナスにはこんなのもあるんです」
 オーナー先生は箱を取り出して、開けた。
 そこはカードでいっぱいだった。
「すごい! こんなにたくさん!」
「この入れ物は、みんなで使わないカードを入れておくところなんです。
 カードを1枚ここに置けば、10円を持って行けます。
 逆に1枚10円で、ここのカードを自分のものにすることもできます。
 みんなはこれを『10円ボックス』と呼んでます。
 もっともあまり使わないカードが入れられるので、
 扱いが難しいものがほとんどですが……」
「明菜ちゃんと翼くんは今お小遣いをもらいたてでしたね。
 どうです? 10枚分選んでみて、どんなゲームかやってみますか?」
「え? 10枚でできるの?
 ビデオだとカードがたくさん束になってなかった?」
「あれが一番幅広く行われている基本デッキ40枚・LP4000のスペシャルルールと呼ばれる形式ですが、10枚で行うスピードルールと呼ばれるものもあるんです。
 カードがたくさんあっても最初は覚えるだけで大変でしょうから、手始めに手軽なルールで慣れてみましょう」
 
 そして、僕らはカードを選んだ。
「取り合いになると行けませんから、最初から山を半分半分に分けましょうか」
 どのカードも目移りしながら、やっと10枚を選んだ。
 僕の最初のデッキが完成する。
 明菜ちゃんも完成したみたいで、僕に目配せをする。

「さて、できたようですね。
 『習うより慣れろ』というやつです。
 デュエルディスクはルミナスに2つあります。
 これを使って、私の説明を受けながらやってみましょうか?
 あと……場所を取るので、今日は暖かいですし外に移動しましょう。」


 僕はカードをディスクに入れて、身につける。
 ちょっと重い。
 テレビでは片手で軽々と扱ってたけど、僕はもう一つの手も添えて持った。
 そして、オープンのボタンを押して明菜ちゃんの方を見る。
 明菜ちゃんも準備万全だ。
 ディスクと僕を交互に見ながら、浮き浮きしたようにつぶやく。
「えーっと、この後はビデオの通りならこうやって……」
 ディスクを持つ左手を僕に掲げて、僕をまっすぐ見つめる。
 僕は少しだけドキッとする。そして、真似をしてみた。
「こうして……、それから?」
「あとはね、開始の合図をするんだよ。
 かけ声があるんだ。 よーい、どん!みたいに。
 このときはね、『デュエル』って大きな声で言うの。
 だから、いっせーのーでっ!でいくよ」
「うん」
「じゃあいくよ。 いっせーのーでっ!!」

「 「 デュエル !!」 」

あきな VS つばさ

 はじめてだけど、声が揃ってびっくりした。嬉しい。

「えと、でもこの後どうするんだっけ?」
「ええ、まずはカードを引かなければどうにもなりません。
 二人とも10枚のカードから、3枚のカードを引いてみてください」
 ディスクから3枚を引いて、左手に持つ。

「そして、ランプのともっている方が行動できます。
 つまり、先行は明菜ちゃんということです」
「じゃあ、あたしのターン!! ドロー!
 ……で、それから?」
「その通り、まずドローをします。
 次にモンスターの召喚や魔法が使えます。
 あと、罠をセットして相手ターンに備えることもできます。
 基本はモンスターの召喚ですね。
 星が4つ以下のモンスターはそのまま召喚できます。
 まずは強そうなやつを出してみてください」

「じゃあ、これでいくよ!
 こうかな? 《フェアリー・ドラゴン》を召喚!」
 明菜ちゃんがディスクにモンスターを置く。
 すると、丸くて赤い瞳の緑色をしたドラゴンが現れた。
 クキャーと高い声で鳴いて、僕をおどそうとする。

《フェアリー・ドラゴン》
通常モンスター 星4/風属性/ドラゴン族/攻1100/守1200
妖精の中では意外と強い、とてもきれいなドラゴンの妖精。

「すごいすごい! 本当に出た!
 じゃあ、そのまま攻撃! 炎をはけー!!
 ……………。
 あれ、動かないよ?
 しゃべるだけじゃダメ?」

「いや、意思表示や動作も感知するので、大丈夫なのですが……。
 先攻の最初のターンは攻撃できないんですよ。
 がら空きの相手に攻撃させるわけにはいきませんからね」
「ええー、早く攻撃させてよー」
「ダメという決まりなのです。
 さて、モンスターが召喚できるのは自分の番につき、1体だけ。
 他にも魔法を使ったり、罠を仕掛けられますがどうしますか?」

「うーん、じゃああたしはやることないから終わり!」
「はい、これで一通りの行動が一応終了になります。
 これを繰り返すことで、ゲームが進んでいきます。
 さて、明菜ちゃんの番――ターンと言うのですが――が終わりました。
 今度は翼くんのターンですよ」

「じゃあ、僕の番だ。 ド、ドロー!」
 明菜ちゃんがどうやっていたかを思い出しながら、やってみる。

「さて、翼くんのターンですが、まずあのドラゴンを倒さなくてはなりません。
 ここでデュエルモンスターズの醍醐味であるバトルについて教えます。
 モンスター同士を戦わせることで、相手のポイントを先にゼロにした方が勝ち。
 これが一番基本的なデュエルモンスターズの決着の仕方です。
 そのバトルの勝敗は、右下に書いてある数値で決められます。
 モンスターが攻撃姿勢はATK(攻撃力)の数値を、
 モンスターが守備姿勢のときはDEF(守備力)の数値を見ます」
「今は《フェアリー・ドラゴン》は攻撃表示ですから、ATKは1100なわけです。
 これより大きな数字を持つモンスターで攻撃をすれば、あのモンスターを倒せます。
 どうです? できそうですか?」

 僕は手札を見つめる。
 僕の選んだカードは軽そうなモンスターが多いけれど……。
「あ! これならいけるかも」
「ふむ、ではやってみましょうか」
「うん! いくよ、《アブソリューター》を召喚!!」
 鏡をお腹にかかえた華やかな体毛の鳥が現れる。
 すごい! カードを出すだけで、本当に出た!

《アブソリューター》
通常モンスター 星4/風属性/鳥獣族/攻1300/守1400
相手を鏡の中の世界に吸い込むことができる。

「ほう……これは……」
「鳥さんじゃ、あたしのドラゴンには敵わないよ!」
「それはどうでしょうね?
 では、ものは試しです。攻撃してみましょう。
 粉砕でも玉砕でも、どんな言葉でもいいですよ。
 腕を振りかざして、モンスターを指すだけでも構いません。
 翼くん、攻撃を指示してみてください」

「え、え? じゃあ、やってみる!
《アブソリューター》! あのドラゴンに攻撃だ!!」
 僕がしゃべると、鏡を抱えて小さい声で鳴いて念じる。
 妖精竜が小さな炎を吐くけど、鏡に吸い込まれてしまう。
 そして、その勢いのままドラゴンまで吸い込んでしまった。
「あたしのドラゴンが負けたー!
 なんでー!?」
「そして、勝敗が決定するとライフも変わります」

あきなのLP:3000→2800

「え? これって……」
「200ポイント分、翼くんに差をつけられたということです。
 おまけにドラゴンを倒したモンスターはまだ場にいます。
 ここから挽回していかなければなりませんね」
「わー、ずるーい!!
 あたし絶対に負けないんだから!」
「まぁまぁ、次で強いモンスターを出せばいいんです。
 さて、翼くん他に何かできそうですか?」
「ううん。これで終わり」
 このモンスターで攻撃していけば、押し切れるかもしれない!

「ううっ、このままじゃ終わらせないよ!
 あたしのターン!!
 うーん……」

 明菜ちゃんが4枚の手札を見ながら考え込んでる。
 このカードより強いカードがないのかな?

「さて、もう一つアドバイスです。
 モンスターを出すときは、攻撃か守備のどちらかで出します。
 相手より攻撃が低くても、守備が高ければやりすごせるのです」

 オーナー先生の言葉を聞いて、明菜ちゃんはその目を光らせる。
 何か見つけたのかな?

「じゃあ、あたしはこの《一眼の……」

「おっと、ストップです。
 ルールをもうひとつ忘れてました。
 手札から守備で出すときは、モンスターは裏側でしか出せません。
 つまり、正体不明のままでセットされるのです。
 ですから、ここはモンスターをセット! ということなのです」

「そうなの? じゃあ、そのままモンスターを伏せるよ。
 うーん、なんかこそこそとしてずるい気もするけど……。
 あたしはじゃあこれで終わり!」

「じゃあ、僕のターンだ! ドロー!
 ねえ、また僕の番になったらモンスターを出してもいいんだよね?」

「ええ。ガンガンし掛けてみて下さい。
 あとですね、今ならレベル5や6のカードも出せます。
 生贄召喚といいまして、場のモンスター1体がいなくなるかわりに、
 手札から強めのモンスターが出せるのです」

「今は……星がたくさんのモンスターはいないや。
 じゃあ、いくよ!
 もう一体出すよ! いけっ!《ミラージュ》!!」
 今度はオレンジ色の鳥だ!

《ミラージュ》
通常モンスター 星4/光属性/鳥獣族/攻1100/守1400
手にする鏡から仲間を呼び出すことのできる鳥のけもの。

「《アブソリューター》と一緒でお揃いの鏡を持ってて、かっこいいでしょ!
 攻撃だ! 《ミラージュ》でそのモンスターにアタック!!」
 鏡から怪物が出てきて、おそいかかる。

「通じないよ! あたしの伏せモンスターは……。
 じゃーん! 《一眼の盾竜》!
 そんな攻撃もへっちゃらなの!!……で合ってるよね?」
「ええ、その通りです」

一眼の盾竜(ワンアイド・シールドドラゴン)
通常モンスター 星3/風属性/ドラゴン族/攻 700/守1300
身につけた盾は身を守るだけでなく、突撃にも使える。

つばさのLP:3000→2800

「あれ? 今度は僕のライフが減った!」
「守備のモンスターに攻撃しても、攻撃したモンスターはやられません。
 ですが、攻撃力が低いのに仕掛けるとダメージを受けます。
 石を手で殴ったら痛いのと一緒ですね。
 さて、これでライフが並びましたね。
 守備力より高い攻撃力で攻撃しないと相手は倒せません。
 どうしますか?」
「じゃあ、僕はこれで終わり」
 あのドラゴンを倒せそうなカードを引くまで待つしかないかなぁ……。

「なら、あたしのターンだね! ドロー!!」
 明菜ちゃんは待ち切れないみたいにカードを引く。
「ねえ、星が5つか6つなら出せるんだよね?」
「ええ……。その代わり《一眼の盾竜》は墓地に行きますが……」
「星は1、2、3、4、5……6!
 よし、じゃあこれで逆転だよ! 《天空竜》を召喚!!」
 竜巻に巻き込まれるように、《一眼の盾竜》が場から姿を消す。
 そして、その頭上から4枚の羽根を持つ竜が舞い降りる。
 耳をつんざく声をあげて、すごいスピードで落ちてくる。

天空竜(スカイ・ドラゴン)
通常モンスター 星6/風属性/ドラゴン族/攻1900/守1800
4枚の羽を持つ、鳥の姿をしたドラゴン。刃の羽で攻撃。

「そのままいっけえ! 《ミラージュ》に攻撃!!」
 羽で勢いをさらにつけて、体当たりをする。
 僕の《ミラージュ》はあまりの速さに反応できないまま倒される。

つばさのLP:2800→2000

「よし! 逆転だね! ターン終了だよ!」

「僕のターン、ドロー!」
 あ、強いカードを引いた!
 これを前のターンに引いていれば……。
 今の《天空竜》は倒せないなぁ。
 どうすればいいかな……」

「さてさて、相手の場に強いモンスターが出たらピンチですね。
 なんとかして、あのモンスターをやっつけないとそのままやられてしまいます。
 こちらも上級モンスターを召喚するか……、それとも何か他に方法が……。
 魔法や罠で倒す方法もあるんですよ。
 何かできそうなことを試してみてください。
 できなければ、機械がエラーを出しますし、まずはやってみることです」

 魔法に罠?
「この緑色のカードのこと? 何だか十字のマークもあるけど……」
「そうです。緑色の枠のカードは魔法カードと呼ばれます。
 さらに十字のマークは装備魔法という意味で、モンスターを強化できます。
 どんなモンスターを強化できるかはカードにより違うのですが、使えそうでしょうか?」

「えーと、風って書いてあるから……もしかしたら……。
 よし、じゃあやってみるよ!!
 僕は《冠を戴く蒼き翼》を出すよ!」
 大きな鳥。赤いとさかと青の体毛。
 どちらも燃えるように波打っている。
 僕が選んだ中で一番格好いいカード!

《冠を載く蒼き翼》
通常モンスター 星4/風属性/鳥獣族/攻1600/守1200
頭の毛が冠のように見える、青白く燃えるトリ。

「ふふ。強いモンスターだけど、その攻撃力じゃまだ《天空竜》には敵わないよ!」
 その通り。だけど、もしかしたらこのカードなら……。
「まだ分からないよ!
 《突風の扇》を蒼き翼に使うよ!」
「ええっ、何それ!」

《突風の扇》
装備魔法
風属性モンスターのみ装備可能。
装備モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
守備力は200ポイントダウンする。

《冠を載く蒼き翼》 ATK1600→2000

「装備魔法がちゃんとした対象に装備されたので、攻撃力アップです。
 これならば、いけますね」
「蒼き翼で攻撃だ!!」
 扇から起こる追い風で、青い鳥はグングン加速する。
 向かってくる竜を軽やかにかわして、背後からくちばしで一撃を加えた。
 ドラゴンが高い声をあげて、映像がガラスのようにはじけて消滅する。

「やった! 倒した!!
 それにまだ《ミラージュ》も攻撃できるんだよね?
 そのままいっけえ!!」

あきなのLP:2800→2700→1600

「うう……。また逆転されちゃった……」
「僕はこれで終わりだよ!」
「こんな風にモンスターを魔法や罠でサポートして、
 うまくコンビネーションを決めるのが
 デュエルモンスターズの奥深さというものです。
 さて、ここから挽回できますかね?」

「うう…… 負けないよ。
 あたしの番、ドロー!」

 ……………。

 少しの()。僕の蒼き翼を倒せないのかな?
 と思ったら、カードを素早く2枚セットした。

「モンスターをセットして、罠も置くよ!
 あたしはこれでターン終了!」
 明菜ちゃんは自信満々そうにターンを終えた。

「ふむ……」
 オーナー先生は興味深そうに明菜ちゃんをうかがっている。

「僕のターンだ」
 カードを加えて、明菜ちゃんの場を見る。
 分からないカードが2枚。
 でも、放っておいてまた強いモンスターを出されたらまずいし……。

「僕は一気にいくよ!
 さらに《スピック》を召喚」
 茶色でフサフサな大きな顔の鳥だ。

《スピック》
通常モンスター 星2/風属性/鳥獣族/攻 600/守 500
くちばしがとても大きく、大声で鳴き気の弱い相手を驚かせる。

「げげっ」
 明菜ちゃんがまずそうな顔をする。
 もしかしたら、このままいけるのかな。
 でも、また守備の高いモンスターだと怖いからここは……。

「蒼き翼でモンスターに攻げ……」
 僕が攻撃を出そうとすると、明菜ちゃんが慌てて止める。

「ちょ、ちょっと待った。
 本当にいいの? 攻撃したら、ガキーンでドカーンかもしれないよ?」
「え、え?
 よく分からないけど、やってみなくちゃ分からないよ」
「いやいやいや、もっと慎重かつ大胆にやらないと。
 だから今は……」
「僕は今は大胆にやるのがいいと思う!
 だから、蒼き翼で攻撃するよ!」
「ああ〜〜!!」

 伏せたカードに蒼き翼がせまって、その姿が暴かれる。
 そこにいたのは、かわいくて黄色い竜だった。
 小さく縮こまって、おびえている。
 蒼き翼に軽く翼ではためくと、飛ばされてしまった。
「あたしの《プチリュウ》〜〜」

《プチリュウ》
通常モンスター 星2/風属性/ドラゴン族/攻 600/守 700
とても小さなドラゴン。小さなからだをいっぱいに使い攻撃する。

「じゃあ、これで終わりかな?
 《ミラージュ》と《スピック》で攻撃!!」
 2体が攻撃をする。
 伏せられていた罠はめくられない。
 そのまま攻撃が通った。

あきなのLP:1600→500→0

 明菜ちゃんのポイントがゼロになって、僕のモンスター達も消えた。
 ゲームが終わったみたいだ。
 てことは、僕の……。

「はい、そこまでです。
 2人の最初のデュエルは翼くんの勝ちです」
 オーナー先生が僕の腕を取って(銀の腕輪に当たって音がした。そういえば対戦してからこの腕輪が少し熱っぽい気がする)、かけっこで勝った時みたいに手をあげさせる。
 僕の勝ちなんだ!!
「やったー!」

「うう……負けたー!!」
 明菜ちゃんが悔しそうに僕を見る。

「二人とも最初にしては、かなり面白いデュエルをしましたね。
 明菜ちゃんも最後のやり方は面白かったですよ」
「でも、おどかしてみたのに攻められちゃったぁ……」
「そうですね。あの戦術は相手にプレッシャーを与える心理戦というもので、
 実際のデュエルでもかなり有効に機能するときもあるやり方なのですが……。
 ちょっと甘かったですね。相手が勢いのあるときにやっても効果が薄いんですよ。
 もっと相手が動揺しているときや、やりにくいときにやってみるといいかもしれません。
 例えば《天空竜》がいるときに、罠を伏せていたら翼くんもためらったかもしれません。
 伏せていたのは《はさみ撃ち》ですから、どちらにせよ使えませんが重要な戦略ですよ」

「じゃあ、もうちょっとやり方を変えてれば、勝てたかもしれないの?」
「そのときのひとつひとつのやり取りが勝敗を分けるのがデュエルです。
 それに今の感触から考えて、カードを交換してみてもいいかもしれませんね」

「じゃあ、ひとまずもう一回! もう一回やろうよ! 翼くん」
 明菜ちゃんが目をきらきらさせながら、ディスクを構えてこっちを見る。
 僕は迷わずうなずいた。
「うん! 『デュエル』しよう!!」


 僕らはいつも一緒にデュエルをして、デュエルを学んだ。
「ねえ、あたしのこのカードはどうすれば使えるかな?」
「僕もこのアクイラを使ってみたい!」
「やや! 明菜ちゃん、そのカードは……。
 《希望に導かれし聖夜竜》? 私も見たことのないカードです……。
 効果は……。なるほど強烈ですが、扱いは難しいですね。
 二人ともまだまだ勉強しないと難しそうですねぇ……」

「ええー、どうすれば僕のアクイラを使えるの?」
「そうですね。まずこれは儀式モンスターと呼ばれる種類なんです。
 儀式モンスターは儀式魔法カードを使うことで特別に召喚できます。
 この《輝鳥-アエル・アクイラ》の場合は、《輝鳥現界》というカードが必要です」
「うーん、まずそのカードを手に入れなくちゃいけないんだ……」

「じゃあさ、あたしのは? あたしのは?」
「このカードは必要なカードも確かにレアなのですが、それ以上にデュエル中に条件を満たすことがかなり難しいですね……。
 デッキの構築のバランスとともに上手く使いこなすためにはそれ相応の腕を必要としますよ」

「うーん、やっぱりすごいカードで使いこなしにくいんだぁ……。
 でも、お小遣いは限られてるし、いつになったら使えるかなぁ」
「そうですねぇ。
 お小遣いを臨時にあげることはできないんですよ。
 かといって、お手伝いを拡張してお小遣いも難しいです。
 ここはえこひいきはできませんので……。
 なので強くなりたければ……、勝ち抜いたらどうでしょう?
 大会に出て良い成績を収めれば、賞金や参加賞ももらえるんですよ。
 大会参加費というのなら、イベント参加費という名目で私も出してあげます。
 最初のうちは負けるでしょうが、それこそ経験です。
 出場できるだけ出場してみましょう。
 そうすればこのカードを使うに相応しい腕もきっと付くでしょう」
 

 最初は本当に負けっぱなしだった。
 初戦でいつも負けては、観戦にまわっていた。
 でも、戦っているみんなはすごく真剣で、たくさん勉強になった。
 僕はほしいカードを一枚一枚手に入れていった。
 それだけじゃなくて、たくさんのカードを実際に使って覚えた。
 僕はずっと憧れていたんだ。デュエル・スターに。
 星の数ほどいるデュエリストの中で、周り一面を照らすほどの星になりたいって。
 デュエル・スターのイメージはこうだ。
 あらゆる戦術に精通し、どんなカードも使いこなす。
 その決め手はいつも斬新で、見る人達をワクワクさせる。
 すごく格好いいと思う。
 僕はそんな風に誰かを元気づけてみたい。
 だから、みんなが使いにくいとボックスに入れるカードも使おうとした。
 ひとつの思いつきがあれば、それだけでデッキを組んでみた。
 相手の戦術を真似てみたり、オーナー先生にたくさん聞いたり、
 明菜に対戦の練習に何度も付き合ってもらったり。
 明菜のデッキはいつの間にか『カウンター罠』が多くなっていった。
 その罠にたじたじにされるたびに、僕は激励されたんだ。
「ダメだよ。翼が一番苦手な相手を絶体絶命から倒せるくらいじゃなきゃ。
 手のうちを知っているあたしに勝てないようじゃ、まだまだだよ!」


 そうして明菜といつも一緒にいたら、からかわれたことがあった。
「2人とも付き合ってるの?」
 僕たちはその質問の指す所が分かっていた。
 でも、首をかしげてやりすごした。

「翼はね、恋人じゃなくて家族かな?
 恋人になるには秘密が必要だと思うの。
 ロマンを保つためには必要でしょ?
 それが翼とだとあんまりないというか……」

 僕も明菜は恋人のそれとは違う感じがした。
 多分、同じようなことを考えていたと思う。
 明菜と僕の間では、何かをためらったり恥ずかしく思うような、
 何となくもどかしいようなドキドキをそんなに感じないんだ。

「でもさ、かといって付き合うってどうすればいいのかな?」
 僕もそれがあまり分からなかった。
「分かんないなぁ。一緒にいるだけなら変わらないよね」
「じゃあさ、あれかな?
 恋人らしいことでもしてみれば、違うのかな?」
「えっ?」
 僕にはそんな発想がなくて、戸惑ってしまう。
 そんな僕のことをお構い無しに、明菜は続ける。

「ねえ、キスしてみる?」
 明菜が熱っぽく僕を見つめてくる。
 僕は、いつの間にか頷いていた。
 明菜が普段と違って見える。
 唇なんて注意深く見たことなかったのに。
 僕と明菜の背丈は同じくらいで、キスをするには……。
 顔を少し傾けて、そして近づいていけば……。
 胸が高鳴る。横顔が熱い。
 でも、僕も明菜も少しづつ顔を近づけて……。

 ドンっ。
 目を閉じた一瞬に、衝撃。
 僕は明菜に押された。
「や、ややや、やっぱやめよ!
 なんかどうしようもなく照れくさいよ。
 このドキドキが付き合うってことなのかな?」
 僕はわけも分からないまま、慌てふためく明菜を見る。
「やっぱ保留にしよ、保留!
 翼とはいつも一緒にいるのにこんな気持ちでいたら、わけ分かんなくなっちゃう!」

 それから僕たちが恋人になるという選択肢は保留のままだ。
 僕も明菜が恋人だったら……と考えるときはあるけど、
 何だか気恥ずかしくなって、結局は保留がいいかなと思ってしまう。
 そもそもこんなことを明菜は覚えているんだろうか?
 明菜から聞かないと、僕には分からない。


 そうして明菜と過ごして、たくさんデュエルしているうちに、僕らの背は伸びていった。
 新しいカードを手に入れて、いろんな戦術を知って。
 デュエルもどんどん勝てるようになっていった。
『幼少期の悲劇を乗り越えて……! 遂にプロの舞台に新たなヒーローが舞い降りる。
 エド=フェニックス!! ここにデビューだ!!!』
 僕らはいつもプロのリーグ中継を見ていた。
「あーこの前ルミナスに来てたよね、エドさん!
 対戦したけど、あっという間に負けちゃった。
 やっぱりすごいなー。僕も早く追いつきたい!!」

「喜んで下さい!!
 デュエル・アカデミア本校への進学ができるようになりましたよ!
 以前のアカデミア中等部への進学のときは、補助金が降りなかったのですが……。
 今度は専門学校として正式に補助金の申請が認められるそうです。
 翼くん、明菜ちゃん。やりましたね!
 あとは試験に合格するだけですよ! 二人ならまず間違いないでしょう!!」

 彼方に輝く星を目指して。
 僕の世界はどんどん広がっていくと思っていた。
 ――あの日が来るまでは。





第15話 孤児院ルミナス4-置いてきた影-<



 アカデミア入学試験にはようやくうかった。

 実技の方はちゃんと通ったけれど、問題は筆記。
 狭い環境でデュエルをしていたから、どうしてもカード知識が偏る。
 全国レベルで対戦している人とかはスラスラと解けたみたいだけど。
 効果テキストを読むことのできないプロの対戦ルールにも慣れてない。
 だから、明菜と俺はすごく苦戦することになった。
 どんなカードにも精通するデュエル・スターへの道はまだまだこれからみたいだ。

 アカデミアの始業は9月から。
 春に卒業した俺たちは始業までの期間を持て余して、ルミナスで過ごしていた。
 今がきっと、このルミナスで生活する最後の時間になると思う。
 アカデミアは全寮制になっている。帰省で立ち寄るくらいになるだろう。
 アカデミアへの補助金が認められたのは、デュエルが専門分野として広まったのとともに、寮生活によって自立した生活への一歩を踏み出せることも大きいみたいだ。
 そして、アカデミアを卒業したら、ここでお世話になるわけにはいかない。
 何かデュエルに関する職を見つけて、自分で生活しなくちゃいけない。
 今までこのルミナスから卒業していったお兄ちゃん達みたいに、一人で立派に。
 これからには胸が引き締まるような自由が待っている。

 ルミナスでは、俺たちがもう年長の方だった。
 俺と明菜が買い物から帰ると、最近入ってきた子がこっちに向かってくる。
 一緒にコタロも向かってきた。
 (コタロはもう犬の歳ではお年寄りみたいだ)
 すごく急いで駆け出してくる。
 何かまずいことでもあったのかな?
「翼兄ちゃん!! ねえ、エドさんが来てるよ!!」
「え、本当に!?」
 この子がこんなに興奮している理由が分かった。
 エドさんはデュエルする子供みんなの憧れなんだ。
 俺もエドさんにはすごく憧れてる。

 エドさんと会うのは、2年ぶりくらいになる。
 アカデミアに入ることになったという話を聞かされて以来だ。
 そうだ! 俺も明菜もアカデミアに入るという話をしなくちゃ。
 これからは先輩と後輩になるんだ!
 また、アカデミアに入るのが楽しみになってきた。
「今はオーナー先生と話してるよ! 早く終わらないかな〜」
「きっと寄付金とかの話をしてるのかな? エドさんはすごいよね」
 孤児院への寄付をする立派な人としても、俺たちはエドさんを尊敬していた。
 デュエルでみんなを勇気付けられて、さらに孤児院に恩返しする。
 俺もそんな格好いい大人になりたい。
 たくさん、エドさんからアカデミアのことを聞いて、強くなる方法を聞きたい!
 俺は話が早く終わらないかな、と待ち遠しく思っていた。

 ――そんなときだった。
「うわあああああ――」
「何!?」
 エドさんがいるはずの部屋から悲鳴が聞こえた。
 明菜も驚いて、こっちを向く。
 コタロがおびえてほえ始める。
「今の声、オーナー先生の部屋からだよね?」
「さっきの声……、調理の山下おじさん?
 何かあったのかも! エドさんも危ない!
 行ってみよう!!」
「でも、もし変な人が入ってきてたりしたら、あたしたちが行っても……。
 いや、だけど確かめなくちゃダメだよね!
 翼、近くまで行ってみよう!!
 あ、コタロのこと押さえておいてね。
 あたし達だけで様子を見てくるから」

 俺たちはおそるおそる奥のオーナー先生の部屋に向かう。
 悲鳴があったのに、しんとしていた。
 一体、何が起きたんだろう?
 ドアの前にスタンバイする。
 俺は消火器を、明菜はバットを持っていた。
 変な奴が相手でも俺たちが……。
 そう思って構えていた。
 ひとつも音を聞き漏らさないように。

「あれ? 全然音がしないね?」
「もう大丈夫なのかな? でも、それでも変だよ。
 誰もいないみたいに音がしないよ」
 少し離れたところで、コタロの吠える声だけが響いている。
「……開けてみる?」
 俺は明菜に提案する。
「うん、それしかないよね」
 明菜も頷く。
 俺たちはドアノブに手を伸ばす。
 そして、そっと開け放った。


 そこには誰もいなかった。
「あれ?」
 思わず間の抜けた声を出してしまう。
 事務のために整えられた、落ち着いた雰囲気のオーナー先生の部屋。
 ここには大人の人がみんな集まっていたはずなのに。
 みんないなくなっていた。
 窓も開いてないし、荒らされてもいない。
「いや、まだ安心できないよ。
 でも、おかしいよね……」
「入り口は俺たちがいた所しかない。
 でも、窓を開けて出て行くわけもないし。
 本当にいなくなったのかな?」
「ええー? でも、それしか考えられないよね。
 エドさんはどこに行ったんだろう?」
 辺りを見回す。特に変わったところはない。
 
 でも、何だろう。やけに胸騒ぎがする。
 さっきから銀の腕輪がかなり熱い。
 どうしてだろう。

「仕方ないから、戻ろっか?」
「うん……、俺たちがここにいても仕方ないね。
 あれ? カードが落ちてる」
 裏返されたそのカードを拾う。
「《D−HERO ダブルガイ》……?
 これってエドさんの『D−HERO』?
 エドさんがいたのかな」
 何かおかしいところがないか、と見る。

「翼、危ない! 後ろ!!」
「え?」
 俺は後ろを見る。
 そこに、細身の怪人がいた。
 紫がかった不気味な色のマフラーを巻いて、顔を隠している。
 その中で金色に眼だけが鋭く光る。
 ステッキを振りかざし、俺に――
「翼!! 伏せて!」
 明菜が男の背中から、肩めがけバットを振るう。
 俺は思わずかがむ。
 まさにそこに実物がいるかのような迫力。
 でも、透けるんじゃないかな?
 そう思った。
 何かのいたずらなんだ。
 きっと俺たちを驚かそうとした一芝居だ。
 多分、立体映像だから明菜のバットは空ぶって、俺の頭上を通り抜けるんだ。
 そう思ったのに……。


 鈍い、鈍い音がした。
 怪人はそのまま倒れこむ。
 嘘だ、まさか本当に……。
「そこにダブルガイがいる!?
 まさか誰かが変装してたの?
 じゃあ……まずいことしちゃった?」

 いや、違う。こんな体格の人はここにはいない。
 ましてあんな眼をした人なんて……。
 考えれば考えるほど、嫌な現実感がぬぐえない。
 怪人を注意深く見る。
 倒れたのかな?
「い、今手が動いたよ!??」
 わなわなと激しくけいれんし出す。
 電撃が走ったように、体が波打つ。
 何が、何が起ころうとしているんだろう。
 体つきが変わっていく。
 筋肉が内側から盛り上がり、髪がめくれ伸びていく。

 ――そうだ、これは2人目だ。
 ダブルガイは2つの人格を持っている。
 1度目は普段の格好で攻撃した。
 だけど、2度目は人格を交代させて――。
 
 俺がそれに気付いたときには、目の前に立ちはだかりこちらをにらむ大男がいた。
 さっきの2倍くらいの大きさ。とても、同じ者とは思えない。
 息を荒くして、さっきの復讐をしようと太い腕を振り上げる。
 だめだ、やられる!!
 俺はとっさに両手で消火器をかまえる。
 噴射しようとしても、間に合わない。
 この硬い消火器なら、あの太い腕も防げる。
 そのまま一直線に顔めがけて腕は振り下ろされる。
 でも、この消火器がへだてているから。
 今は防げるはず。

 消火器をぐにゃりと曲がり、腕にびしりと衝撃が走る。
 足までその衝撃が伝わる。
 耐え切れず吹き飛ばされて、転げまわる。
 いや、耐え切れなくて良かったんだ。
 こんな衝撃をまともに受けたら、体が壊れてしまう。
 憶測が甘い。
 あの腕は消火器よりも太く硬い。まるで丸太だ。
 まともに受けたらひとたまりもない。
 まだ攻撃は終わっていない。
 有り余る力を持て余している。
 荒い息が部屋を埋め尽くす。
 その迫力に後ずさる。
 もう防ぐ手段はない。
 逃げる隙もない。
 俺には何もない。
 このままやられるしか――

 ――嫌だ。
 俺にはまだやりたいことが。
 ポケットのデュエルモンスターズを手探りする。
 その感触を確かめる。
 俺は、デュエル・スターになりたい。
 みんなをワクワクさせることのできる星に。
 眼を閉じて諦めようとしている人の、心まで開かせるような。
 誰かを照らす光になれるように。
 全部のカードを知るんだ。
 そこから自分が見つけた可能性を伝えるんだ。
 だから、なんとしてでもこの先に行かないと。
 ここで打ち負かされたりなんか――
 
 
 パリン、と何かが弾ける音がした。

 光は鼓動する。
 まばゆく白く包まれる。
 眼に映る世界が突然移り変わる。
 万華鏡のように目の前が一瞬で様々に移り変わる。
 烈火がはぜ、大地がうねり、旋風がとどろき、流水がまきあがる。
 それは夢のように。イメージが移り変わる。
 違う世界を超速度で旅するように。

 視界は元の場所に戻る。
 そして、俺は守られていた。
 目の前に突き出た土柱に。
 その隣で大地の駝鳥(テラ・ストルティオ)が見守っていた。
「ストルティオ? これは、どうして……」
 思わず疑問を口にしてしまう。
 いや、でも俺は感じる。
 深くから湧き上がる温かな力を。
 体中をめぐり、感覚を研ぎ澄ます脈動。
 心臓がひとつひとつ動く度に、新しいことが分かるような。
 視界が開けていく。見えないものも感じられる。
 この部屋はただの部屋じゃない。
 そこかしこに黒い吹き溜まりが見える。
 これは触れてはいけないものに違いない。

「明菜! 今のうちに逃げなくちゃ。
 ここはおかしいよ。何かに取り込まれる!!」
 おびえてすくんでいた足も手も、今は思うままに動く。
 いや、確実に加速している。
 いつもより速く、力強く動ける。
 明菜に手を差し出す。
「翼、腕輪が……?
 う、うん! 早く出ようよ!!」
 明菜の手を掴み、駆け出す。

 重苦しい空気が、そのとき圧縮される。
「僕のショーから逃げないでくれないか」
 この声……? 俺は振り返る。
 誰もいない。
 でも、黒い塊が集まっていっている。
 その中心から声がする。
「ジョークだよ、君たちを傷つける気は少しもないんだ」
 そこからエドさんが現れた。
 いつもの白いスーツ。だけど、今は意地の悪そうな微笑み。
「違う! お前はエドさんなんかじゃない!!」
「フフフ。驚かそうと思っただけなのにな。
 力押しでいかない子が現れるとは……。
 大人だけ処理すればすぐ終わると思ったのに、とんだ計算違いだ」
「何を……何を言ってるの?」
「仕方ないから新しいショーを始めよう。
 君が一番大好きなショーを、一番素敵な形で。
 僕の『ショーマン・シップ』がうずくんだよ!!」
 エドさんは俺たちを見下すように愉快そうに笑う。
 そして、眼をとじて、指を優雅に天にかざす。
 パチン。
 指を弾いて合図をする。
 舞台が――本当に切り替わる。

 ここは……外?
 でも、さっきとはまるで天気が違う。
 空を雲がどこまでも覆い尽くし、生ぬるい風に撫でられる。
「翼兄ちゃん!! あ、エドさんだ!」
 孤児院の子どもみんながそこにいた。
 コタロもふるえながら、けたたましく吠えている。
「どうして……?」
「なぜって、ショーには観客が必要だろう。
 招待してあげたんだよ。
 さぁ、最後の劇をはじめよう」
 エドさんはどこからともなくディスクを取り出し、俺に投げつける。
「デュエルディスク?」
「そうだ。デュエルをしよう。
 君の精霊の宿るデッキでね」
「精霊……? 俺の?」
「銀の腕輪を壊す程の力を発揮しておきながら、とぼけるのか?」
 俺はとっさに腕輪を確認する。
 なくなっている……。
 いろんな光がかけめぐる直前に、何かがはじけて壊れる音がした。
 あのときに壊れたんだろうか?
 でも、今は不思議な力がわいてくるのを感じる。
 これならさっきみたいな奴が現れても、怖くはない。

「お前はエドさんなんかじゃない! 何者なんだ!!」
「僕は紛れもなくエド=フェニックスだ。どうして疑うんだ」
「あたしも分かるよ! 絶対に違う!!
 コタロは人見知りするけど、エドさんにはすぐなついていた!
 今はこんなに怯えて、震えている!
 別人だって分かってるんだよ!!」
「姿形も声も同じなのに疑うなんて、困った子たちだな。
 僕はこうしてここにいることしかできないし、参ったな」
「それに、何のためにこんなことを!」
「フフ。それを伝えるのは難しいけど、そうだな。
 『真実』を伝えるため、とでも言っておこうか」
「『真実』?」
「それとダメだな、オーディエンスを待たせては。
 ショーマンとして失格だ。
 そして、ショーマンは舞台で語るものだ。
 始めよう。君の運命の舞台を」
 エドさんはデュエルディスクを展開させる。
 俺にもデュエルディスクを投げつける。
「僕が先輩として、君がすべてを表現できるように手ほどきしてあげよう。
 さぁ……」
 デュエル……するしかないんだろうか。
 エドさんは何を考えているんだろう。
 俺の体に何か特別なことが起こってるんだろうか。
 何も分からないけど、今は従うしか――。


「 「 デ ュ エ ル ! ! 」 」

エド(?) VS 久白

「さて、僕の先攻だ。ドロー……。
 既に運命は決している。君に惨めな『真実』がつきつけられる運命がな!
 僕は手札より《デステニー・ドロー》を発動する。
 《D−HERO ディアボリックガイ》捨てて、2枚ドロー」

《デステニー・ドロー》
通常魔法
手札から「D−HERO」と名のついたカード1枚を捨てる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「《D−HERO ダイヤモンドガイ》を召喚!!
 そして、ダイヤモンドガイのエフェクト発動!
 デッキトップが通常魔法ならば、次の僕のターンに発動できる!」

《D−HERO ダイヤモンドガイ》
効果モンスター 星4/闇属性/戦士族/攻1400/守1600
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する時、
自分のデッキの一番上のカードを確認する事ができる。
それが通常魔法カードだった場合そのカードを墓地へ送り、
次の自分のターンのメインフェイズ時に
その通常魔法カードの効果を発動する事ができる。
通常魔法カード以外の場合にはデッキの一番下に戻す。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 エドさんはこの効果をはずしたことがない。そして、今回も……。
「デッキトップのカードは《ファイヤー・ソウル》。
 そして、僕のデッキには《ヴォルカニック・クイーン》のカードがある。

《ファイヤー・ソウル》
通常魔法
相手プレイヤーはカードを1枚ドローする。
自分のデッキから炎族モンスター1体を選択してゲームから除外する。
除外したモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える。
このカードを発動する場合、このターン自分は攻撃宣言をする事ができない。

《ヴォルカニック・クイーン》
効果モンスター 星6/炎属性/炎族/攻2500/守1200
このカードを手札から出す場合、相手フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げて
相手フィールド上に特殊召喚しなければならない。
1ターンに1度自分フィールド上に存在するこのカード以外のカードを1枚墓地に送る事で、
相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
また、自分のエンドフェイズ毎にこのカード以外のモンスター1体を生け贄に捧げなければ、
このカードのコントローラーは1000ポイントダメージを受ける。
このカードを特殊召喚する場合、このターン通常召喚できない。

 次の僕のターンに、君が1250のダメージを受ける運命が確定した」

「あんなカード……、あたしエドさんのデュエルで見たことがないよ。
 いきなり1250のダメージ……。 相手の先攻じゃあ防ぎようないよ!」

 明菜と他のみんながどよめく。
 それを見て、エドさんは愉快そうに笑う。
「まだ、僕のターンは続いている。
 これだけで驚いてもらっても困るな。
 僕は《デビルズ・サンクチュアリ》を発動!
 メタルデビル・トークンを1体生成する。
 そして、墓地より《D−HERO ディアボリックガイ》のエフェクト発動!
 もう1体の《D−HERO ディアボリックガイ》をデッキから特殊召喚する……」

《デビルズ・サンクチュアリ》
通常魔法
「メタルデビル・トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を
自分のフィールド上に1体特殊召喚する。
このトークンは攻撃をする事ができない。
「メタルデビル・トークン」の戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、
かわりに相手プレイヤーが受ける。
自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。
払わなければ、「メタルデビル・トークン」を破壊する。

《D−HERO ディアボリックガイ》
効果モンスター 星6/闇属性/戦士族/攻 800/守 800
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外する。
自分のデッキから「D−HERO ディアボリックガイ」1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。

 《D−HERO ダイヤモンドガイ》、メタルデビル・トークン、《D−HERO ディアボリックガイ》。3体のモンスターが1ターン目に揃えられる。D−HEROは個々の戦闘力はそんなに危険じゃない。でも、その展開力と高速回転はどんなデッキにも負けない。そこから、召喚困難なはずの切り札がすぐに呼ばれるのがその恐ろしさ。そして、3体の生け贄が揃えられたから、次に来るのは……。

「3体のモンスターを生け贄に捧げて
 ――カモン! 《D−HERO ドグマガイ》!!」

《D−HERO ドグマガイ》
効果モンスター 8/闇属性/戦士族/攻3400/守2400
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する「D−HERO」と名のついたモンスターを含む
モンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
この特殊召喚に成功した場合、次の相手ターンのスタンバイフェイズ時に
相手ライフを半分にする。

 黒の巨大な両翼が空を覆う。
 そして、堅く冷たい鎧で身を覆った戦士が舞い降りる。
 その右腕に巨大な刃をたずさえて。
 このフィールドはたった一人の戦士に支配される。
「僕はこれでターンエンドだ。
 待たせたな、君のターンだ」

「ドグマガイ……。
 俺のターン、ドロー……」
 このモンスターが召喚された。
 ということは、この瞬間――。
「――この瞬間、《D−HERO ドグマガイ》のエフェクト発動!!
 『ライフ・アブソリュート』!! 君のライフポイントは半分になる!」

 ドグマガイが天に向かって、刃をかざす。
 空が赤黒いドグマガイの魔力で支配されていく。
 そして、俺の立つ地面も赤く染まっていく。
 いや、場の雰囲気も魔法のプレッシャーで塗り替えられている。
 この重苦しい空気はなんだろう。
 赤は上昇し、視界が赤い光に包まれる。

 めまい。
 視界が暗くなり、膝が崩れる。
 体が急に重くなった。
 力をそのまま抜かれたみたいに――。
 息切れがする。

久白のLP:4000→2000

「これは……? まさかこれもソリッドヴィジョンじゃない……ッ!?」
 さっきのダブルガイみたいに本当にそこにいるような感覚。
 そして、実際に感じる痛みと脱力感。
「ようやく気付いたな、この舞台の素晴らしさに。
 でも、まだすごいことがあるんだ。
 周りを見渡してごらん」

「翼……、これは……何?」
 みんなが苦しんで、弱っていた。
 あのときの赤い光はまさか。

「観客のみんなも、実戦さながらの感覚を味わえる。
 理想的なショーだろ?」
「ふざけるな!! なんでみんなを苦しめるんだ!
 しかもエドさんの姿に化けて……。許さない!!」
 僕の怒りを、エドさん――いや、あいつは澄まして受け止める。
「許さないのは勝手だ。だけど、行動で示してもらおう。
 言葉を吐いても何もできないなら、ショーマンとしては3流だな。
 ほら、まだ君のターンだ」
「クッ……」
 何を言っても、無駄みたいだ。
 だけど、今のターンは打開策がない。
 ここは……。
「《霊鳥アイビス》を召喚。
 カードを2枚伏せて、ターンエンド」

《霊鳥アイビス
効果モンスター 星4/水属性/鳥獣族/攻1700/守900
このカードを生け贄にして儀式召喚を行った時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「いいのか? そんな平凡な一手で?
 じゃあ、僕のターンだ、ドロー。
 さて、忘れてはいないな?
 ダイヤモンドガイが未来に定めたエフェクトがここで発動する!!
 《ファイヤー・ソウル》のエフェクトだ!
 デッキより攻撃力2500の《ヴォルカニック・クイーン》を墓地に送る。
 さぁ……、1250ポイントのダメージを受けるがいい!」

 地面から炎の蛇がわき上がり、包み込む。
 龍の形をした《ヴォルカニック・クイーン》の残像。
 熱い。いても立っても居られないくらいに。
 もがいても、炎は上り詰めてくる。
「うわあああああああああ」

久白のLP:2000→750

 熱くて全ての感覚がなくなる。
 焦げた匂いが立ちこめて、鋭い痛みと痺れが全身をつらぬく。
 でも、少しずつその痛みはおさまり、俺はようやく立っていることができる。

「……《ファイヤー・ソウル》の効果だ。
 君は新たに1枚のカードをドローする。
 常人ならば、ここで倒れているところだ。
 ここで平気ということはやはり……。
 だが、ここで終わらせてやる。 既にチェックメイトだ!
 カードを2枚伏せて、マジックカード発動! 《ミスフォーチュン》!!
 さあ、君は不運に見舞われる。
 《霊鳥アイビス》の攻撃はそれて、君に当たってしまう。
 どうする?」

《ミスフォーチュン》
通常魔法
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える。
このターン自分のモンスターは攻撃する事ができない。

 あいつに攻撃を反射する光の壁が出現する。
 そこにアイビスが攻撃をしようとする。
「君のかわいいモンスターの攻撃で殺されるんだ。
 本望だろう? 意外とあっけない結末だったな。
 『ライト・インパルス』!!」
「やめろおお!!
 リバースカード発動! 《水霊術−「葵」》!!」

《水霊術−「葵」》
通常罠
自分フィールド上に存在する水属性モンスター1体を生け贄に捧げる。
相手の手札を確認し、カードを1枚選択して墓地に送る。

 攻撃をしようとしていたアイビスは消え去る。
 攻撃が失敗したのに、あいつは愉しそうに嗤う。
「対象を失った《ミスフォーチュン》は不発。  サクリファイス・エスケープ……。
 予想通りに回避してくれて、嬉しいよ。
 昔から君はそうやって生きてきたからね。
 精霊を自分のために犠牲にして」

「いきなり何を言って……る…の?」

「忘れて安穏と暮らしていたんだろ。
 君のために人も精霊も犠牲になった。
 それなのに君はこんなに夢にあふれて生きている。
 都合がいいね……」
「俺は……そんなことは……」
「君は銀の腕輪の保護から解き放たれてしまった。
 デュエルモンスターズとは現代のマジックアイテム。
 それに親しんでいれば、魔術の力に目覚めるのは当然か。
 これからはどんな風に精霊を利用するんだろうね?」
「俺は利用なんて……。
 それに力って一体……」
「フフフ……。
 分からないなら、発揮させてやろうか?
 いや、少しずつ君はもう発揮しているんだ。
 それにしたって、君は決断が遅いな。
 《水霊術−「葵」》の効果で、僕は手札を1枚捨てる。
 僕の手札にあるのは《ネクロ・ガードナー》。

《ネクロ・ガードナー》
効果モンスター 星3/闇属性/戦士族/攻 600/守1300
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

 このカードはセメタリーに置かれてこそ、本当の力を発揮する。
 墓地に送ってくれて、ありがとう。
 せっかく犠牲にしたのに、浮かばれないなぁ」

 唇が震える。あいつが言いたいことは……。
「何で……、お前はどうして俺のことを知ってるの?」
「僕は心の虚無(ダークネス)という『真実』と繋がっているからさ。
 君もダークネスを受け入れて、楽になるといい。
 さて僕はバトルをできないし、手札もない。ターンエンドだ」

エド(?)
LP4000
モンスターゾーン《D−HERO ドグマガイ》ATK3400
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2
手札
0枚
久白
LP750
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
4枚

「うう……。俺のターン、ドロー」
 かすかに覚えている。
 あのときはやっぱり俺が犠牲にしたの?
 この力が湧いてくるのは、やっぱり腕輪が壊れたから?
 そして、あの腕輪がなければ、もしかしたら俺はまた……。

「翼!!」
 明菜の声が響く。
 俺は意識を引き戻される。
「変な言葉に惑わされないで!
 翼が《ミスフォーチュン》をかわしたのは計算外のはずだよ!
 ここから挽回すれば、きっと流れを取り戻せる!」
 
 そうだ。相手のペースに飲まれちゃいけない。
 手札なら揃った。今ならいける。
 相手が何を知っていても、今はデュエルをしなくちゃ。
 これ以上、みんなを傷つけさせないために。
 それに――俺にはこいつ達がついている。
「俺は……《英鳥ノクトゥア》を召喚する!
 さらにノクトゥアの効果で《輝鳥現界》をサーチする。
 そして、儀式魔法《輝鳥現界》を発動!
 場からノクトゥアをデッキからアンセルを生贄に捧げて……」

《英鳥ノクトゥア》
効果モンスター 星3/風属性/鳥獣族/攻800/守400
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。

《輝鳥現界》
儀式魔法
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。

 そうだ。これが俺と闘ってきた仲間なんだ。
 そしてこれからも闘っていくんだ。
 まばゆい紅い光が収束していく。
 この濁った空を照らし出せ!!
「《輝鳥-イグニス・アクシピター》を召喚!!
 そして、アクシピターの効果発動!!
 『ルーラー・オブ・ザ・ファイア』!」

《輝鳥-イグニス・アクシピター》
儀式・効果モンスター 星7/光属性/鳥獣族/攻2500/守1900
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「炎」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

 あいつを炎が包み込む。
 それを涼しげに受け止める。
「ふふ……。少し痛いかな。
 だが、これくらいくれてやる」

エド(?)のLP:4000→3000

「まだだ! 俺はさらに《高等儀式術》を発動!
 デッキから、レベル7になるように生贄に捧げる!!
 俺は《冠を載く蒼き翼》と《音速ダック》を生贄に捧げて……」

《高等儀式術》
儀式魔法
手札の儀式モンスター1体を選択し、そのカードとレベルの合計が
同じになるように自分のデッキから通常モンスターを選択して墓地に送る。
選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。

 そして、これが一番大事なカード。
 あのときから、ずっと俺と一緒にいたカード……。

「来い! 《輝鳥-アエル・アクイラ》!!
 さらに効果だ。すべてを吹き飛ばすよ!
 『ルーラー・オブ・ザ・ウインド』!!」

《輝鳥-アエル・アクイラ》
儀式・効果モンスター 星7/光属性/鳥獣族/攻2500/守1900
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「風」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

 風がすべてのカードを吹き飛ばし、場のまとわりつくような空気をも変える。
 こいつがいてくれるなら、俺は大丈夫だ!
「2体目だと……ッ!
 だが、そのカードが現れることくらい想定していた。
 僕の伏せていたカードは《多重人格の憂鬱》、そして《超速回転の破片》!

《多重人格の憂鬱》
通常罠
セットされたこのカードが破壊され墓地に送られた場合、
自分フィールド上に「ダブルガイ・トークン」(戦士族・闇・星4・攻/守1000)を
次の自分ターンのスタンバイフェイズ時に2体特殊召喚する。

《超速回転の破片》
通常罠
セットされたこのカードが相手のカードの効果により破壊され墓地に送られた場合、
次の自分ターンのスタンバイフェイズ時に自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 この2つのカードは破壊されたときに、エフェクトを発揮する。
 次のターンが楽しみだ。せっかく君の伏せカードも犠牲にしたのに残念だったな。
 ……………。
 ん? なぜだ? なぜ破壊したのに、風がやまない!!
 お前は何をした!!」

「風はひとつだけじゃない。
 俺はリバースカードを発動していた。
 それは《イタクァの暴風》!!
 お前のモンスターを守備表示に変える!」

《イタクァの暴風》
通常罠
裏側表示以外の相手フィールド上モンスターの表示形式を全て入れ替える。
(攻撃表示は守備表示に、守備表示は攻撃表示にする)

「なんだとッ!?」
 暴風に巻き上げられて、ドグマガイは翼を折りたたみ守備体勢をとる。

《D−HERO ドグマガイ》 ATK3400→DEF2400

「伏せカードはない! そして、俺の場には2体の輝鳥! バトルだ!!
 アクシピター! 『シャイニング・フレアクロー』!!」
「クッ、通さない! 《ネクロ・ガードナー》のエフェクトだ!
 その攻撃を止める!!」
「だけど、次の攻撃は通る!!
 アクイラ! 『シャイニング・トルネードビーク』!!」
 鋭いくちばしで突撃して、破壊する。
「俺はこれでターンエンドだ」


「なかなか楽しませてくれるな、僕のターンだ、ドロー。
 フフフ。とことん苦しんで虚無に打ちひしがれたいようだな。
 いいだろう。さぁ、僕は破壊されたカードのエフェクトを受ける。
 カードを2枚ドロー。そして、ダブルガイ・トークンを2体特殊召喚する。
 そして、再びセメタリーの《D−HERO ディアボリックガイ》のエフェクトを発動!
 デッキから最後の《D−HERO ディアボリックガイ》を場に特殊召喚する。
 そしてまた、3体の生贄が揃った……。
 新たなる運命のHEROが再び降臨する。
 3体のモンスターを生贄に捧げ――」

 アクイラが振り払った雲が、再び集まってくる。
 赤黒いひずみがあいつの場に現れる。
 まるで血の吹き溜まり。

「現れよ! 《D−HERO Bloo−D》!!!」
 そこからぬるりと、悪魔を形どったダーク・ヒーローが現れる。
 龍のような右腕と尾。こうもりのような破れた翼。
 あちこちに鋭い爪で武装されて、突き刺さんとするばかりだ。

《D−HERO Bloo−D》
効果モンスター 星8/闇属性/戦士族/攻1900/守 600
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在するモンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
相手モンスター1体を指定してこのカードに装備する
(この効果は1ターンに1度しか使用できず、同時に装備できるモンスターは1体のみ)。
このカードの攻撃力は、装備したモンスターの攻撃力の半分の数値分アップする。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
相手フィールド上に表側表示で存在する効果モンスターは全て効果が無効化される。

「そして、《D−HERO Bloo−D》のエフェクト発動!
 君の場のモンスターを吸収して、半分のATKを得る!
 僕は《輝鳥-イグニス・アクシピター》を選ぶ!
 『クラッディ・ブラッド』!!」

 片翼を広げて、魔力のオーラを放つ。
 アクシピターはその中に取り込まれてしまう。
「アクシピター!!」

《D−HERO Bloo−D》 ATK1900→3150

「この翼には無数の悪夢が詰まっている。
 君もこの中に取り込まれてしまえば、楽になる。
 さあ、バトルフェイズだ。
 この《D−HERO Bloo−D》は幾千の血の結晶の刃を放つ。
 さっきのドグマガイのようにそいつらも巻き込んでな。
 さあ、どうやって受け止める?
 『ブラッディ・フィアーズ』!!」

 その眼が金色に光る。
 そして、破れた翼が生き物の棲む沼地のようにドクリと波打つ。
 まずい。攻撃が来る。
 今度こそ、みんなが危ない!!
「迎え撃て!! アクイラ!!! 風を起こすんだ!」
 幾千の血の刃が放たれる。
 アクイラは竜巻を起こして、逸れさせて巻き上げる。
 地面に突き刺さる生々しい血塊。
 俺たちを囲むように血の剣山ができる。
 だけど、誰も傷つけさせやしない!!


「……………。
 驚いたな。半分のガキどもは消し去ろうと思ったのに。
 みんな生存とはな。
 精霊はもうほとんど力は残ってないが、見事なもんだ」
 アクイラは力を使って、墓地に還る。

久白のLP:750→100

「生きる意志と守る意志。
 それが発揮されれば、本能的に力を操ることができる。
 精霊のエナジーを現実干渉能力として変換できるのか……」
「さっきから何を言ってるんだ。
 俺の力って何だよ!?」
「自分でほとんど自在に操っておきながら、分からないのか。
 そのお前を今守った力だよ。
 僕は君を2度ダークネスの世界に帰そうと攻撃した。
 1度目はダブルガイで攻撃したとき。
 2度目はBloo−Dで攻撃したとき。
 すべて幻影のぶつかり合いなどではない。
 本物の力と現象のぶつかり合いだったんだ。
 お前は実際に土の成分を圧縮して盾を作り、そして今竜巻を起こした。
 僕とは別の原理で力を具現化させているんだ」

 ……………。
 あのとき大徳寺さんは言っていた。
 俺には何か特別な力があるんだって。 
 確かに今は伝わってくる。
 カードの精霊がどんな能力を持っているかの情報。
 どれだけの力が残っているかの情報が。
 そして、どうやってその力を使えばいいかが。
 どうしてこの力が今また目覚めて、使えるかは分からない。
 でも、俺が精霊達の力を借りてみんなを守らなくちゃ。

「カードを2枚伏せて、ターンエンドだ。
 お前のターンだ」

「俺のターン、ドロー!!」
 今はデッキの流れと意志が分かる。
 次の展開、精霊達の望むこと、今やらなくちゃいけないこと。
 アクイラはさっき風を起こしたことで、ほとんど力を使い果たした。
 だけど、この方法ならばアクイラに負担をかけずに……。
 アクイラもうなずいてくれる。
 この一撃で決める!!
「儀式魔法発動!! 《星の供物(ステラ・ホスティア)》!
 蒼き翼、音速ダック、アイビス、ノクトゥアを墓地から除外する。
 これで輝鳥を再び儀式召喚するよ!
 来い!! 《輝鳥-アエル・アクイラ》!!!」

星の供物(ステラ・ホスティア)
儀式魔法
自分の墓地から儀式モンスター1体を選択する。
その儀式モンスターと種族が同じモンスター4体を
墓地から除外することで、選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。
(この特殊召喚は儀式召喚扱いとする)

「墓地からの儀式召喚だと?
 だが、Bloo−Dに支配された場では効果は発動できない。
 おまけに精霊としての力もほとんど使い果たした奴を呼んで、何のつもりだ?」
「そう……。もうアクイラには負担をかけられない。
 だから、使うのはアクイラの力じゃない。
 使うのはお前のBloo−Dの力だ!
 手札より魔法カード発動! 《フォース》!!」

《フォース》
通常魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター2体を選択して発動する。
エンドフェイズ時まで、選択したモンスター1体の攻撃力を半分にし、
その数値分もう1体のモンスターの攻撃力をアップする。

《輝鳥-アエル・アクイラ》 ATK2500→4075
《D−HERO Bloo−D》 ATK3150→1575

「なにぃ……!!」

「さらに墓地から《兵鳥アンセル》の効果を発動!
 アンセルを除外することで、アクイラの攻撃力をアップ!」

《兵鳥アンセル》
効果モンスター 星4/風属性/鳥獣族/攻1500/守1400
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在する
鳥獣族モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも使用できる。

《輝鳥-アエル・アクイラ》 ATK4075→4475

「攻撃力4475だと!?」
「いや、まだだ! 速攻魔法《異次元からの埋葬》を発動!
 アンセルを墓地に戻して、もう一度攻撃力をアップさせる!!」

《異次元からの埋葬》
速攻魔法
ゲームから除外されているモンスターカードを3枚まで選択し、
そのカードを墓地に戻す。

《輝鳥-アエル・アクイラ》 ATK4475→4875

 Bloo−Dとアンセルから力をもらって、アクイラがすさまじい光を放つ。
 光が火花のように散って、暗く染まった空を照らす。
 もうみんなを傷つけさせやしない。
 この一撃で決めてみせる。その正体も明かしてやる。

「お前のライフは3000! これで削りきれる!
 いっけえ! 『プラスフォース・シャイニング・トルネードビーク』!!!」

 目にもとまらないスピードで、Bloo−Dに突撃する。
 ぶつかったときに光がはじける。
 一瞬、周りが何も見えなくなる。
 倒したのかな?
 これでやっと……。

 光がおさまって現れたのは、黒ずくめの男だった。

「……罠カード《D-チェーン》を発動した。
 攻撃力を500ポイントアップさせた……。

《D-チェーン》
通常罠
このカードは攻撃力500ポイントアップの装備カードとなり、
自分フィールド上の「D−HERO」と名のついたモンスターに装備する。
装備モンスターが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
相手ライフに500ポイントダメージを与える。

エド(??)のLP:3000→200

「やれやれせっかくいい演技をしてきたと思ったが、明かされてしまったようだな」
「お前は……何者なんだ」
「私は固有の存在ではなく、名前を持たない。
 だが、君たちに真実を伝える者として、ミスターTとでも名乗っておこうか」
「T……?」
「君は真実を何も知らない。
 だが、君には真実に近づく力がある。
 悪いが、ここで消えてもらおう」
「でも、俺の場にはアクイラがいる。
 やられたりなんかしない!
 ターンエンドだ」

「私のターンだ、ドロー!
 ふぅむ。君にはこれまでのお礼をする必要がありそうだな。
 君の心の闇の真実を教えてやろう……」

 場が再び暗黒に包まれる。
 その暗闇が濃くなって、もう何も見えなくなる。

 そして、見えたのは――吹き荒れる嵐の災厄だった。
 全てを奪う音がする。
 その中で、ただ一人俺だけが守られていた。
 そこにたくさんの声が聞こえる。
「どうしてお前だけが……。
 誰も助からないのに助かるんだろうねぇ?」
「あの子は呪われてるから助かるんだよ。
 どんなものからも力を奪える呪われた力があるんだ。
 すごいよ。略奪の申し子だ」
「そういえば、あの子は一人だね。
 親を見捨ててでも助かろうと言うんだね」
「自分のために何でも利用できる力があるからね。
 親から奪う事なんて別に些細なことなんだよ。
 むしろしがらみがなくなって、嬉しく思ってるんじゃないか?
 誰にもしかられることなく、人から奪うことができるんだから。
 他の人はこの子の能力を知らないからねぇ。
 何をされても分からないだろうに」
「ねえ、ひょっとしてこの嵐もあの子が起こしているんじゃないのかい?
 だって、あの子だけを避ける天災だなんてあり得ないだろう?」
「なら、こいつだけ無事なことも納得できる。
 酷い子どもだなぁ。まさに悪魔の子だ」
「これからもたくさんのものを奪って、のうのうと生きていくんだよ。
 自分だけの幸せ。そして、自分の罪悪感を濁すための偽善。
 無邪気に見せかけて、腹の底では何を考えてるか分かったもんじゃないよ」
 
 やめて……。やめてよっ!!
 思わず叫ぶ。すると、視界がガラスのように割れる。


 ここはスタジアム?
「待望のルーキー!! 久白翼選手!
 ここでデビューだ!!!」
 そうだった。俺は今日プロデビュー戦だったんだ。
 ここからデュエル・スターの一歩を踏み出すんだ。
 そして、デュエルの楽しさを世界に伝えるんだ。
 どんな人もデュエルで繋がれるって訴えかけるんだ。
 よし、デュエル開始だ!
 いくぞ!!! あれ? おかしいな?
 カードの絵柄が見えない?
 どうしてだろう?
 あ、でもアクイラだけは見える?
 アクイラ、みんなどうしたんだよ!!
「私は空を飛んでいたいだけなのに。
 君は私の翼をしばりつけた。
 そして、君が私を殺したんだ」
 あ……く…………い……ら?
「誰もいないだろう?
 それはみんながお前を怖がっているからだ。
 誰だって自分の嫌いなヤツに、無理矢理力を奪われるのは嫌なのだ。
 こうしてみんなの恨みが君に巡り還る。
 お前は誰もかれもに見捨てられて、死んでしまえ」

 俺は……俺は…………。


「フフフフフ。君が生きるとは即ちそういうことだ。
 我々の虚無を受け入れて、何も考えなければいい。
 そこには苦痛も快楽も、希望も絶望もない。
 すべてが等価値で、あるのは心地よい一体感だけだ」
 
 視界が現実に戻る。めまいがする。
 アクイラ……、そんな……。
 精霊の声を聞くのが怖い……。
「フフフ。さて、そろそろ終わりにしよう。
 最高の終わりを迎えさせてあげよう」

ミスターT
LP200
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
1枚
久白
LP100
モンスターゾーン《輝鳥-アエル・アクイラ》ATK3300
魔法・罠ゾーン
なし
手札
0枚

「リバースカードオープン。《チェーンマテリアル》。
 このターン攻撃はできないが、あらゆる場所から融合できる。
 そして、もちろん《融合》を発動!
 墓地のBloo−Dとドグマガイを除外融合……。
 来い! 《Dragoon D−END》!!!」

《融合》
通常魔法
手札またはフィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

《Dragoon D−END》
融合・効果モンスター 星10/闇属性/戦士族/攻3000/守3000
「D−HERO Bloo−D」+「D−HERO ドグマガイ」
このモンスターの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
1ターンに1度だけ相手フィールド上のモンスター1体を破壊して
そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
この効果を使用したターン、バトルフェイズを行う事ができない。
このカードが自分のターンのスタンバイフェイズ時に墓地に存在する場合、
墓地の「D−HERO」と名のついたカード1枚をゲームから除外する事で
このカードを特殊召喚する事ができる。

 Bloo−Dが龍の鎧で覆われて、再び現れる。
 
「私が攻撃するのは、お前ではない。
 アクイラ自身だ。この意味が分かるな……。
 そいつはもう自身の力が残っていない。
 君が力を奪って使ったからな。
 ひねりつぶして、綺麗に亡くしてやろう。
 『デストラクション・エンド』!!」

 腹部の龍の眼が金色に光る。
 すると、アクイラが内部から光り出す。
 まさか……やめろ。

「爆発。永遠にお別れだ」

 やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 アクイラのカードは砕け散った。
 そこで、俺の意識が途絶えた。

久白のLP:100→0



 ぷかり……ぷかり。
 真っ黒な海が広がっている。
 そこで浮いている。
 ぬるくて気持ちいい。
 何もない灰色の空が広がっている。
 このまま溶けてなくなるんだろう。
 何もかもが一つになって、何も感じなくていいんだ。
 誰かの気持ちを考えて、つらくなることなんてないんだ。

「おや、こんなところでキミと会うなんてね。
 いろんな魂が浮かんでるなぁと思ったけど、まさかキミまでいるなんて」

 あれ? 誰だろう。 話しかけてくるのは。
 女の人? 男の人? 悪魔? あれ、龍にも見える。
 ぼやけていてよく見えないや。

「あれ? ボクのことを忘れてしまったのかい?
 この体をキミが忘れるわけがないだろう?」

 体? ああ……、でもこの感触は知っている気がする。
 何も通さないくらい硬いけど、すべてを受け入れるくらい柔らかい。
 不思議な感触。

「そうか。キミも十代みたいに前世を知らないんだね。
 じゃあ、仕方ないか。」

 俺を知ってるなら……君も俺を憎いの?

「ん? それは難しい質問だねぇ……。
 ボクは今までキミを恨んでいいか感謝していいか分からなかったんだ。
 だって、キミはボクにすごく酷くて痛い思いをさせたからね。
 でも、十代の愛に包まれてからね。キミに感謝してもいいかなとも思うんだ」

 前世? 感謝?

「どうせキミもあのダークネスに変なことを吹き込まれてここにいるんだろう?
 あんなヤツの言うことなんて、何も信じなくていいよ。
 勝手なことを並べ立てているだけなんだからね。
 事実が一つあれば、その解釈なんていくらでも存在するんだよ」

 でも……、俺は……。

「ボクには十代から愛してもらえる未来があるからね。
 この未来を確信しているから、どんな過去も今は愛おしいよ。
 だって、全部が十代と一緒にいられる未来につながるんだからね。
 キミだって、自分の信じたいものを突き通せばいいんだ」

 信じられるなんて、すごいな。
 俺にはできそうにないや。

「フフフ。今は疲れているんだね。
 じゃあ、ゆっくり考えるといいよ。
 ダークネスに包まれた世界はすぐに終わるから。
 ほら、力強い声が聞こえるだろう?」

「みんな! 聞こえるか!!
 俺の声が届いているか?
 見るんだ! お前達が握ったカードを。
 たった一枚でいい! きっとそこにあるはずだ。
 そのカードを使って、いろんな奴と戦った記憶が。
 最初は何の変哲もないただのカードだったはずだ。
 それが誰かと闘う度に、闘った奴と分かち合う喜びや悲しみ。怒りや憎しみ。
 その記憶がカードには染み込んでいく。
 それはお前達が頑張ってきた歴史なんだ。
 それこそが絆なんだ。
 だから信じろよ。自分達のカードを。
 思い出せよ。そのカードで闘った奴らの顔を。
 そいつらこそが本当の仲間さ。
 つらくなったとき、俺たちの未来を支えてくれる。
 カードを信じる限り、いつだって独りなんかじゃない。
 未来に絶望なんてするな。
 俺たちは何にもやり遂げちゃいないじゃないか!!!」

「ああ、ボクの愛しい十代はやっぱり世界を救ってくれたんだね。
 ほら、手を伸ばして、キミの信じたいカードを掴むといい」

 アクイラ。でも、アクイラはもう……。

「おや、大事な精霊を壊されてしまったのかい?
 それじゃあ手に取りようがないよね。
 まったく前世はあんなにたくましかったのに、だらしないなぁ。
 仕方ないな。ボクの力で治してあげるよ。
 フフフ。ボクって親孝行だなぁ」

 アクイラが……、アクイラが戻った!!

「フフフフフ。良かったねぇ。
 さあ、こんな辛気くさい場所は早く出ちゃおうよ。
 縁があればまた会えるかも知れないね。
 きっとそのときは新しい戦いが待ってるだろうけどね。
 じゃあね。ボクは十代のところにいくよ。
 キミはキミで幸せに暮らすといい」

 カードを掴むと、光に包まれた。

 俺は再びスタジアムのまぼろしに帰った。
 そうだ。俺はまだ何もしていない。
 こんなにやりたいことがたくさんあるのに。
 たくさんあるんだ。知りたいことも、伝えたいことも、いっぱい。
 俺の力が何かを奪ってしまうのなら、それを使わなければいい。
 俺がいつも強い意志を持って、そんなことはさせない。
 みんなの声を全部聞くから、誰も傷つけたりしないから。
 お前たちの力を使うのは、誰かを傷つけさせないために必要なときだけだ。
 もう銀の腕輪の保護はなくなってしまった。
 この自由は少し怖いけれど、みんな……それでいいかな?
 ねえ……、アクイラ?
「私たちはいつだって翼の仲間だ。
 翼が慕ってくれれば、いつでも私たちはできるだけの力を授けよう。
 君が優しさを持つ限り、何も恐れることはない。
 君は君の守りたいものを守るんだ。
 そのために躊躇してはいけない」
「ありがとう、アクイラ。
 俺はまっすぐに羽ばたいてみせるよ」

「俺は《帝鳥ファシアヌス》を召喚する。
 さらに、手札より儀式魔法《輝鳥現界》を発動!
 呼び出すのは――俺のフェイバリットカード、《輝鳥-アエル・アクイラ》!!」
 風が収束する。
 世界が光に満ちていく。





 そして、まぼろしと夢は途絶える。

 明菜がそばにいない今に帰る。


 俺の守りたいもの。それを守るために俺は――。
 だけど、それを守ることは同時に明菜のゆずれないものを――。
 俺は、どうすれば……。


―――― ――― ―― ―


第2章 「魂の変質」に続く...

第2章(16話以降)はこちらから





章末特集1 簡易人物紹介



【メイン】:いつも出てくる

久白 翼(くしろ つばさ)
男/アカデミア1年/オシリス・レッド
使用デッキ:輝鳥(シャイニングバード) デッキ
所属カテゴリ:【鳥獣族】【光属性】【儀式召喚】
本編の主人公。元気、活発、素直。子どもっぽいが感受性は高い。
風の災厄に遭い、孤児院ルミナスで育った。夢はデュエル・スター。
カードの精霊の能力を取り出して使うことができる不思議な少年。

陽向居 明菜(ひむかい あきな)
女/アカデミア1年/オシリス・レッド
使用デッキ:ドラゴン・パーミッション デッキ
所属カテゴリ:【ドラゴン族】【光属性】【融合召喚】
本編のヒロイン。好戦的、強気、お人好し。
水の災厄に遭い、翼と同じく孤児院ルミナスで育った。
《希望に導かれし聖夜竜》のカードを所持している。

藤原 優介
男/アカデミア3年(ただし、年齢は20歳以上)/オベリスク・ブルー
使用デッキ:エンジェル・ビートダウン デッキ
所属カテゴリ:【天使族】【光属性】【ライフ回復】
【光属性】カテゴリの代表。慎重、生真面目、隠れナルシスト。
過去に「カイザー亮」「ブリザードプリンス吹雪」と並ぶ
デュエルの貴公子として、その才能には一目置かれていた。
かつてダークネスの力に魅入られ、学園を危機に陥れた。
現在は改心して、先輩として信頼されている。
カードの精霊オネストと強い絆で結ばれている。

早乙女 レイ
女/アカデミア2年(飛び級したため、まだ14歳)/オベリスク・ブルー
使用デッキ:ミスティック・ファンタジー デッキ
所属カテゴリ:(種族無し)【光属性】【ライフ回復】
【光属性】カテゴリの副代表。活発、意地っ張り、世話好き。
2年前のジェネクス大会準優勝の功績により、アカデミアに編入。
ボーイッシュなファッションを好むが、恋愛を何よりも重要視する。


【サブ】:よく出てくる

斗賀乃 涯(とがの がい)
男/アカデミア教員/年齢不詳
使用デッキ:???
精霊学を担当している神秘的な容貌をした男性。


【モブ】:たまたま出てきた

シルキル 男/不審者/年齢不詳 使用デッキ:ゴブリン? デッキ
イルニル 男/不審者/年齢不詳 使用デッキ:融合? デッキ
チルヒル 男/不審者/年齢不詳 使用デッキ:ガガギゴ! デッキ
いずれも正体不明の謎のサイエンティスト。

鏡原 英志(かがみはら えいじ)
男/孤児院オーナー/現在61歳
使用デッキ:ほとんどのデッキを使いこなせる
久白や陽向居の育った孤児院ルミナスのオーナー。
心優しく、話し好き、子供好き。
プロデュエリストの開祖として有名であり、
かつてデュエル・スターとして尊敬を集めていた。

ティラノ剣山
男/アカデミア3年/ラー・イエロー
使用デッキ:迫力満点ザウルス デッキ
所属カテゴリ:【恐竜族】【地属性】【上級モンスター】
恐竜を心から愛するデュエリスト。兄貴体質。
かつては不良だったが、現在は学園の秩序を守る。
豪快な性格だが、気配り上手で抜け目がない。

丸藤 翔(まるふじ しょう)
男/アカデミア卒業生/新プロリーグ開催準備中
使用デッキ:サイバー流+ビークロイド デッキ
丸藤 亮の弟であり、サイバー流デッキの継承者。
兄の療養生活を手伝いながら、新たなプロリーグ開設の準備をしている。
まだまだ他人頼りでお調子者なところもあるが、目下成長中。

黒永 司(くろなが つかさ)
男/アカデミア1年/ラー・イエロー
使用デッキ:破滅剣士 デッキ
所属カテゴリ:【戦士族】【闇属性】【装備魔法】
ひねくれ者の孤高デュエリスト。

孤宇月 唯那(こうづき ゆいな)
女/アカデミア1年/ラー・イエロー
使用デッキ:マジックエルフ デッキ
所属カテゴリ:【魔法使い族】【闇属性】【魔力カウンター】
クールで快楽主義の戦略マニア。

兼平 子規(かねひら しき)
男/アカデミア2年/オベリスク・ブルー
使用デッキ:グレ兄貴!目指せ花園! デッキ
所属カテゴリ:【戦士族】【地属性】【通常モンスター】
陽向居をいつも見守っている。

柚原 正美(ゆずはら まさみ)
女/アカデミア2年/オシリス・レッド
孤宇月を心よりお慕い申し上げている。





章末特集2 久白翼の仲間達


オリカ満載で読者を泣かせる主人公のデッキを紹介&まとめ。


―輝鳥 (シャイニングバード 日本語読みならばキチョウ)
古来の「世界は四元素から成立する」とする四元素説と
鳥を神の使いと崇める習慣からデザインされている。
古代信仰が源流のため、名称はすべてラテン語を元にしている。

儀式召喚に成功したときのみ、効果が発動する。
なお、効果はすべて強制効果である。
また、光属性以外にそれぞれの属性を併せ持つ。

〜四属性の輝鳥〜  ステータス:星7/鳥獣族/攻2500/守1900
名前ラテン語意味効果
輝鳥-テラ・ストルティオTerra Struthio大地のダチョウ自分の墓地の鳥獣を復活
輝鳥-アクア・キグナスAqua Cygnus流水のハクチョウ場のカードを手札・デッキに戻す
輝鳥-イグニス・アクシピターIgunis Accipiter烈火のタカ相手に1000ダメージ
輝鳥-アエル・アクイラAer Aquila旋風のワシ魔法・罠全て破壊

《輝鳥-テラ・ストルティオ》
儀式・効果モンスター 星7/光属性/鳥獣族/攻2500/守1900
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、自分の墓地の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。

《輝鳥-アクア・キグナス》
儀式・効果モンスター 星7/光属性/鳥獣族/攻2500/守1900
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「水」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上のカード2枚を選択し、
1枚をデッキの一番上に、もう1枚を持ち主の手札に戻す。

《輝鳥-イグニス・アクシピター》
儀式・効果モンスター 星7/光属性/鳥獣族/攻2500/守1900
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「炎」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

《輝鳥-アエル・アクイラ》
儀式・効果モンスター 星7/光属性/鳥獣族/攻2500/守1900
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「風」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

〜超属性の輝鳥〜  ステータス:星10/鳥獣族/攻3000/守2500
※四属性の輝鳥のうち1体を場から生け贄にしなければ、儀式召喚できない。
名前ラテン語意味効果
輝鳥-ルシス・ポイニクスLucis Phoenix光輝の不死鳥相手モンスター全て破壊

《輝鳥-ルシス・ポイニクス》
儀式・効果モンスター 星10/光属性/鳥獣族/攻3000/守2500
このカードは「輝鳥現界」の効果によってのみ降臨できる。
このカードを「輝鳥現界」により降臨させるとき、
フィールドから生贄に捧げるモンスターは、
「輝鳥」と名のつくモンスターでなければならない。
このカードの属性はルール上「風」「水」「炎」「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、
相手フィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する。

輝鳥は《輝鳥現界(シャイニングバード・イマージェンス)》という儀式魔法により降臨する。
これは手札からモンスターを生贄に捧げることができず、
代わりに場とデッキから1枚ずつモンスターを生け贄に捧げる特殊な儀式魔法。
デッキから生贄を選択できるため汎用性は高く、墓地を肥やしやすい。
ただし、輝鳥のレベルは7か10であり、
考えた上でデッキを練らないと、召喚は難しい
(3+4=7、7+3=10など)。

《輝鳥現界》
儀式魔法
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。


―聖鳥 シリーズ
神秘的な力を帯びた鳥獣族の下級モンスター群。
サポートの効果が多く、特にドローやサーチに関する効果が多い。

(五十音順にて紹介。読み方はすべて音読み、子音kstnhmr+ei)
名前種類属性レベルステータス効果
英鳥ノクトゥアフクロウ☆3攻 800/守 400輝鳥を手札にサーチ
恵鳥ピクスキツツキ☆3攻 100/守 50戦闘ダメージ回避
聖鳥クレインツル☆4攻1600/守 400蘇生時にドロー
帝鳥ファシアヌスキジ☆4攻1800/守1200鳥獣を場から手札に
寧鳥コロンバハト☆3攻  0/守2000被破壊時にドロー
兵鳥アンセルガン☆4攻1500/守1400鳥獣のATK 400アップ
命鳥ルスキニアナイチンゲール☆3攻 500/守 400下級鳥獣を場にサーチ
霊鳥アイビストキ☆4攻1700/守 900儀式時にドロー

《英鳥ノクトゥア》
効果モンスター 星3/風属性/鳥獣族/攻800/守400
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。

《恵鳥ピクス》
効果モンスター 星3/光属性/鳥獣族/攻100/守50
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
このターン、コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

《聖鳥クレイン》
効果モンスター 星4/光属性/鳥獣族/攻1600/守400
このカードが特殊召喚した時、このカードのコントローラーはカードを1枚ドローする。

《帝鳥ファシアヌス》
効果モンスター 星4/地属性/鳥獣族/攻1800/守1200
自分フィールド上に存在する鳥獣族モンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す。
この効果は1ターンに1度、自分のターンのメインフェイズ時のみ使用できる。

《寧鳥コロンバ》
効果モンスター 星3/地属性/鳥獣族/攻0/守2000
自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

《兵鳥アンセル》
効果モンスター 星4/風属性/鳥獣族/攻1500/守1400
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在する
鳥獣族モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも使用できる。

《命鳥ルスキニア》
効果モンスター 星3/火属性/鳥獣族/攻500/守400
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを生贄に捧げる事で、
自分のデッキまたは墓地からレベル4以下の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果により「命鳥ルスキニア」を特殊召喚することはできない。

《霊鳥アイビス》
効果モンスター 星4/水属性/鳥獣族/攻1700/守900
このカードを生け贄にして儀式召喚を行った時、 自分のデッキからカードを1枚ドローする。





第2章(16話以降)はこちらから






戻る ホーム 次へ